2020.03.18
2021.08.20
2021.02.25
「人間は考える葦である」と言ったのはフランスの哲学者、パスカル。人間なんて、自然のなかにあっては、最も弱いもののうちの一つに過ぎないが、「考える」ことができる能力をもった偉大な存在である、という意味だ。
ではなぜ、私達は考える=学ぶのだろう? 知らなかったことを知る、できなかった計算ができるようになる、絵を上手に描けるようになる、25mを泳ぎ切ることができた……もしかすると、そうした事実そのものには、大した意味はない。「できた!」「楽しい!」という感覚を得る。それこそが学ぶ目的なのではないだろうか?
一方で子供達は、興味を持ったことや好きなことに対しては、驚くほどの集中力を見せる。我が子のそんな姿に驚いた経験がある方も少なくないだろう。今話題の棋士・藤井聡太さんの幼少期などは顕著な例だが、多くのアスリートや芸術家、それに研究者や実業家も、「好き」「楽しい」を根底に持ちつつ前向きに突き進んだ人々であることは周知の通り。好き・楽しい=幸せな学びこそが、能力を高める一助となることを、私達は経験則から知っている。
「幸せと学びの関係」には国際的にも注目が集まっている。2015年にOECD(経済協力開発機構)が2000年から3年ごとに行っているPISA(Programme for International Student Assessment)「生徒の学習到達度調査」において、「生徒の幸福度調査」を行ったのだ(対象は15歳児。2015年調査には72の国と地域が参加)。調査結果は図(下)参照。
注目すべきは、なぜOECDが生活満足度の測定を行うようになったのか、である。それは私達の価値観の変化に関係がある。近年ようやく私達は、健康で豊かな人生を送るためには、収入や社会的地位が高いだけでは不十分である、という共通理解を得つつある。学校の成績は、必ずしも社会の中で成功する要因とはなりえない。
PISA2015年調査国際結果報告(国立教育政策研究所発行)に、以下のように記載されている。「いわゆる学力より、意欲や感情を制御する力、肯定的な自己概念や信頼感、対人関係能力といった非認知的スキルの方がより大きな影響力を与えることが、研究結果として報告されている。ノーベル経済学賞を受賞したHeckmanは幼児期における非認知的能力の育成が重要であることを示す調査研究結果を示した」。
私達大人がすべきなのは「子供の学力を上げる」「文化やスポーツで一芸に秀でるよう仕向ける」ことでは決してない。子供にとって幸せな環境を整え、幸せな学びを実現することで認知能力を高め、そのうえで社会的スキルを身に着ける手助けをするべきなのだ。
出典:「OECD 生徒の学習到達度調査 PISA2015年調査国際結果報告書 生徒の well-being(生徒の「健やかさ・幸福度」)」OECD(2017)より国立教育政策研究所が作成。
得点が低い生徒(第1群~第3群)、中位の生徒(第4群~第7群)、高い生徒(第8群~第10群)の三つの層に分けて満足度の違いをみると、日本においては「科学的リテラシー」「数学的リテラシー」「読解力」の3項目すべてにおいて、得点が高い生徒の方が生活満足度は高くなる傾向があり、その変化が大きい。幸せな子供ほど成績が良いのである。
文:川島礼二郎
FQ Kids VOL.04(2020年秋号)より転載
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