2024.08.21
2022.09.02
2021.09.25
もうランドセルの注文も終えて、来年春の入学式が待ち遠しい……なんて暢気なことを言っていられないのが親心。教室でちゃんと座っていられるかな? など、不安は尽きません。いわゆる小1プロブレムですね。
実は私は、小1でランドセルを買う必要も、全員前を向いて決まった席で勉強する必要もないと思っています。カバンは軽くて使いやすいものがいいし、好きな場所に座り、好きな姿勢で話を聞いても、学ぶことができるからです。
例えばオーストラリアの公立小学校では決まった席を作らず、机も全部前を向いて並べられてはいません。教科によっては、異なる学年の子供たちが同じクラスで授業を受けます。日本の教室を見慣れているとびっくりの、ゆるゆるのびのびした環境ですが、高校生にもなると図書館で真面目に勉強しています。
当たり前ですが、小1で決められた席に座って授業を受ける訓練をしなければ、じっと座っていることができなくなるわけではないのです。大人になってからオフィスで床に寝っ転がってしまうなんてこともありません(寝転びOKのオフィスもあるかもしれないけど!)。
「うちの子が小学校に適応できなかったらどうしよう」と心配になったら、ちょっと視点を変えて、本当は何が不安なのかな? と考えてみるといいかも。
わが子がダメな子のレッテルを貼られてしまったら。周りに迷惑をかけていじめられたら。親として恥ずかしい。先生に呼び出されたくない。ちゃんと勉強する習慣がつかなかったら困る……など、不安の理由は色々ありそうですね。
日本の学校は学力をつけるだけでなく、極めて同調圧力の高い社会に順応するための訓練の場でもあります。そこからはみ出すのが怖い、というのが親の不安の本当の理由かもしれません。
実は、私がオーストラリアで子育てをしようと思った理由の1つは、その同調圧力に順応する能力がこれからの時代にはあまりプラスには働かないのではないかと思ったのと、息子たちにはそうではないタイプの教育の方が合っているのではないかと思ったからです。
もちろん、日本の教育はとても質が高く、子供たちの優秀さは世界でもトップレベルです。合っている子にとっては素晴らしい環境です。でも、合っていない子が「ダメな子」かと言ったら、そうとは言えないと思います。
もし、お子さんが小学校に上手く馴染めなくても焦らず、新しい環境に慣れるのに時間がかかるのかな? とか、こうではないタイプの教育が合っているのかな? と考えてみてはどうでしょう。
解剖学者の養老孟司さんは、子供を育てるのは「手入れ」だとおっしゃいました。手入れとは、人間が自然に手を加え、様子を見ては修正し……の繰り返しで、自然環境と人間の暮らしがちょうど調和する点を見出していくこと。
里山などはそうやって時間をかけて作り上げられたものです。山を田んぼにし、稲を植える。台風でやられたら工夫をし、日照りが起きたらまた工夫をし、自然との対話を通じて働きかけ続けることが「育てる」ということなのですね。子供は自然そのものなのだから、同じだよということでしょう。一方的にこちらのやり方を押し付けても、上手くいかない。
わが子が小学校生活に適応できなかったら、その都度理由を考えて対処し、違ったらまた他のやり方を試し、ということの繰り返しの中で、子供の話をよく聞き、先生とも話しながら一緒に考えればいいのではないかと思います。もしそれで「この環境じゃない」と思ったなら、別の場所に移ることも考えてみるのもありです。
息子たちは、小6と小3からオーストラリアの学校に通いましたが、たまたま性に合っていました。もちろん、あの先生きらーいなんてこともありましたよ。皆さんもこれまでに出会った先生の中で、大好きだったのは数人でしょう。そんなものです。
ただ、全体としてはのびのびしていたので、結果として学力も伸びました。大学生になった長男は最近、教育に関する講義をとって色々学ぶうちに、なぜ自分にはオーストラリアの教育の方が合っていたのかがわかるようになったそうです。
繰り返しになりますが、日本の教育はダメで外国が良い、という単純な話ではありません。そもそもこの世に、完璧な教育はありません。肝心なのは子供が知らなかったことを知るのは楽しい、生きるのは楽しい! と思える環境に出会うこと。
もし小学校にすぐに馴染めなくても、そこに順応しなければ人生おしまいとうわけではないので、どうか安心してください。上手くいかないときは、わが子の個性を知るチャンスかも。子供は、自分が歓迎されていて、ちゃんと居場所があると思えれば、心身の発達に伴って自ら考えて行動できるようになっていきます。
今、全国各地で理不尽な校則の見直しが進んでいるそうです。生徒たちの声がきっかけになることもあるとか。日本ではあまり子供の権利について語られませんが、親は子供を学校に合わせることに注力するのではなく、学校をより子供たちの健全な成長に合ったものにする働きかけをすることが、大切ですね。
小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。
Twitter:@account_kkojima
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公式サイト:アップルクロス
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