2022.08.31
2021.11.19
2023.11.02
かわいいわが子とはいえ、子育てはいつも楽しい時間ばかりではない。子どもの気持ちを理解できないと感じたり、予想外の行動をとるわが子に対し、ついイライラしてしまうこともあるはずだ。なかには「何でこの子はこうなんだろう……」「私の育て方がいけないの?」と悩みがちなパパ・ママもいるだろう。
こうした子育ての悩みを抱えないためには、子どもの個性をよく理解した上で、その子に合った接し方を知る必要がある。そこで今回は、わが子の個性を知るためのひとつの手がかりとして、ドイツ発祥のシュタイナー教育で取り入れられている「気質」の考え方をご紹介したい。
「本来、子どもは自分で自分を教育する力を持っています。教育というのは、子どもの周りにある障害物を取り除くこと。そのためには、親や教師が子どもの個性を理解することが必要です」と語るのは、東京賢治シュタイナー学校でシュタイナー教育を実践する鳥山雅代先生。
子どもの個性を理解することは、「わかってもらえた」という子どもの自己肯定感にもつながる。
シュタイナー教育では人間は4つの「気質」を持っていると考えられている。誰もがこの4つすべての気質を備えているが、特に幼少期〜学童期は1~2つの気質が強く出る傾向がある。
各気質には良い面も困った面もある。例えば「胆汁質」と呼ばれる熱血やる気タイプの子どもは、怒りっぽい反面エネルギーにあふれており、目標が決まれば全力で取り組むことができる。
親は「どうしてこの子はいつもこんなに激しく怒るのだろう?」と思うことがあるかもしれないが、その子の気質を理解してそのエネルギーをうまく導いてあげることができれば、より良い親子関係や子どもの自己肯定感を育むことができるだろう。
子どもが自分と違う気質であった場合、わが子であってもうまく理解することができず、時には逆効果となる言葉をかけてしまうことがあるかもしれない。「親子の相性が悪いのかも」と悩む方は、気質について学び、わが子に合ったほめ方・叱り方について考えてみるのがおすすめだ。
教育とは、子どもの周りの障害物を
取り除くこと
子どもが本来持っている個性を発揮するために、その子の気質を理解して、本当にやりたいことへと導いてあげよう。それが子どもの成長の障害物を取り除く第一歩となる。
障害物がなくなれば、
自分で自分を教育できる
親や周囲の大人が子どもの個性を受け止め、障害物を取り除くことで、「わかってもらえた」という実感と自己肯定感につながり、本来備わっている自己教育力を発揮できる。
子どもの「気質」に合わせた教育とは
例えばエネルギーにあふれた子ならその力を前向きな目標に向けられるように導いてあげたり、行動がゆっくりな子ならその感性を育てるために急かさず見守ってあげたりと、それぞれの子の気質に合わせた環境を整えることが、大きな成長につながっていく。
「気質」を学んで
子どもの「個性」を知る
「私たちの性格は、4つの“気質”から構成されると考えられています」と鳥山先生。
明るく、ほがらかで行動的な「好奇心旺盛タイプ(多血質)」。エネルギーにあふれ、強い意志を備えた「熱血やる気タイプ(胆汁質)」。「ゆっくり穏やかタイプ(粘液質)」は、ゆったりとしてマイペース。「シリアス慎重タイプ(憂鬱質)」は真面目で注意深く、五感が鋭いのが特徴。
各気質を理解すれば、その子に合わせたほめ方・叱り方も見えてくる。
あらゆるものに興味を持ち、いつも好奇心にあふれている。切り替えが早く、行動が素早いのも特徴。その反面、飽きっぽいところがあり、長く集中力を保つのが難しいところがある。
炎のように大きなエネルギーを持っており、いったん目標が定まると全力でやりとげる。決断力があり、積極的。ただ、自分が思うようにできないと怒りにつながる。
真面目で誠実。五感が鋭く、周囲への観察力がある。どんなことも深く考えることが特徴だが、嫌なことを忘れられず、いつまでもくよくよと考え続けてしまう傾向もある。
いつもおっとりマイペース。同じことを繰り返すのが大好きで、根気強い。自分が居心地のいい状態のままでいることが好きなので、他人のスピードに合わせるのは苦手。
4つの気質があるといっても、「ウチの子は“熱血やる気タイプ”だから、深く考えないのはしょうがないのね」と単純に考えるのはNG。本来、人は4つの気質をすべて備えており、混ざり合っていると考えられている。
エネルギッシュな子でも何かをじっくりと考え込むことや、悲しい気持ちに向き合うことは当然ある。ただし、幼少期~学童期は1~2つの気質がストレートに出やすいため、各気質の特徴を知れば、子どもの気質をつかむのもスムーズだろう。下表を参考に、ぜひわが子の気質について考えてみよう。
また子どもだけでなく、自分自身の気質について考えてみるのもおすすめ。親が自身の気質と子どもの気質の組み合わせについて考えることは、「どうしていつも子どもの行動にイライラしてしまうんだろう」といった親子関係の悩みを解決する一助となるはずだ。
自分&子どもはどのタイプ?
「気質」を知るチェック表
□ 人懐っこいきょろきょろとした視線
□ いつも誰かと一緒
□ 軽やかな春風のような足取り
□ 新しいものを発見
□ みんな大好きでなかなか席に座れない
□ 鋭い目
□ しっかりとした足どり
□ 大きな声
□ 常に目標を持つ
□ 積極的
□ 短気
□ じっと観察する目線
□ 慎重な足取り
□ いつも何かを考えているがそれを隠す
□ 真面目で静か
□ 気持ちを外に出さない
□ 同情できるが批判的である
□ 悲劇の主人公になる傾向がある
□ 穏やかでまどろんだ目
□ 左右に揺らした、落ち着いた足取り
□ 常にのんびりマイペース
□ 消極的な姿勢
□ 居心地がいいのが好き
シュタイナー教育の提唱者であるルドルフ・シュタイナー(1861-1925年)は、オーストリア(現在のクロアチア)生まれの哲学者であり、思想家でもある。身体・心・頭が調和して、自立した人間を育てることを目指す教育を構想し、現在、世界60数ヶ国に1000校以上の学校と1500園以上の幼稚園がある。
日本では全日制学校が7校、幼稚園・保育園等は50園以上あり、土曜学校や親子クラスなども各地で開催されている。
「胆汁質」は赤、「多血質」は黄色、「粘液質」は緑、「憂鬱質」は青で表現。
シュタイナーの「気質」の考え方はギリシャ哲学などを基にしており、身体の中に流れる体液などに由来した「胆汁質」「多血質」「粘液質」「憂鬱質」という名称がつけられた。4つの「気質」は赤・黄・緑・青の色や、火・風・水・土のエレメントに例えられることもある。
4つの「気質」で学ぶ
子どものほめ方・叱り方
親や大人から「大切な存在」として受け入れられることを喜びとするので、「お母さん、これ見て!」「パパ! できたよ!」というわが子に対し、一緒に驚き、喜んであげることが大切。
子どもが良かれとしてとった行動が裏目に出ることもあるが、そこで強く叱っても何が悪いのか理解できず、「〇〇してあげたかったのに」と理不尽に感じることがあるので、子どもの気持ちに寄り添った叱り方が必要となる。
「多血質」の子のほめ方
「見せたい」「してあげたい」という気持ちがあふれた行動には、一緒に喜び、子どもへの共感を十分に示そう。「ありがとう!」「本当に助かるよ」という言葉をかけることが、「受け入れられた」という自己肯定感につながる。
「多血質」の子の叱り方
特に低学年以下の場合、なぜ叱られたかわからないケースも多い。例えばコップを割ってしまった時は、割れたコップを見せて「何をしたのか」を視覚的に認識させ、「お父さんは悲しいな」と気持ちを伝えてみよう。
常にやる気とエネルギーにあふれる「熱血やる気タイプ」は単にほめるだけではなく、目標や計画を提示して、達成したときに「できた! すごいね!」と声かけをするとさらにやる気がアップする。
カッとなりやすい面があるため、感情のコントロールができないタイミングでは「今〇〇をしたね」と事実だけ指摘して。時間を置いて冷静になった時に「あの時〇〇してしまったことはどう思う?」と静かに話し合う時間を持とう。
「胆汁質」の子のほめ方
「今日はこのことを頑張ろう!」とあらかじめ目標を提示。頑張って達成したときにはしっかりほめてあげよう。「じゃあ次はこうしてみたらどうかな?」と新たなゴールを設定すると、さらなる向上心につながるはず。
「胆汁質」の子の叱り方
子どもが怒りに任せた行動をとってしまう時は、「今、君はおもちゃを投げたね」と静かに事実だけ指摘を。その場で互いが感情的になると、怒りから攻撃的になってしまうが、冷静になれば自分で反省もできるようになる。
常に自信を失いがちだが、安直なほめ言葉はNG。慎重で、本心からではない言葉を見抜くので、その子自身が頑張ってできた小さな一歩を見極め、「頑張ったね!」と声をかけてあげることが大切。
比較されることに敏感なので他の子とは比べず、「昨日の自分」と「今日の自分」を比べて成長を示してあげよう。叱るときも他の子や兄弟と比較した言葉はNG。共感力が強いので、物語などのイメージを使って働きかけてみよう。
「憂鬱質」の子のほめ方
自己評価が低くなりがちな傾向にあるので、小まめなフィードバックが必要。「昨日よりもきちんとお片づけできたね!」など、小さな努力の一歩を認めてあげることが、「頑張ったらできるようになるんだ!」という自信へとつながる。
「憂鬱質」の子の叱り方
「お兄ちゃんはできたのに!」といった比較する叱り方は絶対にNG。国内外の昔話や童話などのエピソードを交えながら、「嘘をつくとこんな恐ろしいことが起こるんだ」といった、共感力に働きかけるのが効果的。
自分の穏やかな世界を大切にするので、その子のペースや行動を守るための環境づくりを心がけて。例えば着替え・歯磨きの場所やタイミングが毎回違うとすぐ対応できないことがあるので、いつも同じになるよう心がけるとスムーズになるだろう。
急な変更や他の人のペースに合わせるのが苦手なので、焦らずに済むスケジューリングを心がけて。ほめたり叱ったりして動かそうとするよりも、じっくり自分のペースで取り組む時間をあげることが、親子の信頼関係を築くはずだ。
「粘液質」の子のほめ方
自分の世界をしっかり持っているので、大げさにほめて動かそうとしなくてもOK。時間と猶予を確保して、その子のペースが守れるように協力してあげれば、安心して少しずつでも自分でできることが増えていく。
「粘液質」の子の叱り方
他の子や親のペースと比較して、感情的に叱るのは逆効果。焦って急かすほど逆にゆっくりになってしまうこともあるので、早めに「今日は10時に出発するよ」と予定を提示して、自分のペースで準備できる時間を作ってあげよう。
鳥山雅代さん
教育者。ドイツでシュタイナー教育を学び、シュタイナー学校の教師となる。現在、東京都立川市にある東京賢治シュタイナー学校で教師を務める他、シュタイナー教育に関する講座や、動画・音声配信などで情報を発信。シュタイナー教育に関する訳書多数。
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文:藤城明子
イラスト:岡本倫幸
FQ Kids VOL.14(2023年春号)より転載
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