2024.06.07
2020.03.15
2024.12.09
東大CEDEP
佐藤賢輔さん
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)特任助教。専門は発達心理学で、紙の絵本とデジタル絵本の比較などについて実験研究、調査を行う。2児の父。
いつの時代も、親子の愛情を育むツールとして、そして言語能力や語彙を伸ばす教材の1つとして身近な存在であり続ける絵本。
今回は絵本および児童書と「非認知能力」の関係について、東大CEDEP(発達保育実践政策学センター)でポプラ社と共同の「子どもと絵本・本に関する研究プロジェクト」に参加する佐藤賢輔特任助教に伺った。
「絵本の読み聞かせや読書は、非認知能力の“感情知性”や“共感性”、つまり“人の気持ちを理解する力”の向上に貢献することが、近年の研究で明らかになっています」。
1人の世界に没入する「読書」によって、実は人の気持ちを理解する力が伸びるというのは興味深い。ただし、どんな内容でも培われるというわけではないという。
「もともと、絵本は非認知能力である“社会性”や“自分や他者を大切にする気持ち”などがねらい・テーマとして作られているものが多くあります。親はねらいを理解し、子どもの性格や好みと照らし合わせた上で本を選べるといいですね。
また、読み聞かせの量や、抑揚をつけたり声色を変えたりと、登場人物の気持ちが伝わる読み方をすることが影響するという研究結果もあります」。
とはいえ、子どもに読書習慣をつけることは案外難しいそうだ。
「日本では、年齢とともに不読率(1ヶ月に1冊も本を読まない子どもの割合)が上がっていきます。幼少期に読まない子どもは大人になっても読まない傾向があるので、やはり幼児期から絵本や本を読む習慣は大切です。
赤ちゃんの時期から絵本を身近に置き、幼児期には読み聞かせをたくさんして親子で楽しさを共有し、次第に自分で読んでみたい気持ちを育むといったように、発達に応じた楽しみ方を親がサポートしていきましょう」。
全国の小中学生の約3割が、家にある本の数(絵本を含む)が25冊以下というデータもある。
「そもそも家にないと、本がもたらす恩恵を受けられません。近年では、学校や地域の図書館に加え、子ども向けの電子絵本・電子書籍なども増えています。
本へのアクセスの仕方を教え、読書が身近にある環境を確保してあげるというのは保護者の大切な役割。ぜひ年齢ごとに『子どもが読書から離れない工夫』をして、親子で読書する喜びを感じてほしいと思います」。
絵本で非認知能力を伸ばす
読み聞かせ&本選びのポイント
読み聞かせ
●抑揚をつけたり気持ちを込めて読む
●「〇〇ちゃんもこんなことがあったよね」と実生活と結びつけた会話をする
●なるべく早い時期に絵本と出会わせ、日常的に読む
本選び
●親子で一緒に選ぶことを楽しむ
●親が選書するときは本のねらいを考えて内容の幅を広げる
●子どもの選書を尊重し、自分で本を選ぶ力を育てる
非認知能力を伸ばす上で、絵本の強みの1つは「何らかの意図やテーマがあり、物語を通して人の心の変化が描かれている」という点。物語、登場人物、行動の理由を感じながら読むことが、感情知性や共感性を育み、人の心の理解につながっていく。
絵本・児童書を出版するポプラ社と共同で研究を行う東大CEDEPは、非認知能力の分類例として次のような10のカテゴリを提案している。わが子に伸ばしてほしい力について考えたり、絵本・児童書を選ぶ際の参考にしてみよう。
規範意識
『ぐんぐん生きる力を育むよみきかせ
できるよ!のお話25』
東京大学CEDEP/監修 ささきあり/作 西東社 2023年
社会の中で他者とともに自分らしく生きていくために身につけておきたい社会行動、マナーやルール。それらの「できる!」を応援する25の物語が詰まった読み聞かせ絵本。物語と図解のW構成でわかりやすく説明してくれる。
レジリエンス
『ねずみくんのチョッキ』
なかえ よしを/作 上野 紀子/絵 ポプラ社 1974年
ねずみくんがお母さんに編んでもらった自慢の赤いチョッキ。仲間たちが「ちょっときせてよ」「すこしきついがにあうかな?」と次々と着ていくと、どんどん伸びていき……。悲しくなるような出来事をポジティブにとらえ直す視点が面白い、シリーズ第一弾。
わが子に本を好きになってもらうには、やはり小さい頃からの親のサポートは重要。絵本との出会いから、1人読み移行まで、ポイントをまとめた。
赤ちゃん期point
●なるべく早く絵本と出会わせる
●かじっても叩いてもOK!
●五感で楽しめる本もおすすめ
“おもちゃ”の1つとして、絵本とわが子が出会う時期。触れたり、かじったりして感触を楽しみ、絵の色や形、言葉の音の響きに刺激を受ける。音が出るものや、異素材の感触の違いを楽しめる絵本など、いろいろなタイプの本が出ているので試してみよう。自治体のブックスタート事業もぜひ活用しよう。
幼児期point
●親子で一緒に本を選びに行く
●本が身近にある環境作り
●読み聞かせは“のびのびと”
言語能力の発達が著しく、ストーリーの理解度も上がってくるこの時期は、子ども本位で好きなように読ませ、絵本を好きという気持ちを育てたい。寝転がっても、最初のページから順に読めなくてもOK。親は読み聞かせに加えて、一緒に本を選んだり、取りやすい場所に絵本を配置したりするなど、環境面でもサポートを。
学童期point
●コミュニケーションを通して一緒に楽しむ
●家族で読書タイムの習慣付け
●子どもが本から離れない工夫を
学童期に入り「1人で本が読める」ようになっても、「1人で本が楽しめる」とは限らない。この時期には、お互いに読んだ本の内容や感想を共有し合うなど、コミュニケーションを通して一緒に楽しめるようにしよう。家族で読書タイムを作るなど、親が自分自身の読書を楽しむ姿を見せることもおすすめだ。
A.その都度質問に答えてあげていいと私は思います。子どもによりますが、読み聞かせ中にたくさん質問をしてくるのは、絵本を通して親とのコミュニケーションを楽しんでいる場合が多いからです。
小さな子なら特に、話が進まなくても、最後までいかずに終わっても良いのです。読み聞かせや読書の時間が、親子にとって楽しい時間であることが、何よりも大切です。
A.絵本も児童書も、基本的に子ども自身が選ぶものを尊重してください。小さい時から一緒に絵本・本を選ぶことで、子どもは「本を選ぶスキル」を身につけていきます。
反対に親が与えたものを読むだけだと興味がわかず1人読みに移行しづらい可能性もあります。ですが、親としてもぜひ読んでほしい本があると思います。
そんなときは図書館で自由に選ばせて、そこに親チョイスのものも追加するという方法がおすすめです。学校によっては、子ども向け電子書籍の読み放題サービスが利用できることもあります。
A.本を楽しむ習慣作りという面では、読めるようになっても読み聞かせてあげるのはいいと思います。
親が全部読むのが大変だなと感じるときは、子どもと1ページずつ交代で読んでみたり、役割を逆転させて子どもに読んでもらったり、「ぬいぐるみに読んであげてくれる?」と役割を与えるなど工夫してみてはいかがでしょうか。
音読は言語能力の発達を促す上でも効果的な活動なので、子どもが楽しんでくれるならぜひ勧めてみてください。
A.特に問題はありません。小さい子にとっては、児童書に出てくるような知らない言葉との出会いは良い刺激になります。理解できなくても、過激な内容や年齢にそぐわないコンテンツでなければ大丈夫です。
また、小・中学生でも絵本が好きな気持ちを大切にしてあげてください。読書に親しんでいるうちに、自然と長い文章を読みたい気持ちが生まれてきます。
場所をとらない、持ち運びに便利などのメリットが魅力的なデジタル絵本。新たな選択肢として注目される一方、東大CEDEPの調査によると「紙の絵本とデジタル絵本なら紙の方が望ましい」と考える保護者は約9割にも上るという。
しかし、デジタルで読む場合に気になる「内容をしっかり理解できるのか?」という点では、実はどちらで読んでも大きな差は出ないようだ。
「これは子どもの年齢が3歳以上の場合です。2歳以下では、デジタルの映像や音声の内容がリアルと比べて理解しにくいという研究結果もあるのでそこは注意しましょう。
デジタル絵本では、音声ナレーションを聞くより、親が画面を見ながら読み聞かせるのがおすすめです。紙だけ、デジタルだけ、ではなく両方の良さを理解して、好みや生活スタイルに合わせて便利に使い分けましょう」。(佐藤先生)
文:松永敦子
FQ Kids VOL.19(2024年夏号)より転載
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