2024.06.12
2024.08.12
2022.05.17
「小学校に入学する前に、早めに英語を始めさせた方がいいのか?」問題。それについては正直言って、「どちらでもいい」と思っています。英語はあくまで、スイミングやピアノといった習い事の1つです。
ただし、強いて言うならば、「小学校3年生から英語が必修化されるから、勉強としてやらせなくてはいけない」と、親が強迫観念にかられて始めさせるのは良くありません。子供が英語を好きだと思い、やりたいと言うなら始めればいいんです。
小学校の英語カリキュラムは、ものすごく勉強に特化した内容というものではありませんから、英語教室へ通って学んでも、アドバンテージはそんなに高くありません。残念ながら、学校の先生よりも英語教室の先生の方が発音が上手いので、塾での先取りが「学校の英語に関心が持てない」「学校の勉強がつまらない」という弊害も生み出しかねません。(良心的な塾であれば、そういうことにもちゃんと留意して指導しています。)
中学校・高等学校で長く英語を教えてこられた先生方に伺うと、優秀な先生ほど、早期の英語学習には反対しています。むしろ、中学からの英語もやめて高校からで十分、とおっしゃる先生もいます。
実際、日本語をしゃべる海外の人たちが日本にはたくさんいますが、そのほとんどの人が大学から履修しています。そして、3年ほどでそこそこしゃべれるようになって日本へ留学し、ほぼほぼ流暢に日本語をしゃべれるようになって就職しています。
語学というのは早い方がいいとよく言われますが、後からでも文法などの理論だけで十分習得できるものです。むしろ期間を区切って集中的にやった方が効果は高いという説もあります。どうしても完璧なバイリンガルに育てたいと思うなら、早くから始めた方がいいでしょうね。大事なのは「なんのための英語教育なのか?」という目的なのです。
僕は1962年生まれですが、僕たち世代で英語を使って仕事をする日本人は、人口の1%にも満たない時代でした。商社マンやフライトアテンダントなど、英語を使う仕事は特定され、英語ができればその仕事に就け、できなければ就けないというだけ。そのため、本来は日本人全員に英語教育をする必要性は、実はあまりありませんでした。
ただ、今後は日本にたくさんの外国の方々に住んでいただかないといけませんから、英語ができた方がお子さんの可能性は広がります。「多文化共生型の社会」になった今、英語教育の目標を「ビジネスや学問のためではなく、文化的な背景が異なる人との最低限のコミュニケーション・ツールとして学ぶ」ことにシフトしていかなければなりません。
繰り返しになりますが、英語をしゃべれるようにするためだけだったら、やりたい子だけ高校からやればいいのです。早期英語教育において、次のようなデータがあります。「幼少期に英語教室に通っていた子供」と「中学時代の英語の成績」の間には相関性が全くない※。これはすでに実証されています。
※:参考「早期英語教育が中等学校英語教育に及ぼす影響についての調査研究(第一次調査)」
この先は僕の推測ですが、厳密に言うと前述の相関関係はおそらく全くのゼロではなく、教え方が良ければ中学校での英語の成績も良くなるはずだと考えます。ただ、幼稚園・保育園から英語をやっていた子の中には「英語が嫌いになる子」が一定数います。結果的にプラスマイナスで統計上ゼロになる、すなわち相関性が弱くなるのではないでしょうか。
嫌いになってしまうのならば、早期英語教育は逆効果に作用します。そのリスクを親はちゃんと理解したうえで、子供に英語を習わせる覚悟が必要ですね。
英語を学ぶうえでも、幼少期には「コミュニケーション能力」を育むことが大事だと思います。また、幼少期に差がつく非認知能力の中でも、特に大切にしてあげたいのは「好奇心」です。保育園・幼稚園、学校、地域社会、家庭で、周囲の大人たちが子供とどのように接するかによって、非認知能力は大きな影響を受けます。
好奇心を育てるなら、例えばリビングに世界地図を貼って、ニュースを見ながら「ウクライナはどこだろうね」という会話を日常的にしてみるなど。ありがたいことに、うちの子は地図が大好きで、僕がスマホで地図を見ていると食いついてきます。
アニメの『パウ・パトロール』も好きでよく観ていますが、好きな海外アニメを英語で観せるというアプローチもありますよね。別に英語でなくても、世界中の多様な機関車が登場する『機関車トーマス』など、今は「多文化共生」をしっかり意識した子供向け番組作りが世界中で行われています。それを観ながら、親子でいろいろな会話をするのもいいですね。
英語を早くから習わせるか否かの前に、子供のうちは非認知スキルとしてのコミュニケーション能力や好奇心、他者の話をちゃんと聞ける力、そういったものを養ってあげることが大切だと、僕は思っています。
平田オリザ
1962年東京生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。劇団「青年団」主宰。江原河畔劇場芸術総監督。こまばアゴラ劇場芸術総監督。1995年『東京ノート』での第39回岸田國士戯曲賞受賞をはじめ国内外で多数の賞を受賞。京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事、豊岡市文化政策担当参与など多彩に活動。
文:脇谷美佳子
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