2023.03.31
2022.03.14
2024.07.26
三島隆章さん
大阪体育大学スポーツ科学部教授。広島大学大学院博士課程を修了。専門は運動生理学、発育発達学。JATI認定特別上級トレーニング指導者(JATI-SATI)。
普段、運動が得意な人のことを何気なく「運動神経がいい」と評しているが、「運動神経」とは一体何なのだろうか。また「運動神経をよくする」ことはできるのだろうか。
「運動神経とは、自分の身体を巧みに動かす能力。コーディネーション能力と呼ぶこともありますね」と説明するのは、大阪体育大学の三島隆章先生。
人が遊ぶ時やスポーツをする時は、無意識のうちに驚くほど多くの動きが組み合わせられており、これらの多様な動きを状況に合わせてバランスよく働かせることができる力が「コーディネーション能力」だという。
「コーディネーション能力は、7つの能力に分けることができます」と三島先生。何かスポーツを始めて上達したいと考えたなら、この7つの能力をバランスよく、総合的に養うことが大切だ。
例えばバドミントンの動きを見ても、飛んできたシャトルの距離を測る「定位能力」や、ラケットをうまく扱ってシャトルに当てる「識別能力」、速いスピードで来るスマッシュに対応できる「反応能力」、素早く動きを切り替える「変換能力」など、さまざまな能力を組み合わせていることがわかるだろう。
「コーディネーション能力」とは、身体を巧みに動かす能力のこと。1970年代に旧東ドイツのスポーツ学者が発案した理論で、7つの要素で構成される。
コーディネーション能力は1つの動きに限られないため、それを測定し数値化するのは難しいといわれる。ただ、もしコーディネーション能力を伸ばしたいのなら、できるだけ幼児期から養うことが大切だと三島先生は考えている。
「成長の中で体力や運動能力が伸びるタイミングはいくつかあります。この時期のトレーニングやエクササイズで効率よく伸ばすことができますが、年齢が高くなってから同じだけの能力を身につけようとすると、効率が下がり時間がかかります」。
日本で運動系の習い事を始める場合、幼児期から1つのスポーツに集中するケースがほとんど。道具の扱いなどに早くから親しめるメリットはあるが、コーディネーション能力を伸ばすためには、小さい頃から多様な動きを経験することが必要だ。
幼少期にコーディネーション能力を育むことができれば、その後のスポーツも上達しやすくなるだろう。わが子にスポーツを楽しめるようになってほしいなら、まずはコーディネーション能力の育成について考えてみることが大切だ。
「コーディネーション能力」は身体を思い通りに動かし、運動を楽しむための能力
昔と比べ、現代では不器用な子どもが増えたといわれている。例えば転んでも手がつけなかったり、椅子を運んでいる時につまずき、そのまま椅子に顔をぶつけてケガをしたりと、身のこなしがぎこちない子が多いという教育現場からの報告が増加。
<不器用な子どもが増えている>
出典:子どもの発達問題研究会、愛知、1-51(-2002年)
データ上でも、子どもたちの運動能力は1985年が最も高く、そこから下降している。
<ソフトボール投げの年次推移>
出典:スポーツ庁「令和元年度体力・運動能力調査」調査結果の概要
本来、身体を巧みに動かすコーディネーション能力は、子ども同士の外遊びの中で自然に培われてきたものだ。例えば鬼ごっこをしたり、川の上の飛び石を飛んだり、ボールを全力で投げたりする遊びは、変換能力やバランス能力、連結能力を養う。
こうした外遊びの機会が少ない子どもは、やりたいことがあっても身体が思い通りに動かず、その結果体育やスポーツそのものが嫌いになってしまうことも。
幼少期から積極的にコーディネーション能力を育むことで、年齢が上がってからスポーツを楽しむ機会が広がっていくだろう。
出典:「体育学センターの提案した基本動作と分類」
8歳までの成長のタイミングを逃さない!
「幼少期に養うことができなかったコーディネーション能力を後から伸ばそうとすると、かなり時間がかかります」と三島先生。
例えば小学校低学年、中学生、大学生に同じワークをやらせてみても、小学生はあっという間にあるレベルに達するが、中学生、大学生は到達するまでに時間がかかってしまう。タイミングを逃すと身につける効率ががくんと悪くなり、その結果が「運動神経が悪い人」を生み出しているのだ。
それでは、コーディネーション能力はいつ頃が最も伸びやすいのだろうか?
「男女とも6~8歳は走力や敏しょう性、バランス能力が急激に伸びる時期。この時期の前後で体力・運動能力のトレーニングを行えば、最も効率よくコーディネーション能力を伸ばせるのではないでしょうか」。
<全身反応時間の発達>
出典:三島隆章「JATI EXPRESS, 25, 26-27」(2011年)
人間の脳は、8歳までに大きな発達を遂げる。脳と運動には深い関わりがあることを考えても、この時期は多様な動きを身につけさせるのに効果的な時期だと考えられるだろう。
家庭で遊びの時間を設けるのも効果的
コーディネーション能力が高い子どもは、多様な動きを組み合わせ、スムーズに動く事に長けている。そして本来その多様な動きは、外遊びの中、さまざまな形で体験していくものだった。
外遊びの機会に乏しい現代の子どもたちは、代わりに幼少期から運動系の習い事を始めるケースが多い。ただし、日本では1つのスポーツの習得に徹していることが多く、多様な動きを通じてコーディネーション能力を育てる機会を持つことが難しくなっている。
「例えば、スイミングを習うだけではとっさのときの反応能力を身につけることは難しいでしょう。水泳や陸上競技が得意な子が、変換能力を必要とする反復横とびが苦手というケースもあります」と三島先生。
家庭でも紙風船や紙飛行機で遊んだり、外で竹馬に挑戦したりと身体を動かして遊ぶ時間をつくり、多様な動きを経験する機会を増やすためのサポートをすることが効果的だ。
だるまさんが転んだ
鬼がパッと振り向く仕草に合わせてピタッと止まる動作を繰り返すことで、反応能力が養われる。
紙鉄砲
軽い紙鉄砲を振り上げ、全身で振り下ろす動作によって、バランス能力や連結能力が養われる。
紙風船
膨らませた紙風船をぽんぽんと打ち合うことで、変換能力や定位能力が養われる。
紙飛行機
紙飛行機を遠くに飛ばそうとする動きの中で、身体をスムーズに動かす連結能力が養われる。
文:藤城明子
FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載
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