2023.06.30
2021.06.21
2024.02.16
テストで点数化できないのが非認知能力
国内外の教育現場において、今、多くの関心を集めている「非認知能力(Non-Cognitive Skills)」。あらためて、非認知能力とはどのような力のことを指すのだろうか。岡山大学准教授の中山芳一先生に話を聞いた。
「平たく言うと、テストで点数化できるのが認知能力、点数化できないのが非認知能力です。忍耐力や意欲など、自分の内面やパーソナリティに深く関わる力や、コミュニケーション力や思いやり、共感性など、他人と自分との関係で必要とされる力などがあります」。
ノーベル経済学賞の受賞者が提唱した非認知能力
非認知能力は、もともとノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマンが提唱した考え方だ。
ジェームズ・J・ヘックマンの研究グループは、米国で行われた「ペリー就学前プロジェクト」という社会実験で、1962年~1967年まで「就学前教育」を施した子どもたちと、施さなかった子どもたちを、その後40歳まで追跡調査した。
その結果、幼児からの教育が、その後の人生の収入の多さや、犯罪率の低さなどに大きく影響していることがわかった。
またその中でも、IQテストで測れる「認知能力」の教育効果は持続しなかったことがわかっていたため、自制心や社会性といった「非認知能力」が生涯に渡って影響を与えたと分析されており、非認知能力が世界的に注目されることとなった。
認知/非認知の線引きができないものも
読み・書き・そろばんといわれるようなものからIQ(知能指数)、英語力などは数値化できるため「認知能力」。意欲・楽観性や忍耐力・自制心、さらには思いやりやコミュニケーション力は数値化できないため「非認知能力」となる。
ただし、ここからは認知能力、ここからは非認知能力……ときっぱり線引きできるものばかりではなく、両方の性質を併せ持つものも多い。
シンギュラリティ×人生100年時代を生き抜く人間に不可欠な非認知能力
2017年には幼稚園教育要領が、2020年には小学校の学習指導要領が改訂され、非認知能力を重視した内容が盛り込まれた。OECD(経済協力開発機構)も、2015年に「非認知能力(社会情動的スキル)」を定義し、PISA(国際的な学習到達度に関する調査)にも反映されている。
近年、非認知能力が重要視されるようになった背景について中山先生はこう語る。
「人工知能(AI)などの科学技術が劇的に革新した結果、2045年には世界がシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えると予想され、『AIによって仕事が奪われる時代』という危機感も煽られるようになりました。また、科学や医療の進歩により、人生100年時代も間近に迫っています。
これからの時代における人間の役割を考えたとき、知識偏重の教育や学歴社会で対応できなくなるのは火を見るより明らか。
さらに、コロナ禍の影響も加わり、マニュアルが通用しない、未知のものへの対応力の必要性が浮き彫りになったのです。子どもたちには、自分で自立的・主体的に人生を切り拓いていくための能力の獲得・向上が必要不可欠です」。
これからの時代により一層求められる非認知能力は、3つの枠組みの能力群として整理することができる。それぞれが別々に作用するものではなく、お互いに高めあったり、引っ張り合ったりするような相関関係がある。
◆「自分を高める力」対目的:変革・向上系能力群
意欲、向上心、自信・自尊感情、楽観性……など、自分を高めるための力。
◆「他者とつながる力」対他的:協調・協働系能力群
共感性、協調性・社交性、コミュニケーション力……など、他者とつながるための力。
◆「自分と向き合う力」対自的:維持・調整系能力群
自制心、忍耐力、レジリエンス(回復力)……など、自分と向き合うための力。
非認知能力は、児童期(小学生)以降でも意識を働かせながら伸ばすことができるといわれている。そのためにも乳幼児期の非認知能力の基礎づくりが重要になるという。
「自分という存在を安心して受け入れられる『自己肯定感』は、非認知能力が伸びるための土台です。まずは、わが子との愛着関係を大切にしましょう。
その上で、非認知能力を伸ばしていくために、大人からの一方的な押し付けや指示を出すのではなく、本人が自ら選べるような経験を積み重ねられるようにしてあげてください」。
ちなみに、大人になっても非認知能力は伸ばせるそうだ。
「大人になるにつれて、より一層『意識すること』ができるようになります。この場面では『もっと落ち着こう』『もっと相手の意見を聞こう』などとはっきり意識できれば、状況に応じて非認知能力を伸ばすことが可能です。子どものお手本になれるよう、私たちも日々伸ばし続けていきましょう」。
中山芳一先生
岡山大学全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むと共に、幼児から小中学生、高校生たちまで、各世代の子どもたちが非認知能力やメタ認知能力を伸ばすことができるように尽力。著書多数。
●「遊び」の時間を大切にする
子どもの非認知能力を育むために、最も効果的なのは「遊び」だといわれている。大人が用意した勉強よりも、自分がやりたくてやる遊びの中で、子どもは最も主体性を発揮できるからだ。
「ごっこ遊び」は想像力を育み、「工作」や「お絵描き」は創造力ややりぬく力を育み、友だちと一緒にやる遊びは協調性やコミュニケーション能力を育んでくれる。
●好きなことが
自由にできる環境をつくる
遊びが大切といっても、「この遊びでこの非認知能力を伸ばそう」と大人が意識しすぎず、子どもが好きなことを自由にできる環境を作ることが大切。子どもによって好きなことや得意なことは違うため、子どもの興味や関心を大切にして見守ろう。
●子どもの自己選択・自己決定を
尊重する
自分で考えて選んで決めたという経験が自己肯定感を育てる。「ああしなさい、こうしなさい」と一方的に押し付けず、子ども自身が納得のいく選択や決定ができるよう尊重しよう。意見が違うときはしっかり話し合うことも、コミュニケーション能力を育てる経験に。
●結果だけでなくプロセスを認める
やり抜く力などの非認知能力を伸ばすには、行動の結果だけを「評価」するのではなく、どう取り組んだかというプロセスもしっかり見て「認める」ことが大切。その中で、楽しかった、辛かったという気持ちにも寄り添おう。それが次の頑張りにもつながるはず。
●多様な人と関わる機会をつくる
読み書きそろばんなど、1人で取り組める認知能力とは異なり、非認知能力は社会性やコミュニケーション能力など、「人との関わり」の中で育まれるものも多い。家族はもちろん、友だちと協力したり、ときにケンカしたりといった経験も大切だ。多様な人と関われる機会をできるだけ多くつくるようにしよう。
●大人の都合を押し付けすぎる
子どもが何かをやりたいと言ったとき、「それは汚れるからダメ」「時間がないからやめて」など大人の都合で制限しすぎてしまうと、子どもの自己肯定感や意欲が育ちにくくなる。子どもが意欲を持ったことはなるべく応援してあげよう。どうしてもできないときは、別の機会を用意することが大切。
●子どもの失敗を感情的に叱る
子どもが失敗したとき、子どもを感情的に叱ったり責めたりすると、自信や向上心が損なわれてしまうことも。親のイライラや怒りをぶつけることでいいことは何もない。失敗という結果だけではなく、それまでのプロセスを一緒に振り返って、よかったところは「がんばってたね」と認めることが、また挑戦しようという気持ちにつながる。
●子どもが失敗しないように先回りする
「小さなケガが大きなケガを防ぐ」という言葉もある通り、子どもに失敗を自分で経験させることで、失敗を自分で避ける方法や、失敗からやり直す方法を学び、レジリエンス(回復力)が伸びていく。もちろん致命的な大ケガは大人の責任で防ぐ工夫が必要だが、必要以上に先回りしないよう気をつけよう。
●他の子どもやきょうだいと比較する
子どもの個性や得意・不得意、成長のペースは1人ひとり違うもの。「○○くんはできてるのに、あなたはできないの」と比較する声かけは、子どもの自尊心を傷つけてしまう。比較するなら、その子自身の過去と今を見つめて、「こんなにできるようになったね」と小さな成長も認めてあげよう。
●子どもの人格を否定する
「これができないなんておかしい」「お前はダメな子だ」など、子どもの人格を否定するような言葉は、子どもの自己肯定感を傷つけるだけで何もプラスにならない。子どもの性格、能力、気質はその子が持って生まれたもの。親とはまったく違う面もたくさんあるが、その子のいい面を見て伸ばしていくことが大切だ。
非認知能力とは何か、認知能力と非認知能力の違い、今重視される背景を専門家に聞いた。また、子どもの非認知能力を育てるために、家庭で必ずやりたいこと/絶対避けたいことをまとめた。
これからの時代に必要不可欠な非認知能力。それは、未知の状況をたくましく、幸せに生きる力そのものだ。一方で、それを伸ばすための取り組みは特別なことでなく、家庭でできることも多い。親子で楽しみながら伸ばしていきたい。
文:曽田夕紀子、FQ Kids編集部
FQ Kids VOL.06(2021年春号)より一部転載
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