それは「しつけ」か「虐待」か? 子育ての“グレーゾーン”を考える

それは「しつけ」か「虐待」か? 子育ての“グレーゾーン”を考える
昨年11月よりNHKでスタートした「#もしかして・・・虐待を考えるキャンペーン」。その一環として、子供の虐待についてわかりやすく伝えるアニメーション「#もしかして・・・」が公開されており、その歌と語りを担当したのが曽我部恵一さんだ。3人の子供を育てる曽我部さんに、虐待問題への思いを聞いた。

「完璧にやらないこと」の大切さ

2018年度の虐待の認知件数が16万件近くに達したことが、2019年8月に厚生労働省によって発表された。また、虐待により子供が死亡した事件が、断続的にニュースで取り上げられている。

この痛ましい状況を少しでも改善しようと、NHKは「#もしかして…虐待を考えるキャンペーン」を2019年11月よりスタート。本キャンペーンの一環として、「くうねるあそぶこども応援宣言」HPにて、子供向けアニメーション「#もしかして・・・」が公開されている。

「#もしかして・・・」の歌と語りを担当したのは、サニーデイ・サービスのヴォーカリスト、ギタリストとして活動する傍ら、インディーズレーベル「ROSE RECORDS」を主宰する曽我部恵一さんだ。実は高校3年生、中学2年生、小学5年生の3人の子供たちを育てるシングルファーザーでもある。

メインの仕事場を自宅に据えるなどし、子供たちと密に接している曽我部さんは、今回の作品を制作するにあたり、どのような心がけをしたのだろう。

「音楽に関しては、子供向けだからといって必要以上に優しいトーンにしませんでした。子供が抵抗なく聴けるよう、等身大の目線を意識しましたね」

年間およそ100本ものライブに加え、各種制作、社長業までこなしながら、家事と子育ても担う曽我部さん。自他ともに“めちゃくちゃ忙しい”と認める曽我部さんの1日とは?

「朝6時か7時頃に起きて、まずは子供たちを起こします。それから朝食や長女に持たせるお弁当を作り、食事と送り出しを済ませたら仕事に向かう、という感じですね。そのほかの家事は、帰宅後や仕事の合間にやっています。帰宅が深夜になってしまう日もあるので、なかなかこの通りにはいかないんですが」

仕事と家事、子育てを両立させるためのコツは、“決して完璧にやろうとはしないこと”。

「食事は手作りにこだわらず、忙しければデリバリーに頼ることもありますし、長女のお弁当には、冷凍食品や前日の夕食のおかずが大活躍してますよ(笑)。あとは、子供たち全員とつながっているLINEグループで、『今日は帰りが遅くなるから、ご飯だけ炊いといて』といった感じでお願いすることもあります」

自宅では、制作の合間に家事を切り盛りしているため、失敗してしまうこともしばしば。でも、家事の失敗を原因に思いつめることはないようだ。

「制作に夢中になって、カレーを煮込んでいるのをうっかり忘れて焦がしてしまったりとか。子供に『なんか焦げ臭いよー』って言われて気付くんですが、だったら混ぜといてよって(苦笑)。それでケンカになることもあるんですが、最終的にはお互いに“まぁ、しょうがないか”って。子供も僕の失敗を大目に見てくれるので、助かっています」

周囲の人の助けも借りている。近所に住むスタッフと家で、子供たちが夕食を食べさせてもらうこともあるそうだ。

「僕ひとりだけじゃ、絶対に子育てできないと思う。周りの人の協力があるから、なんとかやれてますね」

子供への思いと
社会の間で悩む親たち

はた目には、お互いへの理解がある、良好な関係が築かれた家庭に見える。しかし曽我部さん自身は、子供たちへの負い目をぬぐい去れないようだ。

地方でのライブ出演も多い曽我部さんは、長時間家を空けることがたびたびある。そんな時は子供たちだけで過ごす時間が長くなるため、ときおり「寂しい思いをさせているのでは」と、後ろめたく思うのだとか。

今回、「#もしかして・・・虐待を考えるキャンペーン」への参加をきっかけに、児童虐待問題と向き合った曽我部さん。虐待にはさまざまな種類があり、多くの家庭が“危うさ”を抱えていることを知ったという。

「もちろん、『しつけ』と称して暴力を振るったり、食事を与えなかったりする行為は、間違いなく虐待です。でも、グレーゾーンに入る行為はたくさんある。例えば、子供の前でパパとママが小競り合いをしたり、忙しいばかりに子供の『お腹が空いた』という声を無視してしまったり、といったものです。また、うちのように親が長時間家を空けるのも、グレーゾーンにあたるかもしれない。

いずれの行為も、子供がどのように感じているかによってジャッジメントが変わるでしょう。ただ、外で働いてお金を稼ぐ必要性と、『子供に負担をかけたくない』という気持ちのはざまで、苦悩している親はたくさんいると思います」

仕事と家庭の間で板挟みになる苦悩は、曽我部さんも常日頃から味わっているはずだ。しかし、不思議と追い詰められることなく、うまく折り合いをつけている。前述したとおり、“家事と子育てを完璧にやろうとしない”こと、そして“歌うこと”が、大きな助けとなっているのだとか。

「僕の場合、孤独や苦悩といったマイナスな感情は、音楽を通して発散されます。結局、ライブやスタジオでの音楽制作は、僕にとって楽しみであり、救いにもなっているんですね」世間のパパやママにも、積極的に楽しみをもってもらいたい、と続ける。

「たまにはパパに子供を預けて、ママが飲みにいっても全然いいと思うんです。純粋に楽しめる時間を持つことができれば、子供ともっと上手に向き合えるんじゃないかな」

プロフィール

曽我部 恵一 KEIICHI SOKABE
1971年、香川県生まれ。90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト兼ギタリストとして活動を始める。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。


『#もしかしてしんどい?』~虐待を考えるキャンペーン特番~
2月29日(土) Eテレ 午後9:00~9:59放送
2019 年 11 月に始まった「#もしかして・・・虐待を考えるキャンペーン」。集大成となるこの特集番組では、視点を広げ、虐待が起きる背景に目を向ける。

「もしかしたら、自分も虐待をしてしまっているのではないか」と思い悩む親は少なくない。NHK の子育て番組には、そんな親の声が多く寄せられている。今、日本の子育てに何が起きているのか? 親たちが感じている息苦しさを明らかにし、子育てを家庭という閉鎖した空間から、社会に開いていくことの必要性を訴える。子供だけでなく、親も「助けて」と言える社会になるためにできることを考える。

子供向けアニメーション「#もしかして・・・」


文:緒方佳子
撮影:松尾夏樹(大川直人写真事務所)

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