新型コロナウイルスが家族の「当たり前」を変える? 大切なのは「自身の感受性」を磨くこと

新型コロナウイルスが家族の「当たり前」を変える? 大切なのは「自身の感受性」を磨くこと
猛威を振るう新型コロナウイルス。外出自粛など、今までの当たり前が通用しなくなる中、谷崎テトラさんは「これからの当たり前をもう一度作り直す必要がある」と語る。

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外出禁止の「沈黙の春」がやってきた

今、レストランや飲食店は閉められ、人の姿も少なく、電車やバスもガラガラの東京の風景になっている。経済活動はストップし、昨年史上最高値だった株価も下落、大恐慌に匹敵する経済危機と、数年間にわたってこれから起こるであろう社会崩壊に直面しているというのに、この原稿を書いている4月5日、桜の花は満開で、ノートPCを持って公園のベンチで原稿を書いているのだけれど、そこに見えるのは子供達と遊ぶお父さんの姿、ワンちゃんを連れてお散歩するお姉さん、幸せそうに語らう若き恋人たちの姿が、実にピースな風景。なんとうららかな春の日なのであろうか(この原稿を書いた段階では、幸い外出自粛で、まだ外出禁止には至っていない)。

新型コロナのことを除けば、実に牧歌的、素晴らしい春の午後なのだけど、これまでの人類社会は崩壊の危機が進行中。その気分の中であらためて、ひとの本当の幸せとはなんだろうと考えてしまいます。

今起きていることを、「文明転換」とみるべきだと考える

今、世界は変化しています。おそらく、これからは数年続くであろう災禍と、社会の変化、価値観の転換が、今までの当たり前が通用しなくなり、これからの当たり前をもう一度作り直す必要があるのでしょう。そのためには恐怖を横に置き、一度、立ち止まり、今、ここにある「ありがたさ」を感じることから始まるのかもしれません。

新型コロナは感染力は強いが幸い弱毒性と言われています。かつてヨーロッパの人口を半減させた14世紀の黒死病や天然痘、感染者は6億人、死者は5000万人におよんだというスペイン風邪に比べれば、死者の数は明らかに少ないです。毎年のインフルエンザや肺炎で亡くなるひとの数と比べて死者そのものは少ない。実は新型コロナウイルスは、生物種としての人間に対する脅威ではなく、社会のシステムに対しての脅威となっているわけです。

それはあらゆる問題提起を含んでいます。単なる「感染症」の問題のみならず、「医療の仕組み」や「健康の定義」、「働き方」「暮らし方」「税金の使われ方」「政策決定の仕方」「民主主義」「人権」「メディアのあり方」「コミュニケーション」「食」「エネルギー」「交通」「教育」「文化/芸術」……などなど、おそらく生活の全ての領域に関わります。

この全ての領域での変化を同時に行いつつ、そのほとんどが全く前例のない新しいチャレンジであり、「恐怖」を伴います。ウイルスの恐怖ではなく、社会変化に伴う恐怖です。克服するためには、「本質」に向き合う姿勢と「覚悟」が必要です。それはレイチェル・カーソンのいう「まわりにあるすべてのものに対するあなた自身の感受性」を磨くことでもあるし、そのヒントは、「子供」の持つ「感受性」、自然に対する正しい恐れと好奇心、と僕は考えます。

地球環境は修復が進み、経済も適正サイズに

そして、感染拡大が人の移動や仕事に大きく影響するなか、これまで環境団体や学者が警告しても、改善が見込めなかった地球環境が回復してきていることにも注目して行きたいと思います。

自動車の排ガスが原因となる大気中の一酸化炭素量を昨年同時期と比較したところ、速報値ではほぼ半減しているそうです。そして地球の温暖化につながる二酸化炭素の排出量も、急減している※1。中国で大気汚染レベルが低下※2、成層圏のオゾン層も回復※3しているそうです。

米スタンフォード大学のマーシャル・バーク准教授は新型コロナウイルスによる経済活動制限が、大気汚染を改善し、3000人~8万人弱の生命が救われたと推定している。環境・社会・経済の危機の多くは行き過ぎたグローバリズムが原因ですが、旅行や貿易、投資を妨げ、経済活動の形が変わっていくにしたがって、やがて各国がコストや合理性を無視して自国経済の自給自足を進めようとするとも言われています。

14世紀の黒死病はルネサンスをもたらし、17世紀ロンドンペストは科学革命と産業革命を準備したと言われます。コロナは新たな文明のきっかけになるかもしれません。そのためには自分と他者の健康を思いやり、自然界に負担をかけない生活態度を学び、適正サイズの経済活動を行っていく中で、社会も人類も成長していくと考えます。そのためにはまずは生き延びねば。

※1 BBC NEWS 大気汚染や温室効果ガスが激減 新型ウイルス拡大で人の移動など減り
※2 NEWSWEEK日本版「新型コロナウイルスによる経済活動制限が、大気汚染を改善し多くの生命を救った、との推定」 
※3 日本経済新聞「新型コロナ危機、逆風下のグローバリズムにとどめ?」

プロフィール

谷崎テトラ(TETRA TANIZAKI)
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&コーディネーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。

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FQKids VOL.02(2020年春号)より転載

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