体罰が95%から2%に減少。子供の人権大国スウェーデンに学ぶ “体罰によらないしつけ”【前編】

体罰が95%から2%に減少。子供の人権大国スウェーデンに学ぶ “体罰によらないしつけ”【前編】
2019年6月に児童福祉法等改正案が成立し、親権者等は児童のしつけに際して体罰を加えてはならないと定めた法律が4月から施行された。「しつけ」と「体罰」は何が違うのだろうか。発達心理学を専門とする大日向雅美先生に聞いた。

体罰が95%から2%に
子供の人権大国スウェーデン

「児童へのしつけに際して、体罰を加えてはならないことが法定化され、この4月から施行されることになりました。そうすると、子供をちょっとでもたたくと罰せられるの? という不安を持たれた親御さんがたくさんいらっしゃいました。そうではありません。最初にお伝えしたいのは、体罰の法的禁止は啓発と支援を強化するものであって、刑罰を強化するものではないということです。親を罰したり、追い込んだりすることを意図したものではなく、子育てを社会全体で応援・サポートし、体罰によらない子育てを社会全体で推進するものです。厚生労働省もこの法定化を『保護者が子育てで悩んだときの適切な支援につながることが目的』と明言しています」。

お話ししてくれたのは、NHKEテレの番組「すくすく子育て」で悩めるパパママを常に温かい眼差しでアドバイスしてくれている大日向先生。“3歳児神話”(子供が3歳になるまで母親は子育てに専念すべきで、そうしないと成長発達に悪影響を及ぼすという考え方)を早くから問題視し、地域・社会の皆で子供の育ちと親の子育てを支援する必要性を主張し続けてきた発達心理学専門の先生だ。2019年9月から有識によって行われてきた「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」の座長も務める。

1979年にスウェーデンが世界で初めて子供への体罰を禁止した。スウェーデンといえば、今では福祉先進国・子供の人権大国として知られる国だが、1960年代は「子供に体罰する」と答えた家庭は95%にものぼる。その後、「子育ては、親だけでは解決できない」という考えのもと、国として取り組み、体罰禁止法が成立して40年経った現在、2%まで減少した歴史を持つ。

「スウェーデンの例から学びたいのは、体罰禁止法が突然できたわけではなく、 国を二分する議論をしっかりと時間をかけてやったことです。さらに、法律施行後も40年にわたり皆で議論を続けてきました。

その根底にあるのは、子供の権利の尊重です。そのためにも親を守りたい、社会が親に優しくあることが子供を守ることにつながる、というコンセンサスがあることだろうと思います。日本もこのことを皆で議論できる社会をつくっていけたらいいですね」。

この検討会の「体罰等によらない子育てのために(素案)」に対し、厚生労働省ホームページで広く意見募集を行い、副題として採用された「みんなで育児を支える社会に」は、寄せられた527件のパブリックコメントの中から採用された。

体罰に関する法制定の過程

1979年 スウェーデンが法律で体罰を禁止
1990年 国連が「児童の権利に関する条約」を発効
1994年 「児童の権利に関する条約」日本が批准
2000年 川崎市において、日本で初めて「川崎市子どもの権利に関する条例」(「児童の権利に関する条約」の理念に基づいた条例)を制定
2019年 6月、改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立
2020年 4月1日、上記2法の一部を除いて施行

子育て家族をこれ以上いじめないで

「何度言っても子供が言うことを聞かないからとか、痛みを伴う方が理解をする、あるいは自分もそうして育てられたなど、体罰を容認する意見は未だに根強く存在しています」(大日向先生)。

「しつけ」と「体罰」何が違う?
「しつけ」とは……?
子供の人格や才能を伸ばし、社会において自律した生活を送れるようにすること等の目的から、子供をサポートして社会性を育む行為。
●子供と向き合い、社会生活をしていく上で必要なことを、しっかり教え伝えていく必要性がある。
●子供の発達しつつある能力に合う方法で行う必要がある。
●体罰で押さえつけるしつけは、これらの目的に合うものではなく、許されない。

これらは全て「体罰」です!
●言葉で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた
●大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた
●友達を殴ってケガをさせたので、同じように子供を殴った
●他人のものを取ったので、お尻を叩いた
●宿題をしなかったので、夕食を与えなかった
●掃除をしないので、雑巾を顔に押しつけた


では実際、日本人の体罰に対する意識と実態はどうなのだろうか。全国の20歳以上の男女2万人を対象に行った調査結果(出典:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 報告書「子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して」2018)が下の円グラフだ。

しつけのために、子供に体罰をすることに対して「積極的にすべきである」「必要に応じてすべきである」「他に手段がないと思った時のみすべきである」と答えた人は56.8%。6割近い人が体罰に肯定的という結果だ。一方の「決してすべきではない」という意見は43.3%。


出典:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 報告書『子どもの体やこころを傷つける罰のない社会
を目指して』

「一般的には、子育ては楽しい、子供はかわいいというイメージが先行している傾向がありますが、一度も子どもに手をあげたことがないという親は少ないのではないでしょうか。子供というのは、聞き分けのないことが多く、一度言っても分からないことを何度も何度も繰り返し伝えなければなりません。移動するのも買い物に行くのも子供が一緒だと本当に大変ですよね。そんな状況にあるパパやママがイライラするのは致し方のないこと。それを親だけで解決することは、とうてい無理ではないかと思っています」。

また、同じ調査では、しつけのために子供をたたくことを容認する回答者1万2008人(全回答者2万人)のうち、たたく理由の約4割以上が「口で言うだけでは子供が理解しないから」、23.6%が「その場ですぐに問題行動をやめさせるため」、20.6%が「痛みを伴う方が、子供が理解すると思うから」と回答した。

「育っていく途上にある子供と共に生活する子育て家族は、その世話やしつけに心身ともに悩みを深め、さまざまな負担も少なくありません。体罰をテーマに扱ったときに私がまず思うのは、子供を育てている親や子育て家族を、これ以上苦しめないでほしい、ということなんです」。

» ある親が体罰をやめたきっかけ

PROFILE

大日向 雅美先生
1950年、神奈川県出身。恵泉女学園大学学長・専門は発達心理学(家族・親子関係)。2004年よりNPO法人あい・ぽーとステーション代表理事として、地域の子育て・家族支援活動に注力。「すくすく子育て」(NHK Eテレ)や『人生案内』(読売新聞社)等のメディアでも活躍。1970年代初めに相次いだコインロッカーに新生児が遺棄される事件を機に、母親の育児ストレスなどを研究。内閣府や厚生労働省の少子化対策・子育て支援関連の審議会委員等を務める。近著『もう悩まない!自己肯定の幸せ子育て』他多数。


文:脇谷美佳子

FQ Kids VOL.02(2020年春号)より転載

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