多様性の概念は新たなフェーズへ。「相手を尊重する気持ち」を育てる親子の会話とは?

多様性の概念は新たなフェーズへ。「相手を尊重する気持ち」を育てる親子の会話とは?
日本でようやく浸透してきたLGBTだが、世界はもう一歩進んでいる。さまざまな視点を持つことの大切さを解く、鶴岡そらやすさんの連載新テーマ「LGBTからSOGIへ~新しい世界の多様な価値観を自分ごとに~」

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「LGBT」の枠を超え
「SOGI(ソジ)」の段階へ

前号までは「LGBT」をテーマに多様性と子育てについて、お話してきた。ここからはさらにもう一歩進んで「SOGI(ソジ)」という切り口でコラムをお届けしていく。初回なので難しい用語、初めて聞く言い回しが出てくるかもしれないが、お付き合い願いたい。

まず、このコラムを読んでくださっている方は、「SOGI(ソジ)」という言葉をご存知だろうか。日本ではまだあまり認知されていない言葉なので、頭にハテナマークが浮かぶ方もいることだろう。

「SOGI(ソジ/ソギとも読む)」とは、Sexual Orientation(性的指向/好きになる相手の性)とGender Identity(性自認/自分が認識している自分の性)の略称である。国連の正式文書ではすでに「LGBT」ではなく「SOGI」が用いられている。2011年には、国連人権理事会において「SOGIに関する人権決議」が採択され、日本も賛同国に入っている。

これまでお伝えしてきた「LGBT」も(性的指向/好きになる相手の性)と(性自認/自分が認識している自分の性)に関わる表現だが、こちらはあくまでも「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)」という、一部のセクシャルマイノリティの総称である。わかりやすい表現ではあるが、一方で「LGBT」に当てはまる一部の人たち(当事者)と、そこに当てはまらない人たち(非当事者)という構図も生み出す。

「LGBTの人たち」に配慮するという視点は必要ではあるが、これだけではどこか他人ごと、遠い世界の話と捉えてしまう人もいる。他人ごとだから分からない、自分の周りにはいない、自分たちには関係ない、という意見も出てくる。

例えば学校の制服問題を取り上げて考えてみよう。

①「LGBT」の生徒(この場合おそらくトランスジェンダーの生徒を指している)に配慮して、制服をジェンダーレスに変更する。
②全ての生徒が自分で快適に過ごせる選択ができるように、制服をジェンダーレスに変更する。

どちらの場合も制服がジェンダーレスに変わる、という点では同じなのだが、①はあくまでも「LGBT」への配慮という視点であり、それ以外の生徒にとっては関係がない(そもそもその状態で、カミングアウトもできていない当事者生徒が利用できるのだろうか? とも思う)。

②の場合はどうだろう。例えば、寒さが苦手だったり、動きにくさで困っている生徒が、スカートではなくスラックスを選ぶ、ということもできる。「LGBT」という枠を取り払って広げることで、一部の生徒のためだけのものだった配慮が、どの生徒の生きやすさも広げるものに変わる。

他人ごとから自分ごとへ
各所に求められる多様性

多様性を尊重しようという考えが世の中に浸透してきたことで、さまざまな自分らしさが受け入れられるようになってきた。メンズコスメが登場し、女性のスポーツ選手がテレビでも取り上げられ、活躍するようになった。

家庭内での父親・母親の役割や、職場での男性、女性の役割も同等になってきた。これまで「男/女」で固定化されてきた、性の概念による垣根が少しずつなくなってきている。つまりジェンダーの問題が「LGBT」だけの問題ではなくなってきたのである。

そこで「SOGI」という考え方が登場した。自分がどの性の人を好きになるのか、自分の性をどう認識しているのか。「SOGI」の視点で考えると、マジョリティー/マイノリティーで分かれるのではなく、全ての人にとって自分ごとに変わる。

誰だって、自分の性的指向や性自認によって、暴力にも差別にも晒されない世の中であることを望むだろう。これまでは「LGBTの人たち」に配慮しよう、だった視点から「自分たちのSOGI」を守ろうという視点に変わる。他人ごとから自分ごとへの転換が起きる。

しかしそうは言っても、男性がスカートを選ぶことへの抵抗感はまだまだあるだろうし「そんなのおかしい、変だ」という目はすぐにはなくならないだろう。男子生徒がスカートを履くのは、簡単なことではない。このハードルを乗り越えるにはどうしたら良いのだろうか、と考えていた時、たまたまTwitterで見つけた、一般社団法人日本障がい者ファッション協会の平林景さんの発信に衝撃を受けた。

平林さんは、ジェンダーという切り口ではなく、車いすに乗っている方たちの視点でファッションを捉えていた。車いすの方たちのファッションを機能性で考えたら、パンツスタイルよりも巻きスカートタイプのボトムスの方が便利なのだと気づいた。座ったままでも脱着しやすいように、腰回りが面ファスナーで作られているなどの工夫もされている。

そしてそこからさらに、障がい者の方にとっての機能面だけではなく、男性でも女性でも、高齢者でも若者でも、障がいがあってもなくても誰もが履けるおしゃれなボトムスを作ればいい! という発想へと広がっていく。ホームページを見ていただくと分かるのだが、実にかっこいい。

「障がい者のためのボトムス」としてしまうと、そこには線引きが生まれる。「一部の特別な人たちが使うもの」としてしまったら、また「他人ごと」になってしまう。これから作られていくものだからこそ、誰もが対象であると定義することで、違和感なく使えるし、生きやすくなる人が増える。個人的に、ホームページに書かれている「世の中に対する挑戦です」という言葉に、鳥肌がたった。

みんな違って当たり前
互いを尊重し認め合う

この先お届けするコラムは「SOGI」をテーマに展開していくが、ジェンダーに限ってお伝えしたいわけではない。さまざまな視点を持ち、世の中の課題を自分ごととして捉えていただくためのものである。

どこの国の出身か、身体的特徴(背の高さ、体重、肌の色、髪の毛の色や質、障がいの有無など)はどうか、職業や学歴、成長スピードなど、どれも人それぞれであり、その違いによって暴力や差別を受けない世の中を作ること。それは自分も、自分の家族や友人の人権も守られる世の中ということだ。

子供に「みんながあなたと同じではないし、あなたもみんなとは違う。違いは悪いことではない。ただ、違いが存在するだけだ。お互いの違いを知り、尊重し合うことはとても大切なことだ」と伝え、自分が尊重されたいのならば、自分も相手を尊重しようと教える。そんな対話のきっかけになるよう、さまざまな切り口でお伝えしようと思っている。

ご家庭では、お子さんが周りとの違いに違和感を抱いたり、疑問をもった時が対話のチャンスである。「良いところに気がついたね! きみはどう思う?」と、話を始めてみてはいかがだろう。お子さんから思いがけないすてきな言葉が出てくるかもしれない。

PROFILE

鶴岡そらやす
合同会社Be Brave代表。幼少期を父子家庭で育つ。公立小・中学校で教員として15年勤務し退職。授業をしない自立型学習塾を経営。生徒自身に気づきを促すコーチング力で、主体的に学ぶ姿勢を持った子供たちを育成。2018年、自身がトランスジェンダーであることを公表。企業向け講演や研修、LGBTや不登校などの保護者向けセミナーを行う。著書に「きみは世界でただひとりおやこで話すはじめてのLGBTs」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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FQ Kids VOL.09(2022年冬号)より転載

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