2020.11.20
2022.12.21
2020.09.12
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虐待や体罰、暴言は、子供の成長・発達に悪影響を与えることは科学的にも明らかになっている。体罰等が繰り返されると、心身に次のような悪影響が生じる可能性があることが報告されている。
さらに、藤原武男他による2017年の調査研究「幼児に対する尻叩きとその後の行動問題」によると、体罰が頻繁に行われるほど、そのリスクが高まったと指摘する。また、虐待に至らない程度の軽い体罰でも、深刻な身体的虐待と類似しているとする研究結果もある。
「これは『すくすく子育て』の虐待を考える回で紹介されていた事例ですが、たたく子育てをやめた、あるママが次のようにおっしゃっていました。2歳の女の子と5ヶ月の男の子の子育て中で、長女に何度注意しても言うことをきかなくて、手をあげていたそうです。たたいても意味がないと分かっていたのに、自分をコントロールできなかったとか。日々、2人のお子さんの世話につかれて、大変だったのでしょう。そんなある時、2歳の長女がたたかれながら『ママ、おしりペンしないで』と泣きながら訴えて、ハッと気付いた。たとえ2歳の子供であっても、自分と同じひとりの人間である、人に暴力をふるってはいけない、と。それ以来、そのママは子供をたたいてしつけることはなくなったそうです」(大日向先生)。
「体罰等によらない子育てのために(素案)」には子供が言うことをきかない様々な理由を紹介している。
「お子さんが、『ママ、おしりペンしないで』という言葉は、子供の精一杯の訴えの気持ち。どんなに幼い子であっても、1人の人間として尊重する視点が大切です。子育てひろば等でママが帰ろうとすると、『帰りたくない』と駄々をこねるシーンをよく目にします。そんな時は近くにいるスタッフが『まだ帰りたくないのね』と子供の気持ちに寄り添って声がけし、少し様子を見てあげると、落ち着いて、素直に帰り支度を始める光景がよく見られます。電車や公共の場などで子どもが泣いたり聞き分けがなくなったとき、ママ1人で子どもをなだめることが大変なことも少なくありません。周囲の人の温かな見守りと声掛けがとても大切だと思っています」(大日向先生)。
子育てを担うことは、大変なこと。子供の聞き分けのなさに腹を立てたり、イライラすることは、多くの子育て中の保護者が経験している。体罰等をしてしまうパパママも様々な思いや悩みを抱えている。どんな悩みか具体例を紹介しよう。
子供の年齢や特性等に関わること
●一生懸命、子供に向き合っているのにいつまでも泣き止まない
●言葉で何度言っても言うことを聞かない、動いてくれない
●年齢に応じた発達・行動が見られない など
保護者の心配事や負担感、孤独感等に関わること
●自分の仕事や介護、家族関係等でストレスが溜まっている
●周囲に相談したり頼りにできる人がいない
●小さい子供が複数いるが周囲からのサポートが得られない など
保護者のこれまでの体験や周囲の言動等に関わること
●自分自身もそうやって育ってきた
●大人としてなめられてはいけないと感じている
●痛みを伴わないと他人の痛みが理解できないと信じている
●愛情があればたたいても理解してくれると言われてきた
●子供が言うことを聞かないのは、親が甘いからだと責められた など
出典:厚生労働省「体罰によらない子育ての推進に関する検討会」 提言資料「体罰によらない子育てのために ~ みんなで育児を支える社会に ~」
「当事者は、悩みや大変さを抱え込んでいる状態にすら気付いていないこともあります。子供に手をあげたことがある人が7割いることを考えれば、多くの人がマルトリートメントでいうグレーゾーンに近いところにいて、もしかしたら、いつイエローやレッドに陥る危険性がないとも限りません」。
マルトリートメントとは、「大人の子供への不適切な関わり」を意味し、児童虐待の意味を広く捉えた概念。A(要保護)、B(要支援)のレベルだけでなく、C(要観察)のレベルまで含める。
A(要保護)レッドゾーン
子供の命や安全を確保するため児童相談所が強制的に介入し、子供の保護を要するレベル
B(要支援)イエローゾーン
軽度な児童虐待で、問題を重症化させないために児童相談所など関係機関が支援していくレベル
C(要観察)グレーゾーン
児童虐待とまではいかないが、保護者の子供への不適切な育児について、地域の関係機関等(児童相談所、福祉事務所、市区町村、学校等)が連携して保護者に対して啓発や教育を行い支援していく必要があるレベル
危険を予測できない大人の不適切な対応の例
●自転車の補助イスに子供のみを乗せておき、買い物をする
●高層マンションのベランダに踏み台となるような物が置いてある
●親のたばこ、ライターを無造作に子供の手の届くところに置く など
出典:文部科学省「養護教諭のための児童虐待対応の手引」
危険を回避するには、“体罰は絶対にいけないと心に固く誓う”ことが何よりも重要だと大日向先生は指摘する。
「どんなに普段穏やかな人であろうと、人間誰しも本質的に残虐性を持っています。1回たたいてしまうと、それがスイッチとなり、どんどんエスカレートしていく危険性を十分秘めているのです。誰でも手を挙げてしまうことはあるでしょう。でも、それを正当化してはだめです。本当につらいときは、なかなか相談にたどりつけないものです。だから、相談を受ける側の支援者や地域の方にお伝えしたいのは、相談に来た方を無条件に受け入れてほしいということです。また、親は相談に行けないときでも、とにかくSNSでもいい、自分の思いを言葉にすることです。そうすると今の時代は、『私も!』と共感の声が返ってきます。子育ては、親だけ、家族だけではできません。つらいときには『つらい』と言っていいんだ、ということを社会の共通理解にしたいですね。同時に子供は親からはもちろんですが、親以外の多くの人に見守られ、愛されて育つことが大切だということも共通理解にできたらと思います」(大日向先生)。
大日向 雅美先生
1950年、神奈川県出身。恵泉女学園大学学長・専門は発達心理学(家族・親子関係)。2004年よりNPO法人あい・ぽーとステーション代表理事として、地域の子育て・家族支援活動に注力。「すくすく子育て」(NHK Eテレ)や『人生案内』(読売新聞社)等のメディアでも活躍。1970年代初めに相次いだコインロッカーに新生児が遺棄される事件を機に、母親の育児ストレスなどを研究。内閣府や厚生労働省の少子化対策・子育て支援関連の審議会委員等を務める。近著『もう悩まない!自己肯定の幸せ子育て』他多数。
文/脇谷美佳子
FQ Kids VOL.02(2020年春号)より転載
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