2022.09.19
2023.11.20
2024.11.06
ルドルフ・シュタイナーは、メルヘンは「人間の魂の最奥から湧き出る最も根源的なものである」と考えていました。子どもたちはメルヘンの夢見の世界で、天使や妖精たちと出会い、この世界の美しさ、不思議さや驚きを学びます。
シュタイナーは、メルヘンが超感覚的な成長の過程を象徴し、スピリチュアルな意味を持つと信じていました。そしてメルヘンは、大人になっても私たちの内なる世界を探求する手段として、深い洞察を提供していると考えていました。
誰もが子どもの頃に触れる童話の多くは、民話や伝承、神話に原型があります。さまざまな形で語り継がれてきた物語は、心理学者ユングのいう集合無意識の世界で求める物語が形を変えて表れているとも言えます。
例えば「シンデレラ」は、ディズニー映画などでも題材になっていますが、原作者は不明です。
グリム兄弟による「シンデレラ」 、シャルル・ペローによる「サンドリヨン」などが知られていますが、さらに古い原型となるジャンバティスタ・バジーレの『五日物語』の「チェネレントラ」など、なんと約800種類の類型があるといわれています。
また西洋だけでなく、日本の落窪物語や、中国にも楊貴妃がモデルと言われる掃灰娘や、唐代の小説「葉限」など、広い地域にさまざまな「シンデレラ」に類似する物語が伝わっています。
これは深層心理が求める幸福への希求でもあります。現代のドラマでも不遇な一般人女性が、短期間で(あるいは長い年月にわたる苦労の末)見違えるほどの成長と幸福を手にする話は「シンデレラストーリー」と呼ばれ、成功物語の構造はラブロマンスの定番でしょう。
いつか魔法使いや王子様が現れ、強力なサポートによって必ず人生は好転していき、幸福を手にすることができる。そんな構造がファンタジーの中にあります。
メルヘンは「集合的無意識」の領域において、神話・伝説・夢などに時代や地域を超えて繰り返し表出する心的構造であると同時に、その成長を助ける役割も果たします。
神話研究者であるジョセフ・キャンベルは、世界中の神話や寓話を研究し「ヒーローズ・ジャーニー」(英雄の旅)という法則を導き出しました。ギリシャ神話英雄譚から、アーサー王伝説、オペラ『魔笛』、RPG『ドラゴンクエスト』、トールキン『指輪物語』まで。
英雄物語には時代や地域を超えた基本構造となる「世界モデル」があり、その法則は現代の映画や小説、漫画などにも応用されている、というのです。
大学時代、キャンベルに学んだジョージ・ルーカス監督が英雄伝説の構造に沿って『スター・ウォーズ』を作った話は有名です。その後もハリウッド映画のヒーローものの基本構造となりました。
英雄の旅は8つのステップ(使命・旅立ち・試練・出会い・通過儀礼・受容・完了・帰還)からなり、物語の主人公が成長し変化するプロセスを表しているとされます。それは私たちの心の成長にも重なり、その構造を持つストーリーが私たちの心を惹きつけるわけです。
人はそれぞれの人生において数多くのチャレンジがあるわけですが、自分の使命やミッション、仲間たちとの出会いの中で、やがて自分が自分の人生の主人公であることを知ります。
自分の人生をヒーローズ・ジャーニーの視点で見つめ直すことで、成長や変化のヒントを見つけることができるかもしれません。試練は、愛と勇気によって必ず乗り越えることができることを「人生の型」として学んでいくわけです。
メルヘンは無意識的な欲望や感情を象徴的に表現していると同時に、子どもたちが(そして大人も)それを通じて自己理解を深める助けになります。
シュタイナーはメルヘンが太古の人間の記憶を表現していると考え、魂の栄養としてすべての年代の人々に勧めていました。
目に見えない世界との交流=メルヘンを通じて、精神が自分自身で成長するきっかけをつくってあげること。感性を刺激し、子どもたちの想像力を豊かにすること。それこそがシュタイナー教育の根幹となる思想でもあります。
谷崎テトラ
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデューサー。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたテレビ、ラジオ番組、出版などを企画・構成する傍ら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
HP:www.kanatamusic.com/tetra
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FQ Kids VOL.19(2024年夏号)より転載
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