2023.01.03
2021.05.19
2021.10.28
「リーベ式運動あそび」の特徴のひとつは、イメージ(ごっこ)遊びを中心にしているところです。イメージ遊びにより、「できる」「できない」なんて気にすることなく自然体で動き出すことができます。例えば、自立式のフープを「クジラの口」に見立てて、お腹の中に入っていく「あそび」があります。
「今からフープ10本くぐっておいで」よりも「クジラさんお腹痛いらしいけど、どうしよう……」と語りかける方が、子供たちは「お腹のなか覗いてきてあげる!」と、自ら喜んで何度もフープをくぐります。さらに、フープの「くぐり方」や「くぐり抜けた回数」を気にするような、競う姿は見られません。
イメージ遊びにより、「上手にできなくても良い」「人と違った動きでも良い」という指導が自然にできるようになり、その結果、子供たちは自由に伸び伸びと動き出すことができるのです。自ら動き出せない子の多くは、「失敗したらどうしよう……」「みんなと違ったらどうしよう……」といった必要のない不安を抱えていますからね。
また、フープにぶつかり倒してしまった際、知らないフリをしてしまう子がいます。そんな時でも、「フープを直さなきゃダメだよ」と注意するのではなく、「クジラさん大丈夫かなぁ……」と語りかけるだけで、「助けなくっちゃ!」という子供自身の想いを引き出し、「フープを直す」動きを自ずと促すことも可能になります。
このように、「想像の世界」で遊ぶことによって、子供たちが自ら考え、行動する力がみるみる培われていくのです。
運動の技術面において成功した時だけではなく、それ以外の部分(仲間と関わろうとしている姿、イメージを膨らませている姿)も意図的に積極的に認める機会をつくっています。それにより、運動能力が高い・低いに関係なく、誰もが主役になることが可能になります。
例えば、2人組で手をつないだままフープを次々にくぐり抜けていくプログラムがあります。くぐり抜けたフープの数だけではなく、友達の動きをよく見ていたか、友達と手が離れないように意識していたか、友達の動きに合わせられていたか、などの視点も見ながら指導しています。
すると、「〇〇ちゃん、こっちおいで〜!」と友達に声を掛けていたり、友達にスッと手を差し伸べる、そんな素敵な姿にも出会います。
また、フープ(クジラの口)を倒してしまった場面でも、大人が直すのではなく、子供たちが自ら気付き、クジラとどう関わるのか? という視点で子供たちを見守りながら指導しています。すると、「クジラさん、大丈夫?」と声をかけながらフープを直してくれる子がいたり、まるで本物の生き物を扱うかのように丁寧に、フープを直してくれる素敵な姿にも出会います。
これらのように、フープをたくさんくぐり抜けた技術的に優れていた2人組だけではなく、友達を意識できていた2人組、イメージを膨らませていた2人組も認めることが可能になります。指導者の「子供を認める視点の数」によって、自信を持つことができる子供たちの数は、ぐっと多くなっていくのです。
わたくし調べですが(笑)、子供が運動あそびの時間において、楽しいと感じた理由NO1が、「いっぱい動いたから!」です。基本、子供って動きたい欲求の塊ですもんね。
しかし、一般的な幼児体育の指導風景を見ていて思うのは、順番待ちをさせている時間があまりにも長すぎることです。順番待ちをしている子供たちは集中が切れて、先生も注意したり、怒ることが必然的に多くなります。これでは子供にとっても、先生にとっても苦しい時間になってしまいます(先生も怒りたくって怒っているわけではないはず……)。一方、「リーベ式運動あそび」では、子供たちは動き続けます。子供たち全員が、ワクワクしながら動き続けられる工夫をしています。
幼児期には、順番待ちをさせてまで鉄棒や跳び箱の上達を目指す必要なんてないのです。そもそも運動の時間に、順番待ちをしていて育つことって……? それに、跳び箱や鉄棒のように「大人がサポートをして上達させる」という考え方も必要ありません。
跳び箱や鉄棒、それに前転などのマット運動における技術習得は、小学校3、4年生の体育カリキュラムで経験するもので、先取りする必要なんてないのです。幼児期にできなくてよいことを無理して取り組ませるよりも、「今、子供ができることを活用して、どうやって楽しく遊ぶか」に意識を向けるほうが大切です。
ちなみに、これまたわたくし調べですが(笑)、今できることを様々な形で楽しく繰り返していると、いつの間にか「できること」も増えていくものです。「ハイハイ」をしている赤ちゃんに、無理して「歩行」を先取りさせる必要はなく、今できる「ハイハイ」をたっぷり楽しく経験することが、のちの「歩行」の基盤作りになることと同様です。
これまでリーベ式運動あそびの3つの特徴を簡単ですがご紹介しました。これらは、「子供たちを楽しませる」という目的で独自に生み出した要素に間違いはないのですが、実はそれ以上に「大人の心情を自然と良いものにする」という目的でもあります。
できない子を「できる」ようにさせなければならない苦しさ。できないことで、自信を失い消極的になる子供たちを見る苦しさ。怒りたくなんて無いけれど、怒らないといけない苦しさ。外部指導による幼児体育の現場において、担任の先生たちが苦しそうな場面を幾度となく見てきました。
そして、そのような先生たちの「負の心情」を生み出しているのは、「子供ができないことを大人がサポートしてできるようにする」という幼児体育の「在り方」だと個人的に感じています。
そんな幼児体育を根本から変えたいと、信念を持ってプログラムの開発に取り組み、生まれたのが、今回ご紹介した「遊びに大切な要素3つ」が詰まったリーベ式運動あそびです。子供たちが「今できること」を活用した誰もが笑顔で自ら動き出せるプログラムだからこそ先生たちは、指示や注意、叱る場面が自然と無くなり、安心して子供たちと共に「楽しい時間」を味わうことができます。
私は、現場での運動あそびの時間が、子供たちは当然のことながら、先生たちにとっても、いかに有意義かつ楽しい時間になるかにこだわっています。なぜなら、子供に関わる大人の「心情」こそ、子供たちを楽しませる一番の仕掛けだからです。
大人も子供も響き合って育ち合う「響育」の考え方で重要なのは、大人と子供、互いの気持ち(心情)が通い合っていることです。そして私の使命は、リーベ式運動あそびを通じて、大人の「心情」を自然と良いものにすることだと思っています。
阪田 隼也(アフロコーチ)
株式会社リーベ 代表取締役
大学卒業後、小中学校にて、保健体育科講師として勤務。その際、運動が嫌い、遊ばない子供を見て、就学前の体づくりの在り方に疑問を持ち、運動あそびプログラム「リーベ式運動あそび」を開発。全国の幼稚園・保育園で指導を行う。
FQ Kids VOL.08(2021年秋号)より転載
編集部のオススメ記事
連載記事
#今話題のタグ