しつけに必要な「気づかい」のデザイン的思考とは? 仕事と子育ての意外な共通点

しつけに必要な「気づかい」のデザイン的思考とは? 仕事と子育ての意外な共通点
「にほんごであそぼ」「デザインあ」や、誰もが目にしたことのある数々のアートディレクションを手掛けるグラフィックデザイナーの佐藤卓さん。その一流のデザインワークと子育てにおいて共通する大切なこととは?

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こうすればいい、という
決まったやり方はない

日頃のデザインの仕事において、具体的に「デザイン的思考」をどのように用いているのか、フレームワークを聞かれることがよくあります。読者さんの中には「早寝早起きやお片づけを、デザイン的思考を用いて子供に習慣づけられないか?」と期待されている方もいるかもしれませんね。実は、私自身は「デザイン的思考」の回路やプロセスなどは全く決めていません。

デザインとは「あいだを適切につなぐ」ことだと思っています。世の中にはいろんな「あいだ」があります。

例えば私がパッケージデザインをした『明治おいしい牛乳』。この場合の「あいだ」は、「牛乳」という液体と、世の中の「人」との間でした。限りなく絞りたてに近いおいしい牛乳の味が味わえる画期的な新技術によって生み出された「牛乳」と、「人」をつなぐにはどうしたら良いか。その「あいだ」には、パッケージやネーミング、値段、人々への広告、伝え方など、いろいろあります。しかも、置かれている状況や条件など、「あいだ」は毎回異なります。

また、「にほんごであそぼ」のアートディレクションでは、「日本語」と「子供たち」をつなぐために、テレビというメディアで、10分間という短い時間で何ができるかを考える必要があります。日本には、能や狂言といった素晴らしい芸能文化がありますから、その方たちにも参加いただいて、子供たちに伝えてみたらどうか、とみんなで話し合いました。

つなぎたいコト・モノ・ヒト、それぞれのことを深く理解しないと、適切につなぐことはできませんし、そこには「気づかい」が必要不可欠です。そこで自分のやり方を貫く、押し付ける、我を出すと無理が生じます。だから、自分のやり方を決めるつもりは一切ありません。

デザインワークと
子育ての共通点

デザインの仕事では、個性的な表現を求められる傾向があり、自分らしさとは何かを考えざるをえないこともあります。だからいつも、その都度その都度、自分が置かれている環境を把握したうえで、「自分がやるべきことはなんだろうか?」とまっさらな状態から考えます。そこで私がすべきことは、相手のお話をよくお聞きして初めて、その時に思いついたことをご提示します

もしも相手から「こういうプロセスでやりたい」と言われた時は、自分が理解できるものであればそれに合わせますし、理解できなければ、「なぜそういうプロセスでやりたいのか」をご質問します。疑問に思えばさらに質問します。

いろんなコト・モノ・ヒト、ありとあらゆる「あいだ」があり、つなぎ方も無数にあり、しかも、毎回違う。時と共にどんどん変化していくものです。だから常に「このつなぎ方でいいのか?」という疑いの目を持ちながらチューニングするのです。デザイン的思考を使って子供を動かす、ということはとてもできませんが、子育てや親子の日常的なやりとりにおいて大事なことは、デザインワークと似ているところがあるかもしれませんね。

しつけとは
デザインマインドそのもの

子供の「しつけ」のことを考えた時、やはり、デザインはすべてにつながっているのだなと、あらためて思います。

昔は「ご飯は1粒も残さず食べなさい」とよく言われていたもので、それが今でも身に染みついています。そのおかげで、米づくりをしてくれている農家さんをはじめ、モノづくりをしているすべての方々への感謝やリスペクトを自然に感じることができている。親のしつけはとてもありがたかったと思っています。

「どうしたらいいかを子供と一緒に考える」のも大切ですが、しつけは子供と一緒に考えてやっていくものではありません。電車の座席に運動靴のままあがって窓の外を見ている子供が、人に迷惑をかけているのに何も言わない親御さんを見かけます。

叱り方に関しては難しいこともありますが、うるさくしてはいけない状況で子供がうるさくしたら、「静かにしていなさい」と叱ってもいい。それは他者への気配りであり、他者を思いやることだからです。しつけはまさに、「まわりへの気配り」というデザインマインドでもあります。

モノを置く動作1つにしても、みんなが使いやすいように置くとか、通る人のジャマにならないように置くとか、いろいろ考えてモノを置くことがデザインマインドの基礎なのです。しつけが身につくことで、生涯にわたって必要な、そうしたまわりへの気づかい・デザインマインドも培われていきます。

「親からのしつけにはデザインマインドがあったのだ」ということにはあとから気づかされました。何年も経ってから、「ああ、あれはありがたかったな」と親に感謝することがたくさんあります。その時には理解できなくても、少しずつ子供なりに咀嚼しながら自分の腹におさめることが重要なのではないでしょうか。

子供は親をよく見ています。親が楽しそうなら子供もやってみたくなるし、つまらなそうだったら興味もわかないでしょう。周りへの気づかいをしているか・していないか、も。親がいつでも子供のお手本です。

PROFILE

佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。

PICK UP!

『マークの本』
佐藤 卓/著・文(紀伊國屋書店)¥2,750(税込)

自らが手掛けたシンボルマークやロゴの制作背景にある思考と技術を解説した、2022年5月発売の新刊。卓越した技術で細部まで磨き上げられた秀逸なマーク120点を、関連図版とともにオールカラーで収録。

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文:脇谷美佳子

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