2020.04.22
2022.08.09
2022.03.18
―――成長期の子供にとって、自然体験はどれほど重要なものでしょうか?
つるの剛士さん(以下、つるの):例えば空気にもにおいがあるとか温度があるとか、風がどちらから吹いてくるのかとか、自然の中にいるだけで、子供たちは様々なことを五感で感じとっていると思うんです。子供と一緒に遊んでいると、自然から学ぶことは本当に多いと感じますね。
中山芳一先生(以下、中山):子供たちにとって五感の感覚刺激はとても大切なものです。その感覚刺激が重要な時期に、ツルツルとしたタブレット画面ばかりを触っているようでは刺激が全然足りません。この時期に、様々な形で刺激を受ける自然とのふれあいは本当に重要なんです。
つるの:僕はサーフィンも好きなんですが、ビジネスで成功した大企業の社長が突然サーフィンを始めたりするんですよね。多分、計算できない楽しさがあるんじゃないかと思います。
波がどこから来るか分からない。天気予報を見て準備をしていても、波が来ないこともある。来たとしても、乗れるかどうか分からない。
こうした自然体験は、実は仕事でもすごく役に立つんだと思います。全然計算していなかったところでブレイクすることもあるし、波が来てもきちんとしたスキルを持っていないと乗ることができない。時には途中で波から降りる勇気も必要。準備をしたり、総合的な力を培っておかないといけない。自然の中には様々な答えがあるんだと思います。
―――アウトドア好きで知られるつるのさん。自然の中で楽しむ「釣り」の魅力は、どういった点にあると思いますか?
つるの:「釣り」は見えない魚を相手にしていますよね。そこにいるかどうかすら分からないところで条件を整え、潮の流れや速さなど状態や月の満ち欠け、風の向きを判断材料にしながらココだ! と狙って釣れた時の感動は半端ない。コンピューターでは計算できない、自分の感覚だけを信じて釣れるうれしさはとてつもないですよ。
もちろん釣れないことはあります。でも、その時の状況をすべてデータ化して全部メモをとり、次に活かしています。
中山:僕は「釣り」といえば、友達と何度かやったことがある程度。だから、最初は「釣り」をすると我慢する力が育つのかなと思っていたんですよ。でも、まわりの釣り好きの友人から、「釣りは知識と戦略と経験ですよ」って教えてもらって……。
つるの:まさにその通りなんです。「釣りは魚を待っている間、ヒマじゃありませんか?」と聞かれることもありますが、ただ待っているわけじゃないんです。手の感触をセンサーにしながら、魚が来ていないか常に頭の中はフル回転しています。
中山:そういう意味では、「釣り」は教育や子育てと似ていますね。知識のない教育はないけれど、その知識に沿って進めても、その通りになるわけではない。子供に教えてもらいながら、その場でアプローチを変えていく必要があります。
思い通りにいかないことも多いけれど、準備なしではうまくいかない。教育も「釣り」も、事前の準備がとても大切なんです。
―――子供に釣りなど自然の体験をさせてあげたいと思っている方に対して、どんなアドバイスがありますか?
中山:親が釣り好きでも、子供に教えようとすると距離感が難しくなります。まずは親が自分のことを「子供にとっての環境」と思うことが大切です。直接働きかけるのではなく、「釣り」をしたくなるような環境を用意してあげることが大切だと思います。
つるの:釣具を用意してあげたり、動きやすい服装や靴を用意する。これも環境づくりですね。子供は寒いとすぐイヤになってしまうから、温かくしてあげるのも大切だし、イヤだと思う要素を極力少なくしてあげることも必要ですよね。
中山:究極を言えば、環境を用意してあげれば子供に対しては何もしなくてもいい。それぐらい、環境づくりが重要なんです。
つるの:釣り好きの人が自分の子供に教えようとすると、つい全部やってしまおうとしちゃうんですよね。それがダメ。見ていられなくて僕もつい手を貸してしまいそうになるんですが、子供にやらせてみることが大切なんですよね。
中山:そこは、親の非認知能力が試されるところです(笑)。
つるの:あとは、まず1尾、なんでもいいから釣らせてあげる。それも大事。ハリに魚がかかった! リールを巻いたら魚が出てきた! という成功体験をさせてあげるとハマりますよ。
―――戸外で遊ぶことが苦手な子供に対して、どんな風にアプローチすればいいでしょうか?
つるの:子供に「釣り」を楽しんでもらうためには、親がその楽しさを分かっていなくてはダメだって思うんです。なので、まずはお父さん、お母さんにも「釣り」にトライしてもらいたいですね。そして、自らがたくさん楽しんで遊んでほしいです。
中山:親が夢中になっているというのは、最高の環境です。忙しくて1年に1回ぐらいしか自然体験をさせてあげられないという家庭でも、非日常としてインパクトに残る経験になりますから。もちろん、日常的に行うのも素敵な環境です。
つるの:実は現在、保育士の資格取得を目指して勉強中なのですが、家で一生懸命勉強していると子供が自然に勉強するようになるんですよ。いつも、1つのテーブルを4人で囲んでやっています。
中山:親であるつるのさんが目的に向かって、楽しそうに勉強している。最高の環境づくりですね。
つるの:子供に何かをさせたいなら、時には戦略も必要。ウチの子の場合は、ゲーム「あつまれ どうぶつの森」から「釣り」に興味を持ち始めたんです。実は僕が実際にゲームをしてみて、コレは絶対やらせたいと思って……。そうしたら「釣りに行きたい」って言い出しましたから。キタキタ~って感じでしたね(笑)。
中山:保育における環境構成は、子供を引っ張っていくのではなく誘導するイメージです。まさにその成功例ですね。
教育関係者の間で最近問題になっているのが、子供の体験格差です。経済的な問題もありますし、家庭環境の違いもあるとは思いますが、なんと言っても一緒に行ってくれる親御さんの存在によって格差が生まれます。
皆さん忙しいとは思いますが、特別なことをするのではなく、いつもは車で通る道を歩いてみるとか、近くの川まで散歩してみるとか、ほんの少しでいいから、子供にいろんな体験をさせてあげてほしいですね。
つるの:ゲームをするのもいいけど、それだけで完結しないでほしいと思いますよね。ゲームはゲームで思いっきり楽しむ。そして、自然の中でも思いっきり楽しむ。
できれば子供たちには外でも全力で遊んでもらって、たまにはケガもして、暑い思いも寒い思いもたくさんしてもらって。自然は時には危険もはらんでいるので、リスクも含めて子供には五感を使って学んでほしいと思っています。
中山:そうですね、自然の中にはありとあらゆる学びが詰まっていると思います。「釣り」で言えば、まずは大人が心から楽しいと思ってプレイする。自然が相手だから危険が伴うこともちゃんと教え、それに備える。
そして、うまく釣れる日もあれば釣れない日もある中での感情のコントロールも必要だし、なぜ釣れなかったのかを反復して考え次に役立てることも必要。必ず同じ結果が得られることがないのが自然遊びです。遊びながら実は学べていたなんて、すばらしいことだと思いますね。
40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)は、次代を担う子供たちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。
運営:DAIWA(グローブライド株式会社)
つるの剛士
バラエティタレント、俳優、音楽家。「ウルトラマンダイナ」でアスカ隊員役を熱演した後、「羞恥心」を結成。釣り・サーフィン・バイク・将棋など多趣味でも知られる。2男3女の父親。
中山芳一
岡山大学全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のキャリア教育に加えて、幼児から小中高生、さらには大人に到るまでの非認知能力育成についても研究。
写真:松尾夏樹
文:藤城明子
Sponsored by グローブライド株式会社
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