2021.05.01
2021.07.01
2022.11.28
絵本『ぼちぼちいこか』(マイク・セイラー/作、ロバート・グロスマン/絵、今江祥智/訳、偕成社)には、一頭のごきげんなカバくんが登場します。体格が良いこのカバくんは、トライする意欲が旺盛です。
憧れの職業に胸を躍らせて、実際になってみます。「ぼく、しょうぼうしに なれるやろか」「ふなのりは、どうやろか」。けれど、体の重さではしごは折れ、船は沈んでしまいます。せっかく挑戦しても、結果の方はとことんダメ続きなのです。それでも本人は、失敗から目をそらさずに、いつもゆったりと構えています。
読んで気持ちの上がる一冊です。大阪出身の今江祥智による訳が、独特の「いい隙間」を生んでもいます。
子供たちは、カバくんのポジティブなあり方を、この絵本を何度も開いて面白がりながら、感覚で心地良く捉えていくでしょう。大人も難しいことを考えずに、一緒になって面白がっていてください。大人のその姿に、子供たちは「これでいいんだ」と思えますから。
『ぼちぼちいこか』
あらすじ&非認知能力を伸ばすポイント
マイク・セイラー/作、ロバート・グロスマン/絵、今江祥智/訳、偕成社
重量級のカバくんは、いろいろな職業に挑戦します。消防士に船乗りと、トライする姿には未来へのワクワク感がいっぱいです。でも、希望に反して現実は、夢破れることの連続です。それでも彼は、今日もユーモラスに生きています。
ユーモアと気持ちの切り替えが
歩みへの気負いをラクにする
「ユーモアをもって生きなさい」とか、「失敗にめげる必要はない」というメッセージは、子供に言葉で伝えようとすると、なかなか難しいものがあります。この絵本はそれを、3~4歳の子にも無理なく受け止められる軽快さで伝えています。
どんなにダメ続きでも、ユーモアがあれば深刻になりすぎないということ。そして、やってもやってもダメならば、「ぼちぼちいこか」と気持ちを切り替えるのも手だということ。
人生は、成功ばかりで突き進めるものではありません。複雑さを増す現代なら、なおのことです。そして、無数の失敗をするからこそ、それを糧にして答えにたどり着くことができます。
生きるという難題に、子供たちはやがて対峙します。もしかしたら、すでにその必要のある子もいるのかもしれません。そんな時に、失敗にめげないカバくんの楽観性とユーモアは、歩みへの気負いをずいぶんと楽にしてくれそうです。
絵本ワークショップ研究家/ワークショッププランナー/著述家
寺島知春
『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)著者。東京学芸大学個人研究員。約400冊の絵本を読み聞かされて育った体験と、絵本編集者の経験とを軸に、2010年より絵本の専門家として各種メディアで執筆。東京学芸大学大学院で絵本とワークショップについての研究を開始し、2020年に修了した。現在は、絵本とワークショップに関する執筆や、幅広い年齢層に向けたアートワークショップ、各地での講演やゲスト講義を行う。「アトリエ游」主宰。
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Note:アトリエ游 てらしまちはる・寺島知春
公式サイト:あそぶ、育つ、癒される。アトリエ游
『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』
¥1,760(税込)
多岐にわたる非認知能力を、OECD(経済協力開発機構)による9つの分類をベースにしてわかりやすく紹介。絵本で非認知能力を伸ばすために重要なポイントや、子供が面白がる180冊などを詳しく解説している。
文:寺島知春
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