子どもの特性・多様性を認め合う新概念「ニューロダイバーシティ」4つの実践ポイント

子どもの特性・多様性を認め合う新概念「ニューロダイバーシティ」4つの実践ポイント
「子どもの発達」に関して近年注目されている概念「ニューロダイバーシティ」。発達の特性を障害ではなく多様性と捉え、互いに尊重してともに生きる考え方だ。この概念に基づき、子どもの特性・多様性を生かす子育てについて、ニューロダイバーシティ・スクール・イン 東京 共同創立者の伊藤 穰一さんに聞いた。

<目次>
1.「当事者自らが」望む生き方のために声を上げる
2.マジョリティとは異なるゴールを目指す手助けを
3.観察と寄り添い、対話から相互に創造するニューロダイバーシティな子育て
4.多様な子どもを育てるためのQ&A

 

「当事者自らが」望む
生き方のために声を上げる

ニューロダイバーシティとは、「脳や神経に由来する、個人レベルでのさまざまな違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で生かしていこう」という考え方だ。

発端は、1950年代後半〜1960年代前半にかけてアメリカで広がった、黒人差別撤廃に関するムーブメント。それが1990年代に盛り上がり、障害者、性的少数派なども含むマイノリティが自身の望む生き方をするために必要な支援を要求した。スローガンとして、「私たち抜きに私たちのことを決めるな」を掲げている。

それから約30年が経つが、日本ではごく一部でしか知られていないと伊藤穰一さんは説明する。

「日本では、当事者ではなく親や近親者によるムーブメントしか起きていません。『特性を障害として治そうとする』『凹凸が見えないようにする』姿勢が主流です。『発達障害』や『支援センター』などの言葉にも、『当事者ではない人が、当事者のことを考えている』状況が現れています。

ニューロダイバーシティはそうではなく、当事者自身の、『困っているので助けてほしいところはあるけれど、無理をして“みんなと同じ”になりたいわけじゃない』という主張に基づいた考え方です」。

神経多様性の概念と特徴

脳や神経に由来する多様性には、以下のような例がある。ただし、これらは参考程度の分類で、1人ひとりの違いは実際にはもっと多様なもの。大切なのは、その子自身をよく観察して、その子の個性として理解することだ。

また、「ニューロダイバーシティ」は、こうした「特性のある人への支援」を指すのではなく、あらゆる人の脳や神経に由来する多様性を対象とする考え方であることを知っておきたい。

出典:©DANDA作成の図をもとに、筑波大学人間系准教授 佐々木銀河氏が加筆・修正したもの

ニューロダイバーシティの定義

出典:野村総合研究所の図をもとにFQ Kids編集部が一部編集

マジョリティとは異なる
ゴールを目指す手助けを

近年、Googleやマイクロソフトをはじめ、ニューロダイバーシティに基づいた採用がスタートしている企業もある。ただ、企業の中には、ごく単純な作業しか与えられないところも。

そうではなく、他の人にはできないような精緻な作業など、特性・個性を生かした仕事や、本人の希望する仕事を、一緒に考える姿勢が必要だという。

「求めるゴールはマジョリティの世界への貢献ではなく、マジョリティと異なるゴールです。そこを目指す道のりを、みんなで助けて欲しい」と伊藤さんは言う。

一方で、学校や保育の世界では、ニューロダイバーシティの考え方はほぼ広まっていない。大学では、試験の成績以外に小論文やプレゼンテーションを重視するAO入試も始まっているが、依然として、偏差値で大学が決まってしまう傾向が強い。

『苦手を克服して標準化する』が基本であるところが多く、それは多様性を否定するものです。試験で高いスコアを出すと褒められる世界では、マイノリティだけでなくマジョリティの子も、個性や自我の成長を妨げられてしまいます」。

では、ニューロダイバーシティを重視した教育、子育てとは一体どんなものだろうか。

観察と寄り添い、対話から相互に創造するニューロダイバーシティな子育て

ニューロダイバーシティの考え方に基づく子育ては、多彩な個性を持つすべての子どもにも生かすことができる。ここでは、日々の観察や関わり方など、実践的な4つのポイントについて、伊藤先生に教えてもらった。

point1
基本の考え方

弱みを訓練するのではなく、強みを伸ばす

算数が苦手、文章が読めないなどの弱みがあっても、それを訓練して標準化するのではなく、その子がやりたいこと、得意なことを伸ばす接し方をするのがニューロダイバーシティの基本だ。

子どもが行きたいところに行き、やりたいことを一緒にして、「学び」をともに考える姿勢が大切。また、電車が好きなら、「電車を数えることで算数や文字が好きになる」など、好きなことから他の興味につなげられることもある。

AIやロボットを活用できる未来を考えよう

今は暗算や暗記ができなくても、スマホを持っていれば解決する時代である。さらに、今後はますますAIやロボットが進化してさまざまな不足が補えるので、「なんでも総合的にできる」子育てを目指さなくてもいいと心得よう。

それよりも、AIやロボットで苦手を克服したり、インターネットやテクノロジーを使って、新しい学びの方法を考えてあげる方が時代に即している。

point2
パーソナルな発達をあと押しする

内的な動機を育てる

目を合わせるのが苦手な子どもに、「目を見てくれたらクッキーをあげる」というようなアメとムチの育て方をすると、子どもはクッキーをもらうために目線を合わせるようになる。

一見、特性が「治った」ように見えるかもしれないが、ただ外的な条件反射で目を合わせているだけで、内的な動機が本人にない状態だ。あくまでコミュニケーションの中で自然に目を合わせ、「こういうときに目線を合わせるんだ」と理解してもらい、子どもが自分から「目を合わせよう」と思える動機を育むのが重要だ。

試したり、テストしたりしない

子どもは大人の意図に敏感なもの。遊びやゲームをするふりをして、「この指何本?」など、能力を試したりテストをしたりすると、「裏の目的があって遊んでいて、信用できない人」と捉えられてしまう可能性も。

いくら顔はニコニコしていても、それが本当の笑顔と違うことはわかるもの。つい親や先生は「できること」を増やそうとしがちだが、それよりもお互いを好きになること、信頼関係を築くことが先決だ。

point3
落ち着いて接する

パニックになっても叱らない

子どもの成長段階や特性によっては、人前で叫んだり、パニックになって泣き出すことがある場合も。そのとき、「止めなさい」「静かにしなさい」と叱りつけるのは逆効果だ。親が一旦深呼吸して、子どもを落ち着かせよう。

それから、観察してパニックの理由を知り、なぜ叫んではダメなのかを説明したり、原因を減らす工夫を。反対に、静かすぎるときも観察が必要だ。何かを我慢している可能性もある。

時間をかけて、興味の方向を見つける

子ども1人ひとりに、興味・関心のあるものは必ずある。その子がどんな事柄に興味を示すのか、表情や仕草などをよく観察して理解しよう。

「電車を見たらいつも叫ぶ」といった行動をとる子どもは、電車が大好きで、喜びの表現が「叫び」になっている可能性もある。もしそうであれば、まずは一緒に電車を見て喜び共感してあげると、信頼を得られることも。子どもの目線に寄り添って、興味・関心のあることを見つけよう。

point4
環境を整えよう

動きや触感、居場所にも注意

思いっ切り飛んだり跳ねたりしていたい子どもがいる一方、部屋の隅に座って、全体を見渡すことで落ち着く子どももいる。硬いもの、やわらかいものに触れるのが好きな子も。どんな行動、環境、素材が居心地がいいのかを観察して用意しよう。

なるべく物を置かずにすっきりと

周りがごちゃごちゃと散らかっていると、目に入るものすべてが気になってしまうことも。部屋はなるべく物を置かずにすっきりとさせて、その子が知らないもの、わからないものを置かないようにしよう

「逃げられる場所」をつくる

集団生活では、発達に特性のある子どもが落ち着く環境を用意するのが難しいことも。いつでも「逃げられる」スペースを小さくとも確保しよう。ストレスが溜まったら逃げ込み、落ち着いたら出て来られる空間デザインが望ましい。

好きな音を用意する

音がないと不安になる子もいれば、雑音や大きな音が嫌いな子もいる。たとえ音楽が好きであっても、自分が選んでいない曲は嫌いな子もいる。落ち着く音の環境を知って用意してあげよう。

多様な子どもを育てるためのQ&A

多様な子どもの子育てにはさまざまな不安がつきもの。ここでは、その悩み相談に伊藤先生に回答いただいた。いずれも、すべての子ども、家庭に当てはまる回答はないが、1つの参考にしてみて。

Q1.親戚やご近所には、子どもの特性をどのように伝えたらいいのでしょうか。

A.もしお子さんが走り回ったり叫んだりすることで白い目で見られるようなら、その方々に特性について説明して、大人の方を変える行動をされるのがおすすめです

子どもは、怪我や危険がない限り、なるべく好きにさせてあげましょう。そのためには、親御さんが人の視線に耐える力を蓄える必要があります。同じような特性のあるお子さんを持つコミュニティや相談コーナーでぜひ力をもらってください。

また、外食などに訪れる先は、走り回っても怒られない店を選びましょう。

Q2.「できないことを、できるように努力する」ことも大切だと思うのですが、どこで折り合いをつければいいでしょうか?

A.この親御さんはきっと、「他の子ができることは、なるべくできるようにしなければ」と考えて、できないことをできるように教えているのかもしれません。でもそれは、その子の本当にやりたいこと、やらないといけないことでしょうか? これは親御さんの責任というより、日本の社会課題だと思います。

できないことに多くのエネルギーを注いで、やっと他の子と同じ程度に追いついても、それが本当にその子の幸せかは見極める必要があります。できるだけ特性や興味に合った形で「できること」を伸ばして、その先に仕事が見つけられ、自立できる社会にしていく必要があると考えています。

Q3.発達に特性のある子どもの育児にどうしても時間をかけてしまい、きょうだい児にかける時間が少なくなってしまいます。

A.発達に特性を持つ子どものきょうだい児には、まず、脳や身体の仕組みの話をして、「本人のせいでなく、そのような特性を持っている」ことについて説明してあげてください。今は子ども向けにもさまざまな絵本や動画もありますので利用しましょう。

お互いを理解してコミュニケーションすることで敵対関係になりにくく、家族がお互いに助け合えるチームになりやすくなります。

編集部おすすめ!
ニューロダイバーシティについて、
子どもと一緒に学べる本

『みんなちがって、それでいい!
脳のはたらきとニューロダイバーシティ』

ルイーズ・グッディング著
岡田俊・林(高木)朗子 日本語版監修
上原昌子訳 東京書籍 2024年

Q4.幼児期は個性を重視してのびのび育てやすいのですが、学校や療育スクールとはどうつきあったらいいでしょうか?

A.現状では、学校や療育スクールは、子どもの特性を標準化しようとする傾向があるため、特性のある子どもには居心地のいい場所とは言えないときもあります。もし可能であれば、オルタナティブスクールやホームスクーリングなどの選択肢も含めて検討したいところです。

ただ将来的には、特性が当たり前に認められる教育システムや、社会のサポートが得られる環境に変えていく必要があります。ニューロダイバーシティ・スクール・イン 東京もそこに貢献するため、これから成功事例を作り、発信していきたいと考えています。

※これらの回答は一例です。お子さまの特性や家庭の状況によって、最適な方法は異なります。困ったり悩んだりすることがあれば、ぜひ、似た特性の子どもの親が集まるコミュニティなどでも相談しながら、その子やご家族に合った方法を見つけていくことをお勧めします。

発達・興味・関心に応じた
「アプローチ」を実践!
ニューロダイバーシティ・スクール・
イン 東京とは?

伊藤さんが昨年9月に創立した「ニューロダイバーシティ・スクール・イン 東京」では、日本初の、ニューロダイバーシティの考え方に基づく教育を実践している。

特性の有無や分類に関わらず、子ども1人ひとりの興味・関心に合わせてプログラムを作り、子どものウェルビーイングとポテンシャルを最大化することが教育の目標となっている。

子ども1人ひとりの発達と
モチベーション向上を目的に

「ニューロダイバーシティ・スクール・イン 東京」では、「学びの結果」よりも、「発達と学びのモチベーションの向上」を重要視している。そのため、知識を押しつけたり、習熟度で子どもを測ることはない。

米国発祥の「フロアタイム」という発達心理学のアプローチを用いて、1人ひとりの子どもと信頼関係を築きながら、それぞれの興味・関心・能力(キャパシティ)を伸ばしていく教育を行っている。

この学校でのゴールはただ1つ、子ども1人ひとりのウェルビーイングとポテンシャルを最大化すること。その実現のために保護者も巻き込み頻繁に意見交換を行う他、保護者同士が絆を深め、心身の健康を保つために交流できるコミュニティも運営。今後はイベントの開催や国への提言なども行い、社会変革にもつなげていきたい狙いだ。

DATA

ニューロダイバーシティ・スクール・イン 東京

〒107-0062 東京都港区南青山2丁目5-17 ポーラ青山ビルディング5階
問い合わせ先:info@neurodiversity-npo.org

教えてくれた人

ニューロダイバーシティ・スクール・イン 東京 共同創立者/
千葉工業大学 学長
伊藤 穰一さん

撮影:森清

ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者として、主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。2011年から2019年まで、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長を務める。2023年7月より千葉工業大学学長。自身がADHDのグレーゾーン当事者であり、自閉症の子どもを持つ当事者家族でもある。著書に、『普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門』(松本理寿輝氏との共著/プレジデント社)他。

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文:笹間 聖子

FQ Kids VOL.21(2025年冬号)より転載

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