子供への自然教育の重要性とは? 生きる力を高める3つの“本能スイッチ”と親の役割

子供への自然教育の重要性とは? 生きる力を高める3つの“本能スイッチ”と親の役割
子供にとって自然とはどういう存在で、なぜ自然教育が大事なのか? 子供の遊びや学びなど、教育学・保育学研究の第一人者、汐見稔幸先生に自然教育の重要性や、自然体験から子供が得られる力について、お話を伺った。

自然が本能をスイッチオンする

走りたくなる、登りたくなる。それが自然

今、私たちの暮らしは、自然から遠ざかっている。

「朝起きたら、太陽の光を浴びて、外の空気をパッと吸って、今日も頑張るぞという気分になるのが、何百万年もの間、人間のやり方だったんです。現代のような密封された家に住み、人工物に囲まれ、季節感もあまり感じないというのは本来の人間のくらしからあまりに離れてしまったと思います」と汐見稔幸先生。

かつては食糧を獲得するだけでも一苦労で、その大変さが文明を進歩させてきたのだが、今の時代はそれもない。スーパーに行けば食糧は簡単に手に入り、ボタンを押せば火がつき、蛇口をひねれば水が出る。

こうした便利な暮らしの中で、私たちは、本能が働きにくくなってしまった。その本能をスイッチオンしてくれるのが、自然だ。

「人間は、ちょっとした難しさを目の前にすると、『よし克服するぞ!』と挑戦し、工夫してやり遂げることに喜びを感じるという本能があるんです。例えば子供が木登りを覚えると、わざわざ難しい木にチャレンジします。誰にやれと言われたわけでもないのに、自らどんどん取り組んで、どうしたらできるかやってみて、『ほら、できた!』と満足します」。

子供は、原っぱなど広い場所を見ると走りたくなる。坂道やゴツゴツした岩を見ると登りたくなる。石や花を見ると集めたくなるし、虫を見ると捕まえたくなる。自然という豊かで複雑な環境が子供の本能を刺激する。

「だからこそ、子供を連れて自然の中に出かけてほしい。身近に自然環境がない今の時代、意識して子供に自然体験をさせるのは大人の役割です」。

身体、美、社会性。
3つの本能を磨く場所

自然の中では、大人は見守っていればいい

自然の中に出かけさえすれば、大人は、手取り足取り遊んでやる必要はない。子供は、自ら体を動かしていく。それも、本能のなせるわざだ。

「走るとか飛ぶとか、よじ登るとか降りるとか、体を思い切り動かすことで筋肉が柔らかくなり、隅々まで血が通ります。身体はそれが快感なのです。つまり人間は、身体を使いたがる本能を持っているということです」。

また、子供は、大人に促されなくても木の実や小石を集め、並べ、花や草木を摘んで遊ぶ。混沌とした自然環境の中に秩序をつくりたがるのも、実は本能だ。

「例えば3歳くらいの子供の前に積み木をドサッと置くと、今まで積み木を見たこともなかったとしても、なぜか必ず積み木を積んだり並べたりします。バラバラの状態を好まず、秩序ある形にしたいという本能が人間にはあります。それが美や文化の創造につながってきました」。

さらに、そこに仲間がいれば、年齢にもよるが、子供は一緒に遊び始める。それは、人間は社会的動物だということと関係がある。

「人間には本来、勝ち負けにこだわる本能があるもの。でも、実際にケンカをするのではなく、遊びという虚構の中で争い、勝敗をつけて、終わったら元に戻ろうとします。そのために必要なのがルールです。子供の仲間遊びには、社会性を育てるのに大切な要素がたくさんつまっています」。

先天的に備わっている行動様式に基づいた行動が、人間を元気にし、安心させる。子供だけではなく、親自身の生きる力も高めるために、自然の中で本能を刺激してみてはいかがだろうか。

Check!
汐見先生と一緒に
保育や幼児教育に関わる人が学ぶ場所

エコカレッジ ぐうたら村
「ぐうたら村」は、八ヶ岳南麓の標高1111mにある、保育者のための学びやリトリートの場。1,900平米の耕作放棄地に、汐見先生を中心に、大学教授、保育士、写真家、建築家など、様々な人が集まり、村作りを進めている。

「豊かな自然環境の中で研修をしないと、保育はわからない」という汐見先生の思いが反映されたぐうたら村では、丸太や廃材、土で小屋を立てたり、多様な命が生きる畑を営んだり、かまどやオーブンを作ってみたりと、ヒトが歩んできた道のりを体感できるワークや、他の命との関係性を体感できるワークを大切にしている。

自然の中で3つの本能を
もっとアクティブに!

「身体」「美」「社会性」の3つの本能にスイッチを入れ、アクティブに働かせるためには、自然の力が必要だ。

01 身体感覚
自然のなかで思い切り動いて身体を喜ばせる
人体には、名前のついている筋肉が200種類以上ある。しかし日常生活で活用する部分はごく一部に過ぎず、ほとんどの筋肉が未使用のまま放置されている。使わない筋肉は固くなり、それにともなって血流も悪くなる。鈍った体は「やる気」スイッチをオフにする。

都会で暮らす子供はふだん大人に注意されてばかりで、思い切り体を動かす機会が少ない。自然の中で体を動かし、全身の筋肉を柔軟に、全身に血を通わせて体を喜ばせ、本能をよみがえらせよう。

02 美的感覚
自然の偶然に心を躍らせる
砂や土でどろだんごや砂山を作るのも、森で採ってきた小枝や花を並べて遊ぶのも、無秩序から秩序を生みだす美的な活動だ。人工的な空間にはほとんど偶然はないが、自然の中には魅力的な偶然が満ちあふれており、創造力を刺激する。

一歩、森に入れば多様な色や形の葉っぱがあり、生き物に出会う。「これは何だろう」「調べてみよう」など、科学的な探求心も育む。

これら美的・知的な活動がしぜんと生まれるのも、自然の中でこそ、だ。

03 社会性
ルールを作ってみんなで遊ぶ
自然の中には原則、お仕着せの遊び道具は何もない。それでも子供は、何かしら遊びを見つけて遊び始める。最初はただ走り回っているだけでも、仲間がいれば、そこにはしだいにルールができていく。

ある一定以上の年齢の子供にとって、ルールのある集団遊びの経験はとても大切。ゲームやスマホなどでは社会性は育たない。自然の中で、子供同士群れて遊ぶことが今の子供にはとくに大切なのである。

PROFILE

汐見稔幸(しおみ・としゆき)先生
東京大学名誉教授、白梅学園大学名誉学長、日本保育学会会長。専門は教育学、保育学、育児学等。保育についての自由な交流と学びの場である臨床育児・保育研究会を主催。21世紀型の身の丈に合った生き方を探るエコビレッジ「ぐうたら村」を建設中。


文:馬場千枝
編集:株式会社こんぺいとうぷらねっと
写真:内田大介
画像提供:小西貴士(ぐうたら村)

FQ Kids VOL.02(2020年春号)より転載

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