幼少期の過ごし方で非認知能力に差がつく!? 自己肯定感を育む演劇教育の重要性とは

幼少期の過ごし方で非認知能力に差がつく!? 自己肯定感を育む演劇教育の重要性とは
育った環境から大きな差がついてしまう力がある。幼児期から小学校低学年の頃に最も定着するとされている「非認知能力」だ。この時期、子供たちにとって大切なこととは? 平田オリザさんにお話を伺った。

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幼少期に差がつく力は
「非認知スキル」

日本では幼稚園や小中学校などにおいて、活動は「学年ごと」が中心ですよね。知力や体力の面で同学年の子と差がある早生まれの子は、不利な状況におかれています。

実は統計的に見ると、サッカーのJリーグでもプロ野球でも、早生まれの選手が極端に少ない傾向にあります。学校スポーツ(部活)が強い日本では学年ごとでレギュラー争いをするので、プロになるまでに早生まれの子は埋もれていってしまいやすいのですね。

また、小学6年生時点の学力差から、毎年100人くらいの生徒が東大に合格するような進学校では、早生まれの子が1人もいないクラスもあります。たしかにそれは統計上の事実で、総じて「早生まれ問題」と言われています。

しかし、どの教育学者も言っていることですが、高校生ぐらいになれば知力も体力もほとんど差はなくなります

一方で、幼少期の過ごし方によって大きな差がついてしまう能力があります。それが「非認知スキル」です。なぜなら非認知スキルは幼児期から小学校低学年の頃に最も定着していく力だからです。この時期の差が、人生における大事な能力の差に大きく影響してしまうのです。

非認知スキルとは
(平田オリザ著『22世紀を見る君たちへ』(講談社現代新書)より抜粋)

IQや学力テストで測れる「認知できる能力」に対して、測定が難しいが知識や思考力を獲得するために必要だと思われる能力全般を指す。具体的には、集中力、忍耐心、やり遂げる力、協調性などなど、とにかく広範囲にわたる。
OECD(経済協力開発機構)ではこの「非認知スキル」を三つに分類している。
一、目標を達成する力(忍耐力、意欲、自己制御、自己効力感)
二、他者と協力する力(社会的スキル、協調性、共感性、信頼)
三、情動を制御する力(自尊心、自信、問題行動のリスクの低さ)

 
例えば、早生まれの子は幼稚園や保育園でおままごとをやると、他の子と比べて体が小さいので子供の役しかやらせてもらえない。うちの3歳の息子も12月生まれで小さいので、いつも子供の役なんですよ。だからリーダーシップをとるチャンスがないんです。

でも、近所の子たちと遊ぶ時は急に偉そうになる(笑)。自分よりも小さい子の面倒をみてあげたりもします。そんなふうに、生まれ月による有利・不利などはかつては学校以外の場所、近所での交流や原っぱといった地域社会で補われてきたものです。しかし、都市部では、このような機能が壊れてしまった。

コミュニティが機能しない現代こそ
演劇を入れた役割分担が必要

僕は、芸術文化観光専門職大学(2021年4月開学)の準備のため、 2年前から兵庫県豊岡市に引っ越してきたのですが、隣家が3兄妹なんですね。お兄ちゃん2人が早くに集団登校してしまうと、末っ子の女の子がヒマになっちゃって、7時40分になるとうちに勝手に上がり込んで来るんです(笑)。

息子より1つ年上のお姉さんなんですけど、ほぼ毎朝、ウルトラマンを見るかプリキュアを見るかでケンカしています(笑)。30分ほど一緒に過ごし、それぞれが別々に(時には一緒に)保育園に登園していきます。

こういう地域のつながりは本当にありがたくて、東京ではなかなか難しいですよね。うちの近所ではたまたまUターンの方がこの地域に揃って、隣近所に同世代の子が大勢います。

でも車社会の地方では子供がいる隣の家まで30分かかったり。山間地では熊が出るから危なくて、せっかく自然に囲まれているのに子供は家でゲームをしていたり。

都会は都会で、地方は地方で大変。コミュニティが機能しなくなった地域では、自己肯定感やリーダーシップなどが偏った形でしか育たなくなってしまうリスクがあります。

だからこそ学校教育の中で学年を越えた交流や、その機会となる学校行事、演劇や演劇的手法を入れた役割分担・役割交換を意図的に行っていく必要があります。そういう時代になってきた、ということですね。

同じ年齢の子供たちといつも一緒に過ごす環境で、体の大きさや言葉の差によって常に同じ役割を演じていると、遊びの中でリーダーシップなどを発揮する機会が圧倒的に少なくなってしまう。役割はシャッフルされなければいけません。

共同体の中で役割を果たすことで
自己肯定感は育まれていく

そしてもう1つ、幼少期に育まれるものには子供の「自己肯定感」があります。自己肯定感は、他者との関係の中からしか生まれてきません。「自分が共同体の中でかけがえのない存在である」「自分がいないと成り立たないんだ」。こんなふうに自分が共同体に対して何かしらの役割を果たしている、という感覚を子供のうちに適度に持てることが非常に重要です。

その感覚を得るのに適した活動が演劇のような“協働性の高い活動”です。よく自己肯定感というと「褒めてあげよう」とか「存在そのものを認めてあげよう」というのが一般的ですが、さらに大事なことは、集団で何かをやって最後に拍手を浴びる、という体験です。

どんなに小さなことでもいいので、みんなで何かをやり遂げてハイタッチし合う経験、その環境を作ってあげることが重要です。演劇の場合は役が決まっているので、1人でも抜ければ「このセリフ誰が言うんだよ!」なんて事態になってしまう。そこが演劇の強みです。

今まで盛んに言われてきた「協調性」、すなわち音楽のようなハーモニーから受ける快感。演劇のような、バラバラな人間が、どうにかしてみんなでうまくやっていく「協働性」という面白さ。その両方が大事です。

最近では、文部科学省も「協働性」(同じ目的のために協力して働くこと)という言葉を強く使うようになってきています。早生まれの子がいないといった、協働性が育ちにくい偏ったクラスになりがちな進学校では、早くも演劇の授業を積極的に取り入れ、協働性を育てる教育にシフトしていっています。公教育でも、協働性、そして身体的文化資本※を育てていかないといけませんね。

※身体的文化資本:社会学者ピエール・ブルデューによって提唱された3つの「文化資本」の1つ

PROFILE

平田オリザ
1962年東京生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。劇団「青年団」主宰。江原河畔劇場芸術総監督。こまばアゴラ劇場芸術総監督。1995年『東京ノート』での第39回岸田國士戯曲賞受賞をはじめ国内外で多数の賞を受賞。京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事、豊岡市文化政策担当参与など多彩に活動。

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文:脇谷美佳子

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