2021.03.20
2022.03.21
2022.06.09
目の前に映し出された世界を現実世界のように体感できるVR(仮想現実)。ゲームの延長のようなイメージがあるが、海外の研究では、VRを活用した外国語学習の研究が増えてきているという。
言語は人間にとって最大のコミュニケーションの道具だ。だからこそ、言語を学ぶにはリアルな対面が必要であるようにも感じられる。一方で社会のオンライン化は急速に進んでいる。VRなど仮想環境を使った外国語学習の研究はいま、どんな到達点にいるのだろうか。
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所は、“VRなどの仮想環境を用いた外国語学習”に関する海外先行研究を要約した、レビュー論文(著者:ポール・ジェイコブズ Paul Jacobs、翻訳:佐藤有里)を公式サイトにて公開した。
そのレビュー論文では、数多くの先行研究の結果や、特に小学生の外国語学習において仮想環境が効果的となる条件を明らかにしている。
まず、先行研究では主に、外国語能力の到達度(語彙の知識、スピーキング力、ライティング力)、外国語学習の動機づけ、異文化知識に焦点を当てている。そして、そのいずれにおいてもVRなどが良い影響を示していることがわかった。
さらに、VRなどの仮想環境での外国語学習が成功するために、重要な要素として次の3つを挙げている。
1.社会性
具体的な状況(買い物をする、道を尋ねられる、など)に身を置くことで、子供たちはより身近なものとして外国語に触れることになる。その点でVRは、紙やディスプレイでは実現できないリアリティある状況に子供を連れて行ってくれる。もちろんそこで他の子供や先生とやり取りすることも大切だ。
2.動機づけ
子供が夢中になっているゲームには仮想世界を舞台にしているものが多い。VRはワクワクに満ちた世界を提示して子供のモチベーションを高める。先行研究では、仮想世界のゲームで成功体験を得たあとは、たとえ間違えても英語でコミュニケーションをとろうとする意欲が高まることがわかった。ヒントやスキップ機能などのサポートが目標を達成しやすくし、学習に対する不安が軽減されたことも報告されている。
3.多感覚刺激と身体動作
eスポーツが広まっているように、現在の技術は仮想環境を、視聴覚ばかりではなく身体のあらゆる感覚と運動に対応することを可能にしている。近年の研究では、複数の感覚を使いながら学ぶことで、情報が短期記憶から長期記憶に移りやすくなることを明らかにしている。長期記憶は学習した言語を使えるようになるために重要なものだ。これを可能にするのがVRなのだ。
レビュー論文では、確かな教授法や理論的な枠組みと組み合わせれば、VRなどを使った外国語学習は成果を上げられると結論付けている。また、小学校で英語が教科化され、教員の負担が増えている日本の現状への助けとなることも示唆している。
海外旅行に行けなかったり、街で外国の方に道を聞かれることも減り、なかなか英語を身近なもの・必要なものとして捉えにくいのが現実だろう。しかし心は世界に向けて開いておく必要がある。VR技術を駆使して海外の雰囲気や英語が必要な場面を体験できるのは大きい。
小学生を対象にした教育と仮想環境の研究はまだまだ限られているようだが、レビュー論文の末尾には「今後は、教育におけるこれらの可能性を探る研究が爆発的に増えることが予想される」と記されており、注目していきたい。
VRなどの仮想環境を用いた外国語学習(著者:ポール・ジェイコブズ Paul Jacobs、翻訳:佐藤有里)
文:平井達也
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