2021.07.22
2023.09.19
2022.11.22
好奇心は旺盛なのに長続きしない、できないとすぐに諦めてしまう……そんなわが子の行動が気になってしまうことはないだろうか。性格や好みによると割り切ることもできるが、実は子供が充実した日々を送るためには、粘り強く取り組んでやり遂げる喜びを知ることが大切なようだ。
なんとなく妥当な理屈のように感じられるかもしれないが、これは今まで論証されてこなかった新事実。明らかにした大学の研究内容を紹介しよう。
まず、これまで成人においては、やり抜く力※1が自尊感情※2を媒介して生活満足度につながることがわかっていたが、小学生においては、この関係性は明らかになっていなかった。
※1.やり抜く力:長期的な目標に対する粘り強さや情熱。主に努力の粘り強さと興味の一貫性
※2.自尊感情:自分に対する肯定的な態度
“やり抜く力”や“粘り強さ”などの特性は、昨今話題の非認知能力の1つとしても注目されている。やり抜く力の高さは、教育のアウトカム(学習に対する態度、学業成績、生活満足度など)の良好さにつながることは容易に推察できるだろう。
武蔵野大学教育学部幼児教育学科(東京都西東京市)の今福理博准教授と、学部生だった赤塚愛梨さん※3は、小学生のやり抜く力と、学校および生活の満足度との間に相関関係があるかどうかの調査・研究を実施した。
※3:2020年研究当時、教育学科保育・幼児教育専修(現 幼児教育学科)4年生、2020年度卒業
小学1~6年生の合計107人の子供とその保護者を対象にアンケート調査をし、「日本語版Short Grit(Grit-S)尺度」「日本語版Rosenberg自尊感情尺度」「OECD生徒の学習到達度調査(PISA調査)で使用された学校所属感と生活満足度の尺度」を用いて、やり抜く力、自尊感情、学校満足度、生活満足度を評価。各尺度の得点の関連を調べた。
分析の結果、次の3点が明らかになった。
1)粘り強さが高い児童ほど、自尊感情が高く、学校満足度及び生活満足度が高くなる
2)粘り強さの高さと学校満足度の高さの関係は、自尊感情の高さに媒介される(図1)
3)粘り強さの高さと生活満足度の高さの関係は、自尊感情の高さに媒介される(図2)
粘り強くやり抜く子供ほど、学校生活・日常生活に満足していること、そこには自尊感情の高さが働いていることが示唆された。
今後、この研究結果を、教育の現場でどう活用していくかが1つの課題だ。大人が積極的に励ましたりすることで、子供のやり抜く力を伸ばしてあげれば、自尊感情も育まれ、学校・生活への満足度が高まると考えられる。例えば、目標に向けて努力している子供に「がんばっているね」などと声をかけることで、やり抜く力は伸びるかもしれない。
また、個々の子供の中で、やり抜く力がどう育っていくのかを解明することも必要だ。子供の成長に寄り添って観察することで、どのような出来事がやり抜く力を伸ばすのか、わかってくる可能性がある。
この研究の成果は、2022年10月27日、国際科学誌「Child Care in Practice」のオンライン版に掲載された。
やり抜く力を育てるのは学校ばかりではなく、家庭の課題でもある。パパ・ママはついつい「早くしなさい」と急き立ててしまうが、目標に向けて頑張っている子供の姿も評価してあげてほしい。じっくりと取り組む中でこそ、関心を深めたり好きなことを見つけたりできるものだ。
スピーディーに結果を出せること以上に、すこやかな自尊感情を持って、人生に満足を感じながら生きられることの方が、わが子にとってはるかに幸せではないだろうか。
文:平井達也
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