2024.07.10
2022.06.22
2024.12.09
1 自尊心
自分自身に価値があると信じたり、自分のことを好きだと思える心のことです。精神的な健康と密接にむすびついています。
2 知的好奇心
物事に興味・関心をもち、探求したいという気もちのことです。自分から進んで様々な活動に取り組むモチベーションの源になります。
3 自己効力感
自分にはできないと決めつけず、自信をもって取り組む姿勢のことです。困難な課題にチャレンジしたり、あきらめずに努力を続けたりする力につながります。
4 忍耐力
物事を最後までやりぬく心の粘り強さ、目標にむかい努力し続ける力のことです。グリット(Grit、やりぬく力)ともよばれ、近年注目されています。
5 レジリエンス
困難な状況に直面したときに、そのショックやストレスから回復し、適応していく心の力のことです。「精神的回復力」ともよばれます。
6 セルフコントロール
大切な目標のために目先のやりたいことを一旦がまんしたり、自分の気もちをコントロールしたりする力のことです。
7 感情知性
相手の気もちを読みとって上手く対応したり、自分の気もちをよく理解し上手に表現したりする力のことです。
8 共感性
他者の気もちを、その人の立場になって理解する心のはたらきです。困っている人を助けてあげようとしたりする思いやりにつながります。
9 規範意識
良いことと悪いことを区別し、良いふるまいをしようとする姿勢、生活習慣や社会的ルール、礼儀正しさを守ろうとする心のことです。
10 協調性
他の人と目標や考えを共有したり、折り合いをつけたりしながら、 人と協力して何かをやりとげる力のことです。
引用:ポプラ社こどもっとラボ 東大CEDEP監修「絵本で育む子どもの心の力10」
共感性
平山和子/作 福音館書店 1981年
最初の見開きには、しま模様のスイカ。開くとスイカはきれいに切られてお皿の上です。どの果物も「さあ どうぞ」と誰かがこちらに差し出してくれます。
呼びかけに子どもは思わず手を伸ばしたり食べる真似をし、空想のなかで満足を覚えます。今度は自分が差し出そうとするかもしれません。心地よさの体験は、他者の気持ちの理解に欠かせない一つです。
自己効力感
中川ひろたか/文 柳原良平/絵 金の星社 2008年
「あっ」という言葉で、人の顔と乗り物とが次々に登場します。車や船がテンポよく現れて楽しく、男女問わず指さし遊びに興じられます。
赤ちゃん絵本ですから0歳や1歳頃の子が出会うことが多いでしょう。読み続け、乗り物発見の遊びを繰り返す中で、親が笑って受け止めてくれることに子どもは自己効力感を強く感じていきます。
規範意識
はせがわせつこ/文 やぎゅうげんいちろう/絵 福音館書店 2006年
電気をつける遊びの絵本です。「まっくら くら くら くらーい くらい でんきを つけて ちょうだい」というリズミカルな文にのせて暗闇にシルエットが現れ、電気がつくと正体がわかります。
子どもはページ上のスイッチに手を伸ばし、明かりをつけてあげた手ごたえを得ます。ルールを生み出す瞬間の快感が、規範への前向きさに先々でつながりそうです。
協調性
かがくいひろし/作 佼成出版社 2010年
絵本をひっくり返してお手伝いする読者参加型の一冊です。せんにんとお供は散歩中に、なぜか穴にはまった動物に次々と出くわします。掘り出そうとモグラやミミズに呼びかけますが、あいにくみんな手が離せません。
そこで読者に絵本の中から声がかかります。救出の途中に、子どもたちは絵本の登場人物と力を合わせます。やり遂げる心地よさを親子で味わえるはずです。
自尊心
岡田よしたか/作 ブロンズ新社 2011年
ちくわのわーさんは、口笛吹きふき歩きます。マカロニに出会えば踊り、ドーナツを見れば輪っかの真似をしてみます。しっくりくることとそうでないことがあり、どうやら目的地もあるみたいです。
主人公のユーモラスな姿を子どもは面白がります。わーさんのように自分を保ち気楽に進む心持ちをよく感じています。
知的好奇心
青山邦彦/作 金の星社 2024年
シュンとアンナのきょうだい二人は、夏休みに田舎の祖父母の家へ出かけます。道中には、バスやモノレールなどの会話に登場する乗り物はもちろん、町の光景の中に魅力的なあれこれがたくさん見つかります。
乗り物好きの子は画面にくぎ付けになる予感です。建築界出身の作家が描く緻密なパノラマに浸ってください。
忍耐力
安野光雅/作 福音館書店 1981年
何も知らされずに開くと、最初から最後までずっと森の木々が描かれているだけの絵本に思えます。けれども実は、面白い仕掛けがしてあるのです。
葉っぱを、枝をよく見れば、動物が隠れています。何匹見つけられるでしょうか? 絵を眺めて探す時間そのものが、子どもたちの忍耐力を楽しく育みます。
レジリエンス
とみながまい/作 たかおゆうこ/絵 ひさかたチャイルド 2020年
ジグモのジグモンタは、洋服に開いた穴をきれいにふさぐ「あなふさぎや」です。ジグモンタはこの仕事が好きですが、近頃はもうあまり必要とされていない気もします。そんなある日、彼は旅に出るのです。
腕によりをかけた仕事が誰にも喜んでもらえなければ、どんな人でもショックです。子どもはこの落ち込みと回復をともに疑似体験します。レジリエンスを養うひとときです。
セルフコントロール
アイノ-マイヤ・メッツォラ/作 みずのゆきこ/訳 化学同人 2024年
ねずみのイルマは、庭のお世話が大好きです。けれど初収穫の日に、大切なイチゴの実がぽっかり欠けていました。イチゴは次々と被害に遭い、イルマは怖がったり怒ったり………。
一体誰がこんなことを? 子どもは主人公に自らをなぞらえ、物語の中でさまざまな感情を味わいます。結末を知った時にどんな行動を取るか、想像をめぐらせることはセルフコントロールの練習になりそうです。
感情知性
ジャーヴィス/作 万木森玲/訳 岩崎書店 2023年
「ぼく」の友達デイビッドは、頭にきれいな花が咲いた優しい子です。でもある日、彼の様子が変わります。元気のない友達のために、ぼくが考えた「いいこと」とは――?
少し不思議な物語に、デイビッドとぼくの刻々と変化する気持ちをよく感じられます。絵本から受ける言葉にならないいろいろなものを読者が味わう時、感情知性も育っているでしょう。
絵本は、非認知能力を育む要素の宝庫です。「非認知能力」という言葉が一般的に知られるようになるずっと前から、知的好奇心や共感性、自尊心といった大切な力の育ちをよく助けてきた存在です。
子どもの頃、毎晩の読み聞かせが楽しみで仕方なかった私は、あの時間のなかで実にさまざまな心の動きを味わっていたのだと今感じます。
人が個を持ちながら集団の中で生きていくのに、非認知能力は欠かせません。絵本を開けば、その育ちを「ただただ楽しい」気持ちと共に前向きに積み重ねられます。これが絵本の素晴らしさなのです。
寺島知春さん
絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、元・同大個人研究員。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。
HP:terashimachiharueh.wixsite.com/atelieru
FQ Kids VOL.19(2024年夏号)より転載
編集部のオススメ記事
連載記事