時にはウソも必要!? 子供が「自ら考え、学ぶ力」を身につけるために親ができること

時にはウソも必要!? 子供が「自ら考え、学ぶ力」を身につけるために親ができること
能動的な学びはどうすれば身に付くのだろうか? そのカギは、知識の押しつけでなく、子供の考える力を尊重することにあると、小島さんは語る。小島慶子さんのコラム「子育て 世育て 親育て」。

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複合的な学びが
自分で考えることの入り口に

「受け身ではなく、自ら学び考える力を」とはよく言われますが、それはいったいどうすれば身につくのでしょう?

スペインのバルセロナで子育てをしている私の友人の話です。彼女の子供たちが通う地元の公立小学校では、校長先生が独自の方針で一風変わった教育をしているそうです。年の初めにクラスで話し合って、今年は何について調べるかテーマを決めるのです。

例えば「今年は、ガゼル」と決めて、ガゼルの生息地や、体の仕組みや生態について調べれば「地理と生物」、ガゼルの名前の由来やガゼルにまつわる物語を調べれば「言語や文学」、ガゼルと人間の関わりについて調べれば「社会と歴史」……と、ガゼルを切り口にして、幅広い知識を得ることができます。友人の子供たちも、何を調べて発表しようか、すごく楽しそうに考えているのだとか。

※ガゼル:ウシ科ガゼル属などのレイヨウの総称。体も四肢も細く、走るのが速い。雌雄とも角をもつ。肩高約70センチのトムソンガゼル、約1メートルのグラントガゼルなどがあり、アフリカからモンゴルの草原や砂漠にすむ。→羚羊(れいよう)/出典:Weblio辞書

縦割りの学びでは、それぞれの教科の知識を使って横断的に思考する機会はありません。この校長先生は、何事も広い学びの入り口なのだと、子供たちに身をもって体験する機会を与えているのでしょう。

しろくまが大福を食べる?
“疑い”が主体的な学びを生む

長男が幼かった頃の私は、子供の質問には全力で答えてあげようと思うあまり、息子が質問したらすぐさま反応して詳しく説明していました。すると当時5歳ぐらいの長男が、何か聞かれると反射的に答えるのだけれど、中身が思いつき! ということが多くなりました。

母親を見ていて、質問には秒速で返答しなくては、と学習してしまったのでしょう。これはいかんと大反省して、質問されたらまずは「うーん」とよく考えて、わからないことは「よく知らないなあ」と言い、「じゃあ一緒に調べてみよう」と言うようにしました。

それと、息子たちが保育園に通っていた頃から、時々わざとウソをついていました。子供が気付くぐらいの、ちょっと面白いウソを言うのです。

「ママ、なぜしろくまは白いの?」
「それはねえ、しろくまはよく大福を食べるから、口の周りについた粉が目立たないようにするためだよ」
「ふうん……ん? だいふく?」
「よく気づいたね! しろくまが食べるのは、大福じゃなくてあざらしだよ」
「ママのウソつき!」

という具合です。もちろんこの後で本当の答えを教えます。半分ふざけっこですが、大人の言うことを鵜呑みにしない訓練です。ポイントは、子供がウソを見破れなくても、からかわないこと。大真面目にやるのです。

「実は……大福というのは、ウソなんだ」と真剣に告白すると、子供は「もう!」とは言いますが、面白がってくれます。やがて用心深くなって「しろくまの毛は白じゃなくて透明で、中は空洞なんだよ」と事実を説明しても信じてくれなくなります。そのときは、一緒に調べるのです。

こういう遊びを時たまやっていると、そのうち息子たちは私の説明の途中で「ウソだ!」と見破れるようになります。ウソを見破るには知識だけでなく、相手の表情や口調の僅かな変化に気づく観察力や、相手が思いつきそうなウソのパターンを覚えて推測する力も必要になります。

小学校高学年にもなると「ママ、僕たちもう、そういうのに騙されないから」と相手にしてくれなくなります。先日は中3の次男に、2017年に太陽系外からやってきて加速しながらまた系外に飛び去った葉巻型の小天体“オウムアムア”について、「宇宙船説」を唱えている学者がいるという話をしたら、いかにも私が言いそうなウソだと思ったらしく、信じてくれませんでした。

そこで元の英文記事のリンクを送って親子で議論。結局、宇宙船ではないという論文が出されたのですが、それでも宇宙船説を唱えた研究者の「宇宙人は存在しないと証明されたわけではないなら、宇宙船である可能性を排除するべきではない」という主張は確かになと思いました。次男は宇宙人なんて作り話だという自身のアンコンシャス・バイアスに気づくきっかけになって、面白かったようです。

親にできるのは、わが子に「正解」を与えるのではなく、ものを考えたり学んだりする技術や、楽しさを教えてあげることではないかと思います。知識を使って、どのように世界を旅するかは本人次第。幼い頃から、小さな脳みそをリスペクトしつつ、考えるって面白い! 知るって嬉しい! を親子でシェアできたら良いですね。

PROFILE

小島慶子さん
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。
Twitter:@account_kkojima
Instagram:keiko_kojima_
公式サイト:アップルクロス

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FQ Kids VOL.05(2021年冬号)より転載

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