「まずは1日5分」子供との信頼関係を築くために必要な、親子の“濃い関わり方”とは

「まずは1日5分」子供との信頼関係を築くために必要な、親子の“濃い関わり方”とは
多様性をテーマに連載して下さっていた鶴岡そらやすさんが、今回から、公立学校教員などの経験をもとに「子供との関わり方」についての連載を開始。「親は自分を見てくれている」と子供に感じてもらえる関わり方とは?

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私自身の
「父との関わり」について

大学卒業後、教員の道へと進んだ私は、臨時採用の期間も含めトータル15年(小学校で12年、中学校で3年)の教員生活を過ごした。

教員経験者の中でも、公立小学校から公立中学校(しかも学区内の中学校)へ異動し、小学校で受け持った子たちを、継続して中学で卒業させるまで受け持つ経験をしたことがある教員は、全国探してもほとんどいないのではないだろうか。

おかげで、成長段階による関わり方の違い、悩みの変化など、身をもって知ることができた。小学生と中学生では全く別人のようになる子供たちだが、根っこは小さい頃からの積み重ねで作られている、ということも知った。

今回から全4回のコラムでは、私自身の体験談を通して、皆さんに「子供との関わり方」について考えていただきたい。初回は、私の子供時代の「父との関わり」から書いていこうと思う。

父子家庭になって始まった
「スピーチタイム」

私が5歳のある日、幼稚園から帰ると、母は家にいなかった。その日から私は「父子家庭」の子になり、父と私、そして弟の3人家族での暮らしが突然始まった。

どうして母が突然いなくなったのか、母はどこに行ったのか。気にならなかったわけではなかったが、5歳の私は「それは聞いたらいけない」と幼心に感じていた。その日以来私は「お母ちゃん」という言葉を封印した。

母がいなくなって、生活は大きく変わった。一番大きな変化は、父が朝食を作ってくれるようになったことだ。わが家は喫茶店を営んでいた。家の1階が喫茶店、2階が自宅。朝起きると、顔を洗って1階に降りる。父が店の仕込みをしながら朝ごはんを用意している。弟と一緒に、テーブルの上にできたものを並べる。

支度ができると、父と弟と3人での朝食が始まるのだが、毎朝必ず「スピーチタイム」をやるようになった。前の日にあったことや今日の予定を1分程度で話すのだ。

最初は父、次の日は私、その次の日は弟……と毎日順番で前に立って話をして「いただきます!」と声を揃えて挨拶してからご飯を食べる。それがわが家の当たり前だった。(おそらくそのおかげで、私も弟も人前で話をするのが苦ではないのだろう)

父が仕事をしながら幼い我々2人を育てるのはそう簡単ではなかったはずだ。喫茶店は朝9時にオープンし、夜の12時までやっていた。自宅とはいえ、店にいる間は私たちを見ていられるわけではないし、仕事が終わるのも私たちが寝た後なのだから、会話する時間だってそんなにない。

朝ごはんの時間は、父と私たちの貴重なコミュニケーションの時間だった。前に立って話をする私たちの表情や声、よく出てくる友達の名前、学校での出来事、朝ごはんの時の食欲など、父は私たちをよく見ていたのだろう。(だから嘘をつくとすぐにバレたのだと大人になってから気がついた)

「私は、かわいそうじゃない!」

当時「父子家庭」は今以上に珍しかった。小学校に上がる前、健康診断や知能テストのようなものを受けるために学校に行った時のこと。世話係の6年生が何気なく「今日はお母さんと来たの?」と聞いてきた。私は「違う」と答えた。「じゃあお父さん?」と聞かれたが、その日父が店を抜けられず、お店のバイトのお姉さんと来ていた私は「違う」と答えた。

するとそれに気づいた先生が駆け寄ってきて「この子はお母さんがいないからお母さんの話はしちゃだめ!」と注意した。すると6年生が「かわいそうなこと言ってごめんね」と謝った。

その瞬間、私は泣いた。びっくりするくらい、涙が止まらなかった。それを見てまた謝られたが、自分がますます惨めでかわいそうな人間になっていく気がした。心の中で(私は、かわいそうじゃない!)と叫んでいた。

家に帰ると、おそらく学校から連絡を受けていたであろう父が待っていた。「どうした?」と聞かれた私はまた涙が溢れて、泣きながらどうにか「かわいそうな子だって言われた」と伝えた。

私の話を聞いていた父は、私に「自分がかわいそうだって思って泣いてるのか?」と聞いてきた。「違う! かわいそうじゃないのにかわいそうって言われたのが嫌だった!」と答えると、父が「自分でかわいそうじゃないと思ってるなら、かわいそうじゃない。他の人が決めたからって、お前がかわいそうな子になるわけじゃない」というようなことを言った。

よくわからなかったが「お父ちゃんは、お前のことをかわいそうな子だなんて思ったことは1回もない。いつもすごい子だと思ってる。お前はどっちを信じる?」と言われた。「お父ちゃん!」と答えると父は笑って、その頃には涙も止まり、自分は大丈夫だと思えるようになっていた。

信頼関係で大切なのは
「時間の濃さ」

私の中には、父は私を見てくれているという圧倒的な信頼があった。だから父の言葉にはいつも説得力があった。教員時代、親子関係がうまくいっていない生徒が、親から注意された時「見てもいないくせに(何も知らないくせに)何がわかるんだよ」と反抗する姿を何度も見た。教員に対しても同じだった。

叱る時だけ関わろうとしたって、話を聞いてくれるわけがない。子供とうまくいっていない時は、普段自分がどれだけ子供を見ているかを見直す必要がある。

信頼関係は、一朝一夕にできるものではなく、小さい頃からの積み重ねで作られる。大切なのは時間の長さではなく、濃さだ。まずは今、自分がどれだけの時間を子供との時間として確保しているか振り返ってみてほしい。他の何かをしながらついでに過ごしている時間ではなく、その子を最優先にする時間として

「全然ない!」という方は、作るところから始めればいい。仕事が忙しい人は、5分でも10分でもいいから意図的に確保することからスタートだ。

そしてもう1つ大事なのは、その時間を「監視」ではなく「観察」に使うということなのだが、字数の関係で、今回はここまで。次回は、「監視」と「観察」について書こうと思うので、お楽しみに。

PROFILE

鶴岡そらやす

大学を卒業後、小中学校合わせて15年の教員生活の中で2000人以上の子供たちと関わり、2014年、一念発起して退職し学習塾を開講。小、中、高校生の子供たち、保護者へのコーチングにて問題発掘と課題解決を行う専門家として実績多数。大学生のキャリア支援メンター、高卒人財の就職支援、企業の新入社員研修などにも関わっている。2020年には親子で考える多様性についての書籍を出版。学校、教育委員会や、市民の集いなどで、生徒、教員、保護者への講演会を開催。小学校から社会人として自立するまでの発達段階を踏まえた、長期的視点からの子育てのポイントを伝えている。
Ameblo:profile.ameba.jp/ameba/soranyasu

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FQKids VOL.13(2023年冬号)より転載

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