大事なのは「人としてどうあるべきか」小島慶子さんが考え実践する“ジェンダー教育”とは?

大事なのは「人としてどうあるべきか」小島慶子さんが考え実践する“ジェンダー教育”とは?
多岐に渡る活動の中で、ジェンダーへの関心の高まりを実感しているという小島慶子さん。親として、多様化社会を生きていく子供たちのために何を考え、どう伝えているのだろうか?

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高まるジェンダーへの関心

私はときどき大学で特別講義をする機会があるのですが、どの大学の先生も口を揃えて「いま、ジェンダーに関する講義が大人気なんですよ」と言います。昔ながらの男らしさ・女らしさの押し付けや、セクハラ・パワハラが当たり前のコミュニケーションのあり方が見直されつつある今、ジェンダーについて学びたいと考える学生が増えているのは、当然の流れと言えるでしょう。

昨年の12月6日まで国立歴史民俗博物館で開催されていた「性差の日本史」展の人気ぶりも話題になりました。私も見に行きましたが、会場には若者から熟年世代まで、幅広い年齢層の人が来ていました。熱心にメモをとっている男性も多かったです。

展示では、政治など公的な意思決定の場での男女の地位の変遷や、女性の社会的地位の低下とともに鑑賞物や性的な商品として扱われるようになっていった経緯が丁寧に示されていました。明らかなのは、ジェンダー(社会的な性)は、共同体や組織を管理・統制する者たちにとって、都合の良い形に操作されるものであるということです。ジェンダーについて考えるということは、権力との関係を考えることに他なりません。

「〇〇なんだから」は言わない

男子は黒、女子は赤いランドセルが当たり前だった時代に育った親たちは、我が子にどうやってジェンダーについて教えたらいいか、戸惑いを感じるかもしれません。もちろん、本を読んで知識を深めることが重要ですが、子どもと接するときに「あなたは〇〇なんだから」を言わないようにするのは一つの方法です。

例えば「女の子なんだから、優しくしなさい」は、人として優しくあれ、で十分伝わります。「男の子なんだから、泣いちゃダメだよ」は、そもそも泣いてもいいのです。どうしても泣き止ませたいなら、落ち着いてとか、話を聞かせてとか、他の言葉で伝えられますよね。

「〇〇なんだから」は、反射的に出てくるもの。つまり親自身に刷り込まれたジェンダーの決めつけが表れるものです。「男らしさ・女らしさ」を家庭や学校やメディアで教え込まれ、それを今度は我が子に教え込むことで、再生産しているのです。

パートナーに対しても「母親なんだから」「父親なんだから」と言っていませんか。ここにも性別役割の決めつけが表れやすいですね。「らしさ」に照らすのではなく、「人としてどうあるのが望ましいのだろう?」と考える習慣をつけると、男とはこういうものだ、女とはこういうものだというくびきに囚われて思考停止に陥ることがなくなります。

「母性」と「父性」も、女性と男性それぞれに固有のものではなく、人が誰しも持つ要素。我が子に対して「あなたをあるがままに受け入れるよ」という気持ちと「物事には善悪があり、社会にはルールがあるんだよ」と教え諭す気持ちは、どちらも自然に湧き上がるものです。その強弱は人によって異なり、時と場合によっても変わり、必ずしも女性の方が男性よりも受容的で、男性の方が女性よりも規範を重視するとは限りません。

実際、私と夫は二人とも受容的な面と規範を重じる面とがあり、表現型としては私の方が理屈を説明するのが上手で、夫の方が非言語でのコミュニケーションが上手です。どちらもルールを重んじる面と極めて受容的な面があるため、「お母さんらしい」「お父さんらしい」と区別することが難しいのです。

おそらく息子たちから見て、私に固有の優しさや厳しさと、夫に固有の優しさと厳しさがあり、それは彼らに言わせれば「いかにもママだなあ」「パパらしいよなあ」ということになるのでしょう。

繰り返し伝えたい
人として大切なこと

私も夫も、子育てをするにあたってはいつも、人としてどうであるかという視点で考えています。「誰と接するときにもリスペクトを忘れずに(たとえあんまり好きじゃない相手でも!)」とか「自分よりも弱い立場の人に対して態度を変える人間は信用できない」とか「身体的に自分よりも力の弱い人や不自由な人にはいつも親切に」などの原則を教えています。

同時に、世界の歴史の中で女性が不当に低い地位に貶められてきたことや、性差別や性暴力の被害に遭ってきた経緯についても折に触れて話し、男性が男らしさの押し付けで暴力にさらされることがあるとも話し、どんな人も性別によって差別を受けることや不当な目に遭うことのない「ジェンダー平等の実現」を繰り返し伝えています。繰り返すことはとても大事です。メディアや友人たちからすぐに「男子ってこう」「女子ってこう」を刷り込まれますから。

子供向けのものにも、それを作った大人たちの価値観の歪みが表れていることがあります。最近だと、小学生女子向けの雑誌で「男子にモテるには、褒めて気持ちよくさせてあげよう!」と指南していたことが批判されました。反射的に、それの何が問題なの? と思った人は、女性が男性を立てるのは当たり前だという考えを見直すチャンスです。ジェンダーの違いにかかわらず、人は互いを対等に扱うべきですよね。

日本は先進国で最もジェンダー格差の大きな国。親も子供と一緒に学びながら、意識をアップデートしましょう。

プロフィール

小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。

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