自己肯定感や主体性など、VUCAの時代に必要な「未来の地球人を育てる」教育とは

自己肯定感や主体性など、VUCAの時代に必要な「未来の地球人を育てる」教育とは
22世紀を見据えて、「未来の地球人」を育むためにはどんな教育をする必要があるのか、谷崎テトラさんがオルタナティブ教育の観点から考える。連載「未来の地球人育て」最終回。

>>谷崎テトラさんの連載一覧はこちら!

地球人のための教育

これまで20回にわたって連載してきた「未来の地球人育て」は、今回が最終回です。連載を始めた2019年から5年間で、さまざまな世界の変化が起きました。新型コロナのパンデミックを皮切りに、気候変動の加速、台風や地震といった自然災害が私たちの生活を脅かしました。

また、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマスの紛争、ガザでの惨事など、痛ましい出来事が今も進行中です。このような状況で、「未来の地球人育て」が一層重要になったと感じます。

ここでいう「地球人」とは、英語でいうとEarthling(アースリング)。SFなどでは、地球に住む人類、あるいは地球出身の人類のことを、「エイリアン」に対して「アースリング」といいます。

22世紀の人類、未来の私たちは、「国家」に帰属するのではなく「惑星」に帰属する「地球人」。そんな意識を持つことが求められます。そんな次世代の子どもたちのための教育を「未来の地球人育て」と呼んできました。人類は戦争や環境破壊から卒業しなければなりません。

危機の時代と地球人の意識

2012年に「成長の限界」の著者の一人である環境学者ヨルゲン・ランダースが、40年後の未来、2052年までのコンピュータシミュレーションを行いました。その結果、人口が81億人を超える2040年頃に、食料不足、資源枯渇、環境汚染などの要因で、現在の人類社会が崩壊する予測がされました。

さらに、現代は未来予測が困難な時代であることから、予測が困難な時代をあらわすVUCAという言葉も生まれました。

VUCA(ブーカ)とはV(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字をとって付けられた言葉です。VUCA(ブーカ)の時代には、新たな学びの質が求められます

「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」 (キャシー・デビッドソン氏:ニューヨーク市立大学教授)。この予測が話題になったのはもう10年も前の話。教育者の会合での発言です。

つまり、今は存在していない職業に就くだろう子どもたちに教師は「何を」「どう教えるのか」という問いだったわけです。

先生が生徒に「教える」という教育は限界を迎えています。答えを暗記していくこと、記憶力においては、人間はAIには敵いません。

地球人を育てるための、
全人的なアプローチ

未来の地球人を育てるためには、全人的なアプローチが求められます。真の自己肯定感を育むことで、子どもたちは自分の価値を認識し、自信を持って成長することができます。

また探究学習を通じて、主体的に学び、クリティカルシンキングや協力する力を養うことも有効でしょう。こういった要素をバランスよく取り入れることで、地球規模の課題に対応できる未来の地球人を育てることができると僕は考えます。

教育の目的は、単に知識を伝えることではなく、個々の子どもが持つ可能性を最大限に引き出し、地球全体の視点で貢献できる人材を育てることです。自己肯定感と探究学習という2つの柱を軸に、未来の地球人づくりを実現しましょう。モンテッソーリやシュタイナーのようなオルタナティブな教育や哲学が、そのヒントとなるかもしれません。

子どもたちは「平和の種」

モンテッソーリ教育の創始者マリア・モンテッソーリは、平和教育のために人生の後半を捧げ、平和について講演しながら世界をまわりました。そして子どもたちを「平和の種:seedsofpeace」と呼び、幼い頃からの平和についての教育が大切であることを訴えました。

モンテッソーリ教育では、誕生日になると、地球儀を持ってきて、皆で輪になって、太陽をめぐる地球を学ぶことがあるそうです。5歳なら、太陽を5周するわけです。そして先生が「広大な宇宙の中の、銀河系の中の、太陽系の中の、地球という惑星に」と語り、私たちが地球に生まれ住んでいることを伝えるのだそうです。

人類はまだ本当の文明を手に入れていない、という考え方があります。20世紀は戦争の世紀でした。22世紀には戦争は完全に時代遅れになり、真の「地球人」による最初の文明が始まるかもしれません。

そのために大切な「平和の種」が、子どもです。大人が諦めてしまった世界に子どもたちが染まる前に、新しい「地球人育て」をしたい。いや、育てられるのは「われわれ大人」たちなのです。

PROFILE

谷崎テトラ

1964年生まれ。放送作家、音楽プロデューサー。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたテレビ、ラジオ番組、出版などを企画・構成する傍ら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
HP:www.kanatamusic.com/tetra
>>谷崎テトラさんの連載一覧はこちら!

 

あわせて読みたい
ガザ地区の子どもの言葉から考える、「多文化共生」保育・教育の大切さ

世界幸福度ランキングから考える、子どもが本当に「幸せ」であるために大切なこと

偏差値社会で育った僕が衝撃を受けた「シュタイナー教育」が目指すものとは?

 


FQ Kids VOL.20(2024年秋号)より転載

連載記事 連載記事

〈連載〉島村華子の「“自分でできる子”になる親子コミュニケーション」
〈連載〉新井美里の「“個才”を発見して伸ばす方法」
〈特集〉自己肯定感を高める おうち性教育
〈特集〉専門家に聞いた! 子どもの健康なカラダづくり
〈連載〉寺島知春さんの「非認知能力を育てる絵本」
〈特集〉「おうちで・楽しく・短時間で」実践に使える英語力をみにつける
〈連載〉てぃ先生の子育てお悩み相談室
〈連載〉小島慶子さんが語る「子育て 世育て 親育て」
〈連載〉平田オリザ “わからない”を超えるチカラ -演劇×コミュニケーション能力-
〈連載〉鶴岡そらやす先生の「ごきげんおやこの視点づくり」
〈連載〉アフロ先生・阪田隼也さんの「大人と子供が響き合って、育ち合う」
〈連載〉佐藤卓/親子の「デザイン的思考」入門
〈連載〉和田明日香さんの「むずかしくない食育」
〈連載〉照英さんの「子育て・夫婦のお悩み」一緒に考えます!
〈連載〉谷崎テトラの「未来の地球人育て」
メニューフォームを閉じる

FQ Kids | 親子のウェルビーイング教育メディア

メニューフォームを閉じる