2024.06.14
2022.10.09
2024.07.05
オルタナティブ教育には共通して「子どもの主体性を大切にし生きる力を育む」という考え方がある。だが教育法は多様で、わが子によく合う教育を知ることが必要だ。今回はおおまかに3つのタイプに分けた。特徴やキーワードを通して、考え方に共感できるものを選びたい。
タイプ1
体系的な理論に基づいた
メソッドやカリキュラム
19~20世紀にイタリアの医師マリア・モンテッソーリが提唱した教育法。最近では棋士の藤井総太さんが幼児期に受けていたことでも知られる。
子どもは、自分自身を成長させる「自己教育力」を生まれながらに持つと考え、特に0~6歳の乳幼児期は、感覚、言語、数など特定の事柄に対する強い感受性があると考えている。
保育者や教師はそんな子どもの発達を観察し、成長段階に合う環境や教具を整えるなどして、自発的な子どもの活動(お仕事と呼ばれる)をサポートする。
そのとき興味のあることに満足いくまで取り組むことを通して、自己肯定感を育みながら自分を発達させる。世界117ヶ国以上に広がっており、何らかの形で取り入れている教育機関が、国内で約2千、世界で約2万ヶ所あるといわれる。日本では幼児教育中心だが、海外では高等学校まで多数運営されている。
「鉄製はめこみ」という言語教材。1つ1つに「何の能力を伸ばすか」と目的が明確に設定され、発達段階に沿った教具を使うことで自己教育力が育っていく。
3~5歳児の部屋。子どもの手が届く高さのインテリアで、見た目が美しい教具を整理整頓して配置することで子どもが興味を持ちやすく「お仕事」に没頭できるというメソッドに沿い作られている。
感覚教具の1つ「桃色の塔(ピンクタワー)」。物の大きさや小さな差を見極める力をつけるねらいがある。
問/ウィズチャイルド
東京都多摩市内に4園
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国際モンテッソーリ教育協会(AMI)
日本モンテッソーリ教育綜合研究所
ドイツの思想家・哲学博士のシュタイナーが提唱。自らの意思によって行動できる「自由な人間」に成長するためには、からだ、こころ、あたまの3つの調和が必要だと考える教育だ。
シュタイナー教育では7年周期で段階的に発達すると考え、0~7歳はからだ(意志)、7~14歳はこころ(感情)、14~21歳はあたま(思考)が育つ時期として、それぞれの時期にふさわしい教育・活動を行う。
幼児期には天然素材のおもちゃなどを使った自由遊びを中心として、意志力の土台や想像力を育む。小学生からは教科書を使わず、音楽や芸術を取り入れたカリキュラムが組まれている。
高等部からは高度な論理的思考力も伸ばす。世界74ヶ国に1900園以上の幼稚園と1270校以上の学校があり、日本では幼稚園・保育園等は60園以上、小中一貫校が7校ある。
国語、算数、理科、社会にあたる主要科目を「エポック授業」と呼ぶ。単に文字や計算を覚えるのではなく、クレヨンで先生の絵を真似たり物語を想像し描いたりしながら学んでいく。
多摩川河川敷にある木造の校舎。建造当初、生徒の親たちも板を張るなどの作業に参加した。
シュタイナー幼児教育では、子どもに安心感を与える淡いピンクや木製のおもちゃを用いることが多い。
問/東京賢治シュタイナー学校
東京都立川市柴崎町6-20-37
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日本シュタイナー学校協会
日本シュタイナー幼児教育協会
タイプ2
子どもが選択し
大人と一緒に探究する
イタリアのレッジョ・エミリア市で始まった幼児教育。「プロジェクト」と呼ばれる活動では、子どもたちが少人数のグループで話し合いながら、興味のあるテーマを自分たちで見つけ、探究し、さまざまな方法で表現していく。
大人は答えを示したり導いたりせず探究に寄り添い、子どもの観察に重きを置いて、活動のプロセスを動画や写真などで記録して振り返りができるようにする。
また、芸術の専門家「アトリエリスタ」が、さまざまな素材を集めた「アトリエ」を作って興味のきっかけを提供するのも特徴。答えのないこれからの時代に、深掘りする力や探究心、問題解決能力、社会性などを養う。
さらに教育の専門家「ペダゴジスタ」が、レッジョ・エミリア・アプローチの理論と教室での実践を結びつけられるように現場の保育士や教師をサポートする。
アトリエには粘土や絵の具、はさみ、筆、紙、自然物、デジタルツールなどが常に用意され、子どもは自由な発想で表現できる。(写真はまちの保育園吉祥寺)
問/まちの保育園・こども園
東京都内に6園(小竹向原、六本木、吉祥寺、代々木上原、代々木公園、南青山)
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JIREA(Japan Institute for Reggio Emilia Alliance)
南フランスの公立小学校教師、セレスタン・フレネが始めたフレネ教育、イギリスのA.S.ニールが始めたサマーヒルスクール、オランダで広がったイエナプラン教育は、それぞれ独自の考え方や実践に基づいているが、教科横断型のテーマ型学習や、子どもの興味をきっかけにしたプロジェクトやその発表会、グループ・クラス・全校単位での話し合いを重視するといった面で共通の特徴を持っている。
いわゆる基礎学力を上げる学習は、総合学習に組み込んだり、子どもが自分で計画を立てて行うなど、1人ひとりのペースで進められるようになっている。
縦割りクラスで、異なる学年の子どもたちが一緒に学び合うのも特徴。小中学校が中心で、一般の私立や公立学校などに取り入れられているケースも。
手芸や工作、料理、研究などの子どもがやりたいことをやる学習時間「プロジェクト」。自分やグループで計画を立て、準備し、実行する。
「スクールワーク」は学校全体で取り組む行事などの活動。体育祭や地域の人に来てもらう夏祭りなど、子どもたちが計画し運営する。
主に5教科に取り組む個別学習の時間では、学習室にいるスタッフに質問をして疑問を解消していく
問/箕面こどもの森学園
大阪府箕面市小野原西6-15-31
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フレネ教育研究会
学校法人きのくに子どもの村学園(サマーヒルスクールを参考にした学校)
日本イエナプラン教育協会
タイプ3
決まったプログラムはなし
子どもが好きなことを自由に
デンマークで発祥した、変化に富んだ自然の中での体験を通して子どもの興味や創意工夫を引き出し、感性や仲間との助け合いなど心身を育んでいく幼児教育。園舎や拠点がある場合もあるが、園舎を持たずに毎日自然の中に出かけて1日を過ごすスタイルのところもある。
フィールドは森だけでなく、野山、川、海、畑、自然公園など、その地域ごとの里山文化を組み込んだ多様な自然。その中で子どもが主体的に遊び、活動する実体験を通して学び、成長していくのだ。
子どもの主体性を大切にして、命に関わること以外は止めることはせず、多少の危険やケガ、暑さや寒さや雨などの体験からも身の守り方を学ばせていく。イベントや自主保育サークルなどから気軽に始めやすく、全国に広がっている。長野県や鳥取県など、自然保育を積極的に支援している地域もある。
森の中には、色とりどりの草花、吹き抜ける風、泥の感触など、子どもの五感を刺激するものがたくさん。子どもたちが自然の中でやりたいことを選択していく。
自然の中で思いっきり身体を動かすとお腹もペコペコに。ランチはもちろん、森の中でのお弁当だ。
運営するもあなキッズ自然楽校では、季節ごとに小学生対象の日帰り自然体験プログラムを用意。
問/森のようちえん めーぷるキッズ
神奈川県横浜市都筑区中川中央1-39-11-1F
(NPO法人もあなキッズ自然楽校 事務局)
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森のようちえん全国ネットワーク連盟
アメリカのサドベリーバレースクールで始まった、子どもがいつ、何を、どのように学ぶか、学ばないかを自分で決められる学校。自己決定と話し合いによる民主的な学校という意味でデモクラティックスクールと呼ばれることもある。
ここでの学びの主役は自分。授業やテストは一切なく、1日をどうやって過ごすかは子ども本人が自由に決められる。その中で自由に学び、必要に応じて専門スタッフに聞いたり専門施設で学ぶことも可能だ。
お互いにやりたいことをやる中で、問題が起こったときは、全員でミーティングを開いて話し合う。スクール運営に関する大事な決定は、大人も子どもも平等な1票を持った投票で行う。自由と責任のある環境の中で、自分の人生を自分で決めることや、他者と共存し協働する社会性を育てる。
漫画を描いたり、楽器を使ったり、パソコンで調べものをしたり……時間の使い方はすべて子どもたちの自由。
企画書制作、プレゼン、生徒とスタッフの承認を経て行うプロジェクト。今年の夏はサーフィンスクールプロジェクトを掲げ、プロに教わり楽しんだ。
スクールミーティングでは、ルール決めや新プロジェクトの立ち上げ、継続プロジェクトの報告などが行われる。
問/西宮サドベリースクール
兵庫県西宮市広田町2-15
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デモクラティック・スクールネットワーク
※園・学校数は2023年時点の編集部調査によります。
海外発祥の教育以外にも、日本で独自の教育を行うオルタナティブな園や学校はたくさんある。その一部を編集部がピックアップして紹介!
対象:小学生~中学生
常識に縛られない「教育エンターテイメント」を掲げる新しい教育の実践研究機関。『あそび心=知能を高める』をテーマに、子どもたちが自ら「学びたい!」と思える仕掛けを創り出す。国立「大阪教育大学平野小学校」で新しい教育を実践してきた「未来そうぞう科」メンバー等の多彩なスタッフと、子どもたちが共に創り上げていく場。
設立:2023年4月
HP:amazing-college.com
対象:幼稚部 プリスクール…20ヶ月~3歳・キンダースクール…3~5歳児/初等部…小学生
「自分が子どもの時に行きたかったスクールを創ろう!」という想いで設立された、子どもの主体性を大切にした“ウェルビーイング”を広げていくスクール。幼稚部は自然体験とバイリンガル教育が特徴。初等部は探究学習や自由進度学習が特徴で、自分で学び、問いをもち、アウトプットにつなげていくことを大切にしている。
設立:幼稚部 2019年4月/初等部 世田谷校2022年4月、代々木校2023年9月
HP:幼稚部 www.hillock-kinder.com/初等部 www.hillock-primary.com
対象:プレ初等部…3~5歳児/初等部…小学生
「学び続ける人」「創造する人」を目指し、探究する学びを行うマイクロスクール。カリキュラムは独自のフレームワークをもとに構成され、常に改善され続けている。テーマ学習では、人間が生きる上で欠かせない6つの探究領域を設定し、教科融合型で学ぶ。子どもとスタッフ全員が集まって話す「朝の会」、さまざまなプロに学ぶ「達人」などの学びも。
設立:プレ初等部 2016年4月/初等部 2004年8月
HP:www.tokyocs.org
対象:小学部…小学生/中学部…中学生
「自分らしく十分に生きる学校」「学ぶことの本質を味わう学校」「よりよい未来をともに創る学校」を基本理念に掲げる学校。子どもが自分で選ぶプロジェクト、教科横断のテーマ学習、子どもの自治を目指す「クラスタイム」や「全校ミーティング」などでの話し合い、遊びと学びを区別しない「自由活動」などを通して、自立と共生のチカラを育む。
設立:2018年10月
HP:www.yuinomori.org
対象:バンビーナ…3~5歳児/フルスクール、あーる…小学生/エッジ…小5~中学生
1人ひとりが自分のもっているものを発揮し、主体的に生きてほしいという願いから生まれたスクール。幼児向けのバンビーナはモンテッソーリ教育を実践。フルスクールは基礎学力をつけるベーシック学習と、子どもの興味で探究するテーマ学習、プロジェクト学習等で構成。あーるやエッジでは好きなことを徹底探究し、人同士が共創する学びを実施。
設立:フルスクール 1998年4月/バンビーナ 2000年4月/ラーンネット・エッジ 2020年4月/あーる 2023年6月
HP:www.l-net.com
対象:ようちえん…満3歳~5歳児/自由な学校…小学生
田んぼと畑がようちえんと小学校。「ほめない、しからない。認める教育」で主体性を尊重。子どもも保護者もスタッフも互いの気持ちを聴きあい、ひとが本来持つ力を健やかに育む。誰もが「のびやかな自分」になるための学びの場。学外からも参加できるキャンプも年間を通して実施している。教育や子育てに関する質問に熟練スタッフが応答する「とえっくらじお」も配信中。
設立:ようちえん 1990年4月/自由な学校 1998年4月
HP:toec.jp
対象:満3歳~5歳児
大自然の中の幼稚園。毎日家族で一緒に登園できる。親子の愛着関係を育むため子どもと一緒に過ごすことができ、その後の自律を促す。大人同士でおしゃべりや企画をするなども自由。スタッフから子どもとの接し方を学んだり、親同士で学びあえるのもメリット。子どもは好きな場所で好きなことをして遊び自発性を養い、豊かな自然の中で五感がバランスよく育つ。
設立:1988年4月
HP:sapporo-tomoe.jp
監修:NPO法人いきはぐ
FQ Kids VOL.16(2023年秋号)より転載
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