2021.06.27
2024.05.29
2024.11.25
たくさんの絵本とともにあった筆者の子ども時代。毎晩、好きな1冊を本棚から選んで寝床に持っていくと、母が私たち姉妹を待ち構えていて、順番に開いては読んでくれたものでした。
特に出番が多かったのは『めっきらもっきらどおん どん』(長谷川摂子/作、ふりやなな/画、福音館書店)、それから『くずかごおばけ』(せなけいこ/作、童心社)、『ぐりとぐら』(なかがわりえこ/作、おおむらゆりこ/絵、福音館書店)などなど……。
慣れ親しんだ表紙をみんなで覗きこめば、まもなく、読んでくれる母の声が頭の上を流れ始めます。それは文章というよりも、なんだか歌みたいで、とても心地よいのでした。
そうやってお話を聞きながら絵を楽しむ間にも、隣に寝転がる母や妹たちの体温、息遣いをいつもそばに感じていました。
こうした肉声の心地よさやぬくもりが、子どもの私にとっての幸せそのものだったと、今思います。絵本の中に描かれたお話の光景に浸ることはもちろんワクワクしましたが、それ以上になくてはならなかったのが、これらの感覚でした。
それからもう一つ、大好きだと思う瞬間がありました。それは、母が心底面白そうにしている姿を目にした時でした。
例えば『ぐりとぐら』を開く日に、母はいつも「♪ぼくらの なまえは ぐりとぐら~」とわが家お決まりのメロディーで歌ってくれました。そうしている彼女のリラックスした様子は、日常のどんな時よりも幸せそうに私の目には映りました。
私がこういう親の姿を垣間見た時には、自分の身体の内側にキラキラしたものが生まれると同時に、とてもほっとして、大きな安心の中にいられました。
絵本は愛の体験なのだと、大人になった私は強く思います。一冊一冊は、置いておくだけならただのモノに過ぎません。けれど表紙を開いて一緒に覗きこみ、大人がその声で読んでくれることで、生きるのです。
この積み重ねは、子どもの内側に一生続く愛の記憶となって宿ります。だから、私は絵本を勧めるのです。
さて、今号は大人がいろいろな面で新鮮さや面白さを感じられる作品を選びました。あなたがとっぷり浸ると、子どもたちの内側にきっと「キラキラ・ほっ」が生まれるでしょう。
専門家がおすすめ!
大人が新鮮さや面白さを感じる絵本3選
3・4歳ごろ〜誰でも
『かようびのよる』
デヴィッド・ウィーズナー/作・絵 当麻ゆか/訳 徳間書店 2000年
ある火曜日の、夜8時ごろ。池でいつも通りの静かな時間を過ごしていたカエルたちが、突如、ふわりと宙に浮かびました。みんな空飛ぶ葉っぱに乗っています。
何匹いるのかわからない。どこへ行くのか、なぜこんなことになったのか……たぶん誰にもわかりません。そういうことって、あるのです。カエルの大群は、夜ふけの町を奇妙に進みます。
アメリカの優れた絵本に贈られるコールデコット賞を受賞した、ロングセラーです。描く力の巧みさに、本当にそんなことがあるような気になってきます。
文はごく少なく、絵によって流れる物語をともに固唾をのんで見守ることになりそうです。心躍る秘密を親と共有する感じは、子どもにとって格別でしょう。
2歳ごろ〜誰でも
『ぴっけやまのおならくらべ』
かさいまり/文 村上康成/絵 ひさかたチャイルド 2003年
昔々あるところに、ぴっけやまという山がありました。ここに住む動物たちは、くらべっこ遊びが大好きです。毎日「こちょこちょくらべ」や「おおごえくらべ」なんかをして、みんなで遊んでいました。
ある日、おいもを食べ過ぎたねずみが「ぷっ!」とおならをしたのをきっかけに、おならくらべをすることになります。動物たちは準備と練習に余念がありません。さて、勝負に勝つのは一体だれなのでしょうか?
いろんな色の、いろんな音の、たくさんのおならが画面をにぎわせます。ねずみのおならや鶴のおならをどうしたら表現し切れるか、ぜひ真剣に挑戦してみてください。そんな親の姿を、子どもはちゃんと見ています。
3・4歳ごろ〜誰でも
『おでこはめえほん① けっこんしき』
鈴木のりたけ ブロンズ新社 2017年
とにかく笑える一冊です。画面にはかつらのようなものだけが描かれていて、くり抜かれた顔部分に自分のおでこをはめて遊びます。登場する(つまり、読者自身がなりきることになる)のは、結婚式にやって来た面々です。
例えば、花嫁のページには「はなよめさんはにっこりえがお」など、表情を表す文章が添えられていますから、家族でなりきって遊んでみてください。
もしかしたら、恥ずかしがる子もいるかもしれません。そんな時こそ、大人の見せ場です。どうぞ渾身の一発を繰り出す勢いで! 変顔だって大歓迎です。「何やってんだこの人は」と子どもに思われるくらいで、ちょうどうまく「面白がる姿」が伝わっているものです。
※「対象年齢」は寺島知春先生の基準によるものです。各絵本の出版社が提示しているものとは異なる場合があります。
寺島知春
絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、元・同
大個人研究員。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。
FQ Kids VOL.18(2024年春号)より転載
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