2020.11.22
2020.10.10
2022.01.03
連載の第1回で、人が「もっと知りたい」と思うのは「わからないけど面白いもの」、子供であっても「良いもの」「ホンモノ」に触れることが大切だとお話ししました。とは言え、子供も大人も、良いもの・そうでないものと言われてもよくわからないでしょう。だけど、良いものというのは時間が経っても残り続け、そうでないものは自然と無くなっていってしまうものです。
時間が経って、ああやっぱりこっちに比べてこっちが良いな、と思うものってありますよね。最初はわからなくても、徐々に徐々にわかることって。人間というのは、見ると同時に感じているんです。本人は無意識でも、実は感覚的に受け取っている。
そういった感覚的な部分は数字では表せませんし、言葉化できるのもプロの方たち。だから、子供は理解していないのでは? と不安にならなくても全然OKです。子供がぼーっとしている時に「ぼーっとしてるんじゃないよ!」なんて怒っちゃダメですよ(笑)。そんな時って、実は何かを模索していたりするものです。
「何かを感じているんだ」ということはとても大切にしなきゃいけないし、大人にも言えること。マーケティングで発売前にデザインの調査などをしたりしますが、数字に出ないからダメということではありません。人っていうのは無意識に感じ取る力を持っているんだということを理解して、仕事や社会に活かしていくべきだなと思います。
子供に色々なきっかけを与えても、どこに興味を持つかはわかりません。そこらじゅうにあるデザインにも、どこで「あ、これデザインかも」と気がつくかどうか、誰にもわかりません。でも、きっかけが無ければ、色とか形で作られたもの=デザインだ、程度で思考は止まってしまうでしょう。
色や形だけでなく、音やコトにもデザインがあるんだと教えてあげるとします。すると、例えば、スーッとスムーズで使いやすい引き出しと、ガタガタして使いにくい引き出しがあった時、「もしかしてこの違いってデザインの違いなのかも」とふと思うことがあるかもしれません。教えられなければ、そんなことは日常生活の中で気にも留めませんよね。
また、例えばコンビニの飲み物コーナーで、手前の商品を取るとズルズルズルと後ろの商品が前に出てくる、あの陳列の仕組み。お客さんが手に取りやすいように、店員さんが陳列の手間を省けるようにと気遣い、仕組みを考えた人がいるんだな、とふと気がつくかもしれない。すると、そんな気づきが、ゆくゆくは、そういうことを考えている人たちへの感謝の気持ちにもつながっていくように思うのです。
便利になるって、色んな意味で良い面も悪い面もありますが、そういう気遣いをしてくれている人がいるおかげで、私たちの生活は成り立っている。身の回りには、気遣いが溢れている。1日中そんなことを考えていたら疲れちゃいますけど(笑)、でもふと、そんな風に捉えたことがなかったことに対して「あれ、もしかして?」と思うことを繰り返していると、自然にデザイン的思考って育まれていくんですよね。
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。
文:脇谷美佳子
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