子供の「創造力を育むインプット」とは? グローバル化やAI時代に向けて必要なこと

子供の「創造力を育むインプット」とは? グローバル化やAI時代に向けて必要なこと
未来はあらゆる仕事がAI化し、国際化が進んだ社会。子供たちがたくましく“わからない”を超えてゆくために本当に必要な教育とは? 劇作家・演出家であり、芸術文化観光専門職大学学長の平田オリザさんに伺いました。

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AIに仕事を奪われないために
「良質なインプット」が必要

AI(人工知能)に仕事を奪われていくと言われる未来において、お子さんに「0から1をつくる力をつけてほしい」と望まれている親御さんは多いようですね。

例えば、芸術家というと、非常に内発的に創造する仕事だと思われるかもしれません。しかし、芸術家として活躍する人は、アウトプット以前にインプット、つまり吸収する力が強い人だと僕は思っています。

0から1をつくるような“発明” をするのではなく、すでにあるものに何か新しい色や音や言葉を与えることが私たちの仕事なので。作家で言えば、多様な人間あるいは自然との関係の中からしか、面白い作品は生まれてきません。様々なことを吸収して、そこから “発見”する力が重要なんです。

子供の内発的な創造性を育てようとするよりも、まずは良質なインプットをたくさんすること。そのためには色々なことに関心を持てること。特定のコンテンツにかじりつくのではなく、もっと世の中には美しいもの・面白いことがあるよと教えてあげることが大切ですね。アウトプットが磨かれるのはそこからです。

ベネッセ教育総合研究所で行われた「教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書」(2007~2008)においても、良質なインプットの必要性が顕著な調査結果があります。学力テストの上位25%のA層と、下位25%のD層に関して、「親の日頃の子供に対する働きかけ、接し方の何が影響をしているか」をくわしく調査したものです。

国語の学力テスト上位25%のA層と下位25%のD層の親の「子供への働きかけ」の差

●家には、本(マンガや雑誌を除く)がたくさんある:24.6ポイント差(A層72.6%-D層48.0%)
●子供が小さい頃、絵本の読み聞かせをした:17.9ポイント差(A層80.9%-D層63.0%)
●子供が英語や外国の文化にふれるよう意識している:17.5ポイント差(A層57.7%-D層40.2%)
●博物館や美術館に連れて行く:15.9ポイント差(A層37.9%-D層22.0%)

これらは「毎日子供に朝食を食べさせている」A層(93.2%)とD層(82.8%)の10.4ポイント差を大きく上回っています。子供の成績を上げたければ、朝ご飯より美術館の方が有効である、ということになります。

また、「ほとんど毎日、子供に勉強しなさいと言う」においては、マイナス5.7ポイント差(A層51.2%-D層56.9%)が生じています。極端な言い方をすれば、下位層25%のD層の親たちは、子供に勉強しなさいとは言うものの、博物館・美術館には連れて行っていないということ。学力面においても、本や芸術・文化を子供にインプットさせてあげることがいかに大切であるかがわかります。

「人と違わなければダメ」
平田家の特殊な教育方針

僕の両親は、「人と違わなければダメ」「子供は自由に」という少し変わった教育方針でした。母は公務員、父は売れないシナリオライターで、家族や親戚に演劇や映画関係者が多かったこともあり、当たり前のように小さい頃からお芝居に連れて行ってもらいました。通っていた駒場幼稚園でも、よくお芝居をやっていたのを覚えています。今思えば、演劇の世界で生きていくための環境に恵まれていたと言えますね。

家にずっといて、よく遊んでくれていた父は、僕を作家にさせたかったようで、3歳くらいから原稿用紙に文章を書かされていました。5歳からは、欲しいものがあれば「なぜそれが欲しいのか」「手に入れることによってどのようなメリットがあるのか」を書いた企画書を提出するルールに。「他の子も持っているから」という理由では決して採用してもらえない徹底ぶりで、親を納得させて初めて手に入れることができました。

父に『巨人の星』のようにしごかれたお陰で、書く早さだけには自信がありますが、これは全然参考にしない方がいいでしょうね(笑)。

国際化で社会が混乱する前に
育みたいエンパシー(他者理解)

そんな子供時代を経て、演劇の面白さと出会い今に至ります。「演劇教育」に興味を持つようになったのは、1990年前後に確立した新しい演劇理論を劇団員たちに説明するためのワークショップが始まりです。

高校生をはじめ、年間150本ものワークショップで演劇教育を実施するように。その後「演劇入門」という本の出版がきっかけで国語の教科書制作に携わるようになり、公教育に入っていきました。

海外公演をする中で、日本での演劇の社会的地位が圧倒的に低いことは痛感していました。その理由の1つが、やはり公教育に演劇が入っていないこと。

これまでは日本の教育に演劇は必要ありませんでした。なぜなら日本は単一民族、単一文化であるという幻想の中で、異なる他者の文化を理解する「エンパシー」、つまり自分と違う価値観や理念を持っている人が何を考えるのか「想像する力」を育てる必要性がなかったんです。

例えば、イギリスでは第二次世界大戦後、旧植民地からどんどん人が入ってきて、急速に地方都市が国際化されていきました。1946年2月には芸術文化の発展と、社会のあらゆる人々が芸術に触れる機会を提供する公的機関「アーツカウンシル」を設置。そこから「良き市民をつくる」「他者を理解する」という「市民教育」が加速していきました。

国際化すると、他者理解をしなければ社会は成り立ちません。社会の中で他者と自発的に関わり合う意識や、そこで必要な知識やスキルを市民教育によって身につけてきたのです。

日本では、2005年度から3年間、文部科学省の研究開発学校の指定を受け、お茶ノ水女子大学附属小学校で市民科の授業を実施。東京都品川区の小中一貫教育校では2006年度から、道徳・総合・特別活動を統合して編成された「市民科」が導入されています。

とはいえ、未だに “ゆでガエル” 状態の日本では、コミュニケーションスキルはそれほど切実な問題になっていません。日本に住む外国人の数は、総人口の約2%にしかすぎませんから、今後20%を超えた時になって初めて、社会は大混乱に陥ることになるでしょう。

子供たちが将来、そのような混乱に巻き込まれないためにも、異なる他者の文化を理解する「エンパシー」を身につけることが必要です。そのために演劇教育がとても大切なのです。親しみのない親御さんや子供たちも、まずは演劇に慣れること、そして絵画のように、様々なものから自分の好きな演劇を見つけて楽しんでみてください。

PROFILE

平田オリザ
1962年東京生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。劇団「青年団」主宰。江原河畔劇場芸術総監督。こまばアゴラ劇場芸術総監督。1995年『東京ノート』での第39回岸田國士戯曲賞受賞をはじめ国内外で多数の賞を受賞。京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事、豊岡市文化政策担当参与など多彩に活動。

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文:脇谷美佳子

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