2022.07.20
2024.05.31
2022.12.12
そろそろ、こたつの季節ですね。あれば何となく入ってしまうし、寒ければ寒いほどなるべく出たくないのがこたつ。家族みんながそうだから、入ってしまえば揃ってずっとそこにいて、思い思いのことをしています。
食卓であり、遊び場であり、勉強机で、保温器で、どの役割の時にもリラックスした団らんの場であるのが、こたつです。こんなに用途の広い家具も、なかなか見当たらない気がします。
そんなこたつを、真上から見つめ続けるのが、『こたつ』(麻生知子/作、福音館書店)という絵本です。
『こたつ』
あらすじ&非認知能力を伸ばすポイント
麻生知子/作、福音館書店
この絵本は、どのページを開いてもこたつ、こたつ……。4人と1匹の一家が集うこたつを、大晦日の朝から元日まで、定点観測で描き続ける一冊です。
大晦日の寒い朝、整えられたこたつでお父さんがくつろいでいると、こうたくんが起きて来て入ります。やがておばあちゃんもお母さんも来て、天板の上は朝ごはんの食卓に。次第にちらかり、時に整えられながら、おせち作りや宿題の場へと移り変わります。
他者との「いる」を感じ合う場が
社交性の土壌を育む
絵本の中のこたつは、家族の生活の中心で、みんなの動きをそのままに映し取っています。さながら生き物のようです。
誰かの「いる」気配を間近で感じながら、自分もそこにいる。あの感覚が、ページを眺めていると呼び起こされます。こたつに入ったことのある子なら、この感覚を共有できるでしょう。これを肯定的に味わう時、人を受け入れる土壌が静かに耕されているはずです。
社交性というと、饒舌さなどに目が向きがちですが、まずは他者と場を共にできる安定感が、子供の内側に築かれることが先決です。
混沌・同時多発的な人付き合いを
「絵を読んで」理解する
絵本には、みんなが無言で好き好きに過ごす一幕や、おばあちゃんの眼鏡が行方不明になるハプニングも描かれます。そういう場面も、やはり読む子の社交性の土壌を豊かにするでしょう。
人の動きは本来、予定にないことの連続ですし、何をしているのかラベリングできることばかりではありません。その混沌性を、現在と将来の人付き合いの前提にできると、コミュニケーションは円滑になります。
さて、本作では実にさまざまなことが同時多発的に起こりますが、「こんなにたくさんの要素を子供に読み取れるだろうか?」という心配はいりません。
子供は教えなくても、「絵を読む」という絵本の楽しみ方の大前提を知っています。絵さえあれば、描かれた情景をひと息に体感することができるのです。大人には理解されにくい、絵本というメディアのすごさが、ここにあります。
絵本ワークショップ研究家/ワークショッププランナー/著述家
寺島知春
『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)著者。東京学芸大学個人研究員。約400冊の絵本を読み聞かされて育った体験と、絵本編集者の経験とを軸に、2010年より絵本の専門家として各種メディアで執筆。東京学芸大学大学院で絵本とワークショップについての研究を開始し、2020年に修了した。現在は、絵本とワークショップに関する執筆や、幅広い年齢層に向けたアートワークショップ、各地での講演やゲスト講義を行う。「アトリエ游」主宰。
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Note:アトリエ游 てらしまちはる・寺島知春
公式サイト:あそぶ、育つ、癒される。アトリエ游
『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』
¥1,760(税込)
多岐にわたる非認知能力を、OECD(経済協力開発機構)による9つの分類をベースにしてわかりやすく紹介。絵本で非認知能力を伸ばすために重要なポイントや、子供が面白がる180冊などを詳しく解説している。
文:寺島知春
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