大切なのは「楽しむこと」と「社会と感性の調和」落合陽一さんに訊くこれからの音楽と子育て

大切なのは「楽しむこと」と「社会と感性の調和」落合陽一さんに訊くこれからの音楽と子育て
様々な分野で活躍している落合陽一氏。幼少期からピアノを学び、現在は音楽に関わる活動も多い。自身も3児の父である落合氏が語る、これからの社会に適合する音楽の楽しみ方とは? 子育てとは?

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第1回:医学博士に聞く! 脳や身体に良い影響をもたらす音楽の力
第2回:音楽系の習い事で得られる“幸福度”調査の結果とは?
第3回:目指すのは「音楽で遊べる子供たち」非認知能力が“自然に伸びる”音楽教育のメソッドとは?
第4回:お子さま&パパママのリアルレビュー! 非認知能力を伸ばす音楽教室、その効果の実態とは?
第5回:自分の能力を活かして人生を切り開く! 活躍中の人に聞く、成功につながる「音楽体験」とは?
第6回:幼児期は「脳の土台づくり」に最適。音楽が「考える力」を司る前頭葉の栄養になる!
第7回:音楽と数学を学ぶことが課題解決能力を育む? 自由で意外な発見に満ちた共通点とは

音感の育て方も
時代によって変化する

――3歳頃から6歳頃まで、午前中は幼稚園と小学校へ、午後は好きな習い事に時間をあてる生活だったそうですね。ピアノは小学校中学年までされていたということで、ピアノは得意なんですね。

「いえ、それが全然! いわゆるお決まりのバイエルの教則本を弾いたりしたことがないんです。『こんなふうにしたら楽しいんじゃない?』と先生と楽しくおしゃべりしながら弾いたりする遊び感覚でした。

だからソルフェージュ(音楽の基礎教育)をやっていないです。僕の場合、楽譜は読めないし、音を聴きとる耳も弱い。音楽を作る時も音を探さないといけないんです。これってかなり大変なんですよ。仕事で音楽の仕事も結構ありますが、『もっと耳がよければよかったなー』と思うことも多いです」。

――音楽に関わる仕事も多いのですね。

「クラシックコンサートの演出をするときは音を言語化します。例えば『絵で表現するとどんな感じ?』など、それを意識的にやりますね。あと、僕の研究室では2年に1人くらい定期的に音楽の研究をする学生がいます。

研究室でやっているのは「音感はどういう訓練をするとどのように向上するか」といった研究です。コンピュータを用いて音感訓練の支援を行う方法は多様な関連研究がありますが、デバイスの発達により、常に訓練のためのインターフェースは変わり続けています。

重要なのは、ドレミファソラシドの『言語もしくは記号への変換』の訓練。幼少期に音の記号化の訓練の有無は非常に重要で、幼少期にやったことがある人は、音がちゃんとドレミの記号に聴こえるんです。音楽を鑑賞するときに、ハーモニーを聞くべきという考え方もあるので、それがよいかどうかはまた別の話ですが」。

ヤマハメソッド Input!1―楽しみながら耳を育てる―
音楽的聴感覚が最も発達する4・5歳では、とにかく聴くことを重視。言葉を覚えるときと同じように、「よく聴く→まねをする(うたう)」を繰り返し、ドレミを覚えることができる。ムリなく身体に音楽がしみ込み、将来の演奏に欠かせない音楽の基礎(ソルフェージュ力)となって蓄えられていく。

落合家の子育てスタンスは
「好きなことをやればいいよ」

――お子さんはいま4歳ですが、落合家の子育てについてお聞かせください。

「バイオリンがやりたいというので習いに行ったんですが、どうもおとなしくじっと聴いていられない性分のようで(笑)。でも、別に続かなくても、幅広くやれればいいんじゃないかな、と。できないことを続けさせてもしょうがないですから。

『伸びやかな型にはまらない子供をどう育てるか?』と思って育てているはずが、うちの子は型にハマるのが好きみたいで。集団行動が意外と得意で、けっこう僕の中では衝撃的だったんです(笑)。でも楽しそうだから、いいかな。

子育て的には『やりたければ好きなことをやればいい』というスタンスです」。

「楽器でいえば、アナログで極めて生きていける人はそっちを極めた方がいいし、デジタルを極める人はアナログを一切触らなくてもそれでもいいと思う。僕は高校生の頃からデジタルとアナログについてずっと注目しているんですが、『最近はデジタルが勝っているな』とか、『今はアナログの希少価値が上がったな』とか、時代によって変遷があります。

ボーカロイドが出てきて、いまではボーカロイドで作っていた人が自分でも歌っているじゃないですか。時代の変化とともにニーズとか、必要とされる能力もだいぶ変わってきていて、それが必ずしも楽器のフレームに対応しなくてもいい。

要は、楽しめて、しかもビジネスになる方法はいっぱい出ててきている。だからそれはそれでいいんじゃないかな。

『やりたいこと』とは、自分のストレスに嘘をつかないこと。自然に続けられることを選ぶことです。やりたいことを見つける嗅覚を大事にして、『今できること』を探し、リスクを取ってでも実行できる力を身につけてほしいものです」。

ヤマハメソッド Play!3 ―楽譜があっても、なくても。自分の思いを込めて演奏できる―
クラシックからポピュラーまで、幅広いジャンルの音楽を聴いたり、歌ったり、弾いたりすることで、表現する意欲がどんどんふくらみます。「この曲はこんな風に弾いてみたい」自分の気持ちを音に込めて演奏できる、創造力や表現力を育んでいきます。

世界と自分の感性とを
どう調和させていくか

――落合さんの専門は、CG(コンピュータグラフィックス)、HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)、VR(バーチャル・リアリティ)です。音楽においてAIではなく人間にしかできないこととは?

「いかに楽しめるか。それが重要なんじゃないのかな。音楽は人間が作らなくてもいいし、最近DTMソフトやガレージバンドのアプリで音楽を作ろうと思えば誰でも一瞬で作れます。僕は人間が作っても機械が作ってもいいと思ってます。

機械が作った音楽の良し悪しを判定するのも、あるいは楽しいかそうじゃないかを判定するのも、やっぱり人間です。そもそも人間のために音楽を作ってるわけだし。この感性がすごく重要だなと。制作方法もクリエイティブといわれていたものは、すでに機械がほぼ真似できるようになってきています」。

「だから生楽器を弾けるか弾けないか、あまり関係のない時代になっているのは間違いない。最近、僕が買ったギターのチューナーなんて、勝手にモーターでチューナーがチューニングしてくれる。人間が手を使う必要性もなくなってきています。『じゃあ、結局、音楽で何をしたいか?』」といったら、音楽を使ってコミュニケーションを取りたいということじゃないでしょうか。

誰かに何かを伝えたいとか、いい音楽に『いいね』したいとか。そういう素養って、指が上手に動かせるとか耳がいいとか楽譜が読めるとかにかかわらず、やっぱり自然や社会、世界と自分の感性とをどう調和させていくかでしょう。その部分に関していえば、音楽の力は大きいし、生きていくうえでものすごく大切だなと思います」。

プロフィール

落合陽一(おちあい よういち)

©蜷川実花

1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST✕Diversityプロジェクト研究代表。「デジタルネイチャー(PLANETS)」、「2030年の世界地図帳(SBクリエイティブ)」など著書多数。「物化する計算機自然と対峙し,質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。オンラインサロン「落合陽一塾」主宰。


ヤマハ音楽教室
1954年4月に、従来の音楽の専門家を輩出するための音楽教育ではなく、純粋に音楽を楽しむことのできる人を育てるための教育システムの確立を目指してスタートした。現在、国内2800会場、生徒数25万2千人、卒業生はこれまでに550万人以上にのぼる、国内最大級の音楽教室にまで発展。現在では40以上の国と地域に普及している。


取材・文:脇谷美佳子

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