2022.02.19
2021.06.23
2020.09.08
「私は普段、特別支援教育の現場で自閉症スペクトラムやADHDといった発達障害※1を持つお子さんたちを見ているのですが、実は定型発達なんてどこにもないんです。どのお子さんにもそれぞれ必ず“良さ”と“強み”があります。だから子供たちと一緒にいると、その子の良さを宝探ししているようなワクワクした気持ちになるんですよ」。
小学校の非常勤講師として働くシゲ先生は、普段の学校生活の様子を笑顔でこのように話す。自身もセクシュアルマイノリティであることをカミングアウトしており、LGBTQ※2当事者の教員グループ「虫めがねの会」の運営を行っている他、自治体の相談員としても取り組むなど、活動の幅は広い。
「ある日、私が教室でヒマそうにしていたら、入学したばかりの1年生の女の子が近寄ってきて、悩みをしゃべり始めたのです。それはランドセルの色のことでした。本当は水色のランドセルが欲しかったのに、『女の子が水色なんて変だからやめなさい』と親に言われ、イヤイヤ赤色を選ばされた、というもの。私がLGBTQの活動をしていることを知っているかのような相談ですよね(笑)」。
子供にとってランドセルの色は、小学校6年間の学校生活を大きく左右する重大な問題だ。赤か黒しか選べなかった時代は過ぎたとはいえ、親子間でこのようなトラブルは少なからず起きているだろう。それは親自身も「~であるべき」という“らしさ”に縛られて育ってきたからだ。
「これを“隠れたカリキュラム”※3と言います。知識や行動様式や性向、メンタリティなど、意図しないままに親や教師、友達に教えられることです。例えば、私が学校にピンクのポロシャツを着て行った時に、1年生の子から『先生、男なのにピンクなんてヘン!』とツッコまれたことがありました。『なんで男の人がピンクを着ちゃダメなの?』と聞き返すのですが、大抵はちゃんと答えられません。6~7歳という年齢で既に、社会からジェンダーバイアスを刷り込まれているんです」。
隠れたカリキュラムには他にも、「○さん」「○ちゃん」「○くん」など、子供によって異なる呼び方をすることで、子供1人1人への教師のイメージや捉え方がクラスで固定化され、不平等感を生むこともある。これは「自分の大切さと共に、他人の大切さを認める」という人権感覚に、大きな影響を及ぼしかねない。
・「○さん」「○ちゃん」「○くん」または呼び捨てなど、子供によって異なる呼び方をする。
・保育園・幼稚園のスモックの色が、男の子は青、女の子はピンクと決められている。
・学校の名簿が男女別で、男子が先に並んでいる。
・係決めの際、男女に偏った選出をしている(女子は掃除が得意だから清掃係、など)。
・男の子、女の子はこうあるべきといった、性別役割分担の固定観念に満ちた教科書を使っている。
「教師も親も、常識を疑う視点が必要です。今はまさに、社会構造を“見つめ直す・捉え直す・問い直す”ことが世界的に求められている、大きな過渡期なのです」。
さらに、シゲ先生はこう続ける。
「教育機関だけでなく、私たちは普段の生活においても、知らないうちに人を傷つけたり差別してしまうことがあります。私は以前、満員電車に乗っている時、ベビーカーを押しながら乗車してきたお母さんに対して『混んでいる電車にベビーカーなんて……』と思ってしまったことがあります。そこでハッと、無意識に差別していた自分に気づき、愕然としました。
相手の置かれている状況を知らないなら、知る努力が必要ですよね。自分の中の常識を振りかざしそうになったら、まずは“ハッと気づく”こと。これが多様性を認める第一歩です」
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