「探究学習」はなぜ必要なのか? 3歳から家庭でできる4つのステップ|専門家監修

「探究学習」はなぜ必要なのか? 3歳から家庭でできる4つのステップ|専門家監修
新しい学習指導要領として2020年から小学校でもスタートした学習方法「探究学習」。「探究」とはそもそも何か、なぜ今求められているのかを知っている人は少ないのでは。そこで、日本で早くから「探究学習」に携わる炭谷俊樹先生に話を聞いた。

教えてくれた人

ラーンネット・グローバルスクール代表/
神戸情報大学院大学学長
炭谷俊樹先生

経営コンサルティング会社マッキンゼーにて10年間、日本企業及び北欧企業のコンサルティングに携わる。北欧の社会や教育に感銘を受けて、1996年、神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢を対象に、探究型の教育を実践している。

<目次>
1.子どもの「問い」から始まり自ら調べ、対話する学習
2.AIが発達する現代に求められる思考力と対話力
3.まずは親子でやってみよう!家庭で「探究学習」を始めるポイント
4.ダメ、絶対!家庭の「探究学習」NGポイント
5.こんなとき、どうしたらいいの?「探究学習」の疑問Q&A
6.28年間「探究学習」を実践!ラーンネット・グローバルスクールとは?

 

子どもの「問い」から始まり
自ら調べ、対話する学習

「探究学習」とは、子ども自身が自分なりの「問い」を出すところが起点になり、その事象について、深いところまで探って明らかにしていく学びのことを指すという。

方法としては、まず、子どもが何らかの興味を持ったこと、疑問を持ったことがスタート。これが「問い」だ。次に、その「問い」について調べたり体験したり、人と対話するなど、さまざまな形で情報をインプットしていく。

すると、「問い」に対する自分なりの考えや答え、「こうではないか」「こうしてみたらどうか」といった仮説のようなものが生まれる。この仮説を検証し、最終的になんらかのアウトプットや行動につなげていくまでが「探究学習」の一連の流れ。「主体的で対話的で深い学び」「アクティブ・ラーニング」などとも呼ばれる学習スタイルだ。

「探究学習」に炭谷先生が出合ったのは約30年前のデンマークだった。北欧では当時から、小学校の中でも、「子どもが自ら課題意識を持ち、解決していく」学びが実践されていたそうだ。

その頃日本ではほとんど実践されていなかったが、近年、「国際バカロレア(※)」の認定校が増加。そのプログラムのベースが「探究学習」になっていることから注目が集まり、2020年の学習指導要領の改定から徐々に取り入れられるように。「探究学習」を学びの基本としてほしい、という方針が出されたそうだ。

「探究学習」のポイントについて炭谷先生は、「重要になのは、あくまでも『子どもが主体的に学んでいる』ということです。先生や親から『こうしなさい』『ああしなさい』と言われてする学びはすべて『受動的』になってしまう。そこは注意が必要です」と呼びかける。

また、「探究学習」には正解があるわけではない。1人ひとりの考え方、学び方は違っていい、違って然るべきだということも、重要な点だ。

※国際基準の教育プログラム

AIが発達する現代に
求められる思考力と対話力

しかし、なぜ今「探究学習」が必要とされているのだろう。これまでの学校教育では、教科書に答えが書いてあって、先生は子どもに正解を教える役割を果たしていた。極端に言えば、教科書の内容を覚えてさえいれば良かったのだ。

だが、それではどうしても学びが一方通行となり、子どもは受け身になってしまう。十分な思考力や対話力が育まれない恐れがあるのだ。

これからの時代、既にある知識を知るだけならばAIの方が早いし正確だ。AIにない人間ならではの学びとしては、自分で疑問を持ち、問題を解決するために調べ、創造的に行動することが大切だ。

さらに、他人と双方向で「自分はこう思うけど、あなたはどう思う?」という対話を重ねることで、対話力や思考力を育む必要がある。加えて、「1人ひとりが違った考え、価値観を持ってもいい」と、お互いを尊重し合う姿勢が生まれることも、多様性が重んじられる現代に欠かせない学びである。

ごみ問題で知る!
「探究学習」4つのステップ

炭谷先生が代表を務める「ラーンネット・グローバルスクール」で行われた、ごみ問題についての「探究学習」を例に出しながら、4つのステップについて解説する。

1 問いを出す

子どもが自分から興味を持ったこと、例えば、「ごみってどれぐらい出ているんだろう」「捨てた後どこへ行くのかな」などが「問い」。思いつく限りの「問い」を出し、自分の中に問題意識を作る。


2 インプット

ごみ処理の方法や量を調べたり、ごみを拾ってみたり、実際にごみ処理場に見に行ったり。身近なことから知り、体験することで「自分ごと」となり、より興味が湧いて課題感が出てくる。


3 アクション

課題感を持ったこと、より興味が湧いたことについて、行動していく。ごみ問題でいえば、コンポストを作って使ってみたり、ごみを活用してアートを作ってみたり、エリア別に落ちているごみの種類や傾向を調べるなど。


4 アウトプット(探究シェアリング)

調べたり行動したことで見つけた答えを人に説明する、発表する。そして、伝えた相手とディスカッションしてみる。ごみの例で言えば、「海には細かいプラスチックごみが数多く落ちていて、拾っても拾っても無限にあった。そこから環境への影響がかなり深刻だとわかった」などの発表があった。

まずは親子でやってみよう!
家庭で「探究学習」を始めるポイント

自宅でも「探究学習」はできるもの。どんなふうに始めたらいいか、4つのポイントを紹介する。

1 暇な時間を作り、
好きなことは何か観察する

電車、恐竜、カタツムリ、お菓子作りなど、子どもには必ず好きなこと、興味があることがある。その見極め方は、「暇な時にやっていること」だ。

親から「これやってみたら、あれやってみたら」と与えすぎると受け身になり、自分でも何が好きかわからなくなってしまいがち。暇な時間を作って、何をしているかよく観察してみよう。

2 好きなことに触れ、
調べる機会を作る

恐竜が好きなら博物館に行ったり、図鑑で調べたり、カタツムリが好きならいそうな場所を散歩したり。さりげなく、好きな対象に触れる機会をアレンジしてあげることで、子どもの好奇心や探究心はどんどん湧いてくる。

親は「それがうまくできているか」を気にしてしまいがちだが、大切なのはあくまで主体性。導かず、「自分から興味を持つ」ことを意識しよう。

3 体験を重視する

現代はインターネットが発達しており、インターネットやChatGPTなどを使いこなして調べる子どももいる。音声でAIに尋ねられるツールもある。それらを使うことは否定しないが、そこで情報を得るだけだと受け身になる。

なるべく五感を使って、見て、触れて、話す体験が「探究学習」には重要だ。できるだけ外に出かけて自然や人、ものと触れ合える機会を作ろう。

4 好きなことについて
親子で対話する

探究した内容について子どもに、「自分はこう思う」「こんなことを発見した」などと話してもらい、親はそれについて、自分の考えを述べよう。

こうして対話を重ねることで、「そういう考え方もあるのか」と、自分とは違った発想や価値観を知り、より思索を深めていける。そこには正解は必要ない。お互いをリスペクトする関係を意識し、共に成長していこう。

ダメ、絶対!
家庭の「探究学習」NGポイント

「探究学習」に取り組む上では、注意すべきポイントがある。間違えると、子どもがせっかく持っている好奇心や探究心を無くしてしまうことがあるので、始める前にぜひチェックを!

1 興味を持っていない教材や
おもちゃを与えない

親は子どもに「探究してほしい」とブロックや教材などをつい買って与えがち。だが、与えられれば与えられるほど子どもは受け身になり、だんだんと探究心が湧き起こってこなくなってしまう。

元々、人は探究心や好奇心を生まれつき持っているもの。与えずに暇な時間を作って、親は、子どもが自分から動き出すのをじっと待とう。

2 コントロールしない

探究の対象が外にあった場合に予想外の場所に行ってしまったり、お金がかかってしまうことなどもあるかもしれない。

もちろん安全第一でお金にも限界があるが、そういう場合も、「ここまでしかダメ」とコントロールすると主体性を奪ってしまう。「この中でやってみてね」という制限は設けてよいが、なるべく選択肢を広く持たせてあげよう。

3 正解を作らない

子どもが調べて出した答えが「間違っている」と感じることがあるかもしれない。だがそこで否定するのはNG。先の予測ができない今の時代に、「絶対に正解」と言えるものはないからだ。

親自身もそれを強く意識して、「物事に正解がある」という発想はもう捨てよう。「これは1つの事実だけど、正解だと思わないでね」と声をかけた上で、親の意見も伝えて対話を重ねよう。

4 変えようとしない

1つの興味に集中するのではなく、次々と興味の対象が移っていく子どももいる。親としては「何か1つのことに集中してほしい」と思ってしまいがちだが、そういった個性は簡単には変えられない。

嫌がっているのに続けさせると、探究心や好奇心を失ってしまう危険も。「集中できないことは悪いこと」ととらえず、「それも1つの強みであり、特徴である」と認め、変えようとしないことが重要だ。

こんなとき、どうしたらいいの?
「探究学習」の疑問Q&A

親子で「探究学習」に取り組む中で生まれやすい疑問や質問について、炭谷先生に答えていただいた。

Q1 習熟度はどうやって測るの?

相対的な評価や点数などはまったく意味がありません。1人ひとりが違っていてもよく、それぞれにスタイルがあるものです。大事なことは、「自分で決めて行動できているか」です。それさえできていれば、あとはどんなアプローチ方法でも大丈夫。

また現在、学校でも、点数による評価は明確に減らしていく方向になっています。大学受験でも、その人を総合的に評価する方向にどんどん変わっていますし、「学力」という概念が問い直されている時代だと思います。

Q2 ゴールはどこだと考えたらいいでしょうか。

幸せで納得のいく人生を送ることです。目には見えづらいことですが、「自分の言葉で発言して、主体的に行動しているか」「好きなこと、やりたいことに取り組んでいるか」「物事を振り返り、次にやるべきことを決めているか」「対話を通してお互いの気持ちや考え方を理解して、受け止め合える人格形成がなされているか」などをよく見てあげてください。

こういったことに余裕を持って取り組めることが、幸せで納得のいく人生につながると思います。

Q3 どんな大人に育っていくの?

自分の好きなこと、やりたいことを達成するために、どんな進路がいいのかを自分で選び、自分で決めるお子さんに育っていきます。その結果、音楽プロデューサー、牧場経営者、エンジニア、コンサルタント、医者などの専門家になった方もいます。

大切なのは、偏差値でなんとなく学校を選ぶのではなく、自分のやりたいことへのステップとして進路を選ぶ力がつくということ。たとえ失敗しても誰かのせいにすることなく、納得感のある人生が送れるからです。

Q4 学校で「探究学習」をしている様子がないのですが……。

これまでと180度反対の指導方法のため、教育現場にはまだ戸惑いがあります。また昨今、学校はICT教育や英語などさまざまなカリキュラムが増え、先生は多忙を極めています。その中で「探究学習」も取り入れろというのは、かなり無茶な部分もあるんです。もちろん頑張っている先生もいます。

でも、これからは学校だけに頼るのではなく、家庭や企業、地域など、あらゆる人が「探究学習」に携わり、子どもを育てる意識を持つべきではないでしょうか。

28年間「探究学習」を実践!
ラーンネット・グローバルスクールとは?

炭谷先生が代表を務める「ラーンネット・グローバルスクール」は、1996年の創業から一貫して、子どもたちの探究心を引き出す教育を実践している。同校のグループであり、各地で探究型の学びの機会を広げている「探究コネクト」と、保護者も「探究学習」を学べる「探究ナビ講座」も併せて紹介する。

先生もいないテストもない
自発的な学びができる学校

「ラーンネット・グローバルスクール」は、神戸にある探究型のオルタナティブ・スクールだ。通常の学校では授業カリキュラムがすべて決まっており、教師が正解を教え、試験や生徒同士の比較で評価がなされる。だがこちらでは、なるべく本人の興味に沿った探究的な学びが選べるよう、カリキュラムに柔軟性が持たされている。

上に立つ教師もおらず、社会人経験のある「探究ナビゲーター」と呼ばれる人々が、子どもたちの自発的な学びをサポートしている。

さらに、テストも一切なし。テストで測らず、できなかったことも「どうしてできなかったか」を振り返り、どうしたらできるようになるかを工夫する。だから勉強が嫌いにならず、結果的に学力が伸びていくそうだ。さらに、生徒同士の関係性においては「問題があったら自分たちで解決する」ことが基本とされ、自然に対話が生まれる環境がある。

(ラーンネット・グローバルスクール)
〒658-0072 神戸市東灘区岡本2-8-14
TEL:078-436-8575(日曜・祝日休み)
公式サイト:www.l-net.com

探究コネクト

子どもたちが本来持つ好奇心や自分らしさを発揮していきいきと学ぶために、各地で探究型の学びの機会を広げている組織。その活動は、学びの場づくりから「探究ナビゲーター」の育成、教育コンテンツ作成、スクール立ち上げまで多岐にわたっている。イベント・講座や、法人社員や学校教員に向けた講座も請け負うなど、幅広いスタイルで「探究学習」の草の根を広げている。

公式サイト:tankyu.jp

探究ナビ講座

子どもの探究心を引き出すコツを学ぶ講座。講義には、対面+オンラインと、完全オンライン講義の「基礎編」と、基礎編受講後に受けられる「実践編」がある。「実践編」は、対面+授業実践+オンライン講義を組み合わせた形で、学びの場やカリキュラム作りに携わるプロ向け。一方基礎編は、保護者や教師、経営者など幅広い人が受けている。

公式サイト:tankyu.jp/navi2023

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文:笹間聖子

FQ Kids VOL.20(2024年秋号)より転載

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