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2020年3月29日、C.W.ニコルさんが亡くなりました。FQKidsの兄弟誌「FQ JAPAN vol.31(2014年夏号)」で語っていただいた、「森と人との関わり方」についてのインタビュー記事を、改めて追悼掲載します。
弱冠17歳で北極地域への調査探検をはじめたC・W・ニコルさん。イギリス、カナダ、エチオピアなど、世界各地で自然保護活動に取り組んできたことでも知られている。初来日は1962年。空手修行が目的だった。
「僕が日本に来た頃、森には子供がたくさんいたんです。森の生き物にもすごく詳しかったので、僕はみんなに日本の自然を教えてもらった。森の中で出会う子供たちは可愛くて、生命力が溢れていましたよ」。
青い目を輝かせながら、50年前の森の思い出を語るニコルさん。その直後、我々編集部の「今や自然は身近ではなくなっているのでは?」という問いに顔を曇らせる。
「日本の森林面積がどのくらいあるか知っていますか? 国土の約67%です。英国は約12%。森にある木の種類も、日本は千種類以上。でもイギリスは8種4類しかありません。日本列島は南北3000kmもありますよね? 北は北極圏に近いところ、南は亜熱帯まで広がっている。しかも、一番低いところと高いところの標高差はイギリスの3倍近くあるんです。アマゾンと日本くらいかもしれないですよ、これほどバラエティに富んだ自然があるのは。こういう話をすると決まって『すごいですね』『知りませんでした』って驚かれます。でもみなさん、日本人でしょう? 別に知らなくてもいいけど……でもそれは、どこか寂しくないでしょうか? 日本人は一体、どうしたのか。僕はなんだか怖いですよ」。
日本が経済力を世界に誇示し始めた頃から、子供たちが森から消えていったとニコルさんは指摘する。
「日本で絶滅した生き物って、たくさんいますよね。僕は日本の子供もそのうちのひとつだと思います。最近はみんなスマホをいじっているでしょ。『あなたたちはバーチャルの世界で生きるの?』と僕は言いたい。人間のDNAの半分は海、もう半分は森で生きるようにできています。そんな人間がコンクリートに囲まれた世界で生きたらどうなるか。今『自然欠乏症候群』にかかっている子供がすごく多いんです。注意力がないから、クルマが来ても平気で道路を渡る子がいるし、目の前で虫が飛んでいても、気付けない子もいる。生きるために必要な体験が足りていないんです。石を投げたり、木に登ったり……。友達や兄弟と一緒に、親から離れて探検をするのも大切な経験。つまり、脳の発達に必要なことが、自然の中に無数にあるわけです。これがすごく大事なのです」。
ニコルさんは今、宮城県東松島市で森の中の学校を作っている。れっきとした公立小学校だ。「文部科学省の定める教育だって、森の中でできますよ。焚き火をすれば、火がどういうものかわかります。炭を持って帰れば、化学の勉強もできますよね。ほかにも、生物だって体育だってやろうと思えばなんでもできる。みんなやろうとしていないだけです」。
森こそ最高の学びの場。子供たちから自然に触れる機会を、親が奪うようなことがあってはいけないのだ
ニコルさんたちが管理している長野県信濃町に位置する「アファンの森」には、東日本大震災で被災した子供や、両親からの虐待を受けた子供など、心に傷を持った子供たちが訪れている。
「森の中にツリークライミングができるところがあります。子供たちは4〜6mくらいの高さにくると、すごく落ちつくんですね。トラウマを受けた子供も、そのくらいまで登ると、降りるのを嫌がるんです。でも、6mより上にいくと、今度は身の危険を感じて緊張してしまう。これはなぜか。4~6mは、ライオンやハイエナが届かない高さなんですね。だから人は安全地帯にいると感じて、脳からアルファ波を出す。子供たちが安心する理由はこれに違いないと思っています。他にも、小さな焚き火を見ている時や、チロチロチロ……と流れる小川の音を聞いているときもアルファ波が出るんです。心が安らぐとか、これは飲み水になるとか、本能的に感じているんですよ」。
森が人に及ぼす効果は、医学的にも証明されている。「森の中に入ると、血圧の高い人は下がるし、低い人は上がります。これは医学的に証明されていること。他にも、癌細胞やウイルス感染細胞などを見つけ次第攻撃するナチュラルキラー細胞が活性化することもわかっています。免疫力が高まるということですね」。
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