わが子を被害者にも加害者にもしないために。子供がネットに触れる前に教えるべきこと

わが子を被害者にも加害者にもしないために。子供がネットに触れる前に教えるべきこと
子供たちのネット上での発信が、小学校で問題になることもある昨今。ちょっとした悪ふざけのつもりが、他人や自分自身をも傷つけてしまうことを学ぶ必要がある。小島慶子さんが考える、今必要なメディアリテラシーとは?

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ネットとはどういう場所か?
子供たちへ事前に共有

私には、大学2年生と高校2年生の息子がいます。ロシアがウクライナに侵攻したというニュースを聞いて、私たちにも戦争に対して今すぐにできるアクションがあると息子たちに話しました。それは「人道援助団体に寄付をすること、フェイクニュースや不確実な情報を拡散しないこと、ロシアの政権への怒りを全てのロシア人への憎悪に変えないこと」です。

今の戦争はネットでの情報戦でもありますから、友人が善意でシェアしてくれた画像や記事が、捏造記事である場合もあります。知らぬ間にそうした嘘の情報を拡散してしまわないよう、必ず元の記事をあたることや、複数の記事を読んで慎重に事実を判断することが不可欠です。

息子たちが中学生の頃から伝えていることがあります。「ネットは君たちのリアルな人間関係や生身で生きる世界をより豊かにするために使うものだよ。匿名アカウントで憂さ晴らしや暇つぶしのために好き勝手なことを言うような使い方はしないでほしい。名前と顔のわかる関係で言えないことは、ネットでも言ってはいけないんだよ」。

彼らがスマホとPCを使い始めた段階で、ネットがどういう場所であるかをかなり詳しく話しました。

使っているテクノロジーは最先端でも、ネット社会は人の欲望が野放しの野蛮な社会。身元を隠した人々が不確実な情報や思い込みをもとに騒ぎ立てて、誰かを死に追いやることすらある無法地帯です。

ですから、そこで目にするものに対してはいつも「誰が、何の目的でこのような情報を流しているのか。誰がどんなつもりでそれを増幅しているのか」という、情報の後ろにある人の欲望を見るようにしなくてはなりません。何よりも、画面を見つめる自分の欲望を知って制御する力が必要になります。人の「見たい、言いたい」という欲望はとてつもなく強いからです。

今必要なのは
発信者としてのリテラシー

これまでメディアリテラシー教育といえば、メディアに溢れる玉石混交の情報を峻別し、メディアの表現に隠された意図を読み解く力や、メディアで語られていることを疑い、語られていないことを想像する力をつけさせることでした。

今はそれに加えて、発信リテラシー教育が不可欠です。スマホを手にした瞬間から、誰もが世界に向けて簡単に発信することができる時代。長い間、メディアで働く人たちだけが特権的に手にしていた「大勢の人に話しかけて脳みそに影響を及ぼす道具」を、今や数十億人が手にしているのです。世の中を混乱させることも、人を殴ることも、死に追いやることもできてしまう道具をです。

情報を出す者としての心構えの教育は一切行われないまま、人はスマホやPCを手にします。自己流で使って失敗しながら覚えればいい、というような生やさしい世界ではありません。その「失敗」は他人や自身の人権と命に関わりかねないからです。わが子を加害者にも被害者にもしないために、発信者としての心構えを早くから伝えておかねばなりません。そのためには、「人権とは何か」を学ぶことが不可欠です。

最も手軽な「発信」は、拡散やいいね! ボタンを押すこと。冒頭でも書いたように、そうと知らずにワンクリックでフェイクニュースを広めてしまうこともあります。炎上に踊らされた正義感から、誹謗中傷コメントをリツイートして訴えられ、人生を台無しにすることすらあります。ネットは完全な匿名空間ではないからです。

いわゆる炎上などで誹謗中傷コメントを投稿しているユーザーは、全体の0.00025%ほどという研究結果(※)がありますが、そうしたごく僅かな人たちの書き込みが「世間の声」に見えてしまうのがネットの怖いところです。

ネットの書き込みをもとに自分の世界観を形作ってしまうと、積極的に炎上に参加しなくても、そこで拡散されている悪意や嘘の情報に気づくことができません。無自覚に、差別やデマを広めてしまうことも。ネットの書き込みは決して「社会全体の意見」ではないということを知って、迂闊に拡散しないようにしなければなりません。

あらゆるリスクを
親自身も再確認するとき

また、ネットには無防備な子供を狙ってうろついている大人がたくさんいます。言葉巧みに誘導されて、子供がうっかり自分の裸の写真を送ってしまい脅迫されることもあります。こうしたケースで責めるべきは自分の写真を送った子供ではなく、子供を性的に搾取する大人たちです。

子供たちには、一度デジタル空間に出てしまった自分の写真を消すのは非常に難しいということを早くから教えておく必要があるでしょう。送った相手がたとえ友達や恋人でも、それが流出してしまうことがあるということも。

ネット空間で「自分はここにいるよ」と声を上げた瞬間に、誰でも加害者にも被害者にもなるリスクを背負い込むことになるのです。

子供に伝えるにあたって、親もぜひ一度、自分の欲望について考えてみましょう。積極的な発信をしていなくても、誰かが炎上しているのを面白がって読んでいないか。SNSで見かけた噂話をつい人に話したりしていないか。それは誰かの悪意の肥やしになり、子供たちが出ていく社会を歪める一因にもなっていると知ることが大事ですね。

※:コロナで増えるネットの誹謗中傷 「炎上」あおるメディアにも責任 対応策は…/山口真一(論座 – 朝日新聞社の言論サイト)より

プロフィール

小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。
Twitter:@account_kkojima
Instagram:keiko_kojima_
公式サイト:アップルクロス

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