専門家が解説! 子育て家庭の「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を高める方法

専門家が解説! 子育て家庭の「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を高める方法
物質的な豊かさから精神的な豊かさを求める時代へと移行しつつあるが、住宅購入や教育費など、子育て世代にはお金が必要なイベントが次々待ち受けている。近年注目される「ファイナンシャル・ウェルビーイング」について専門家に聞いた。

<目次>
1.人生のライフイベントを把握し、お金の準備ができている状態へ
2.お金のリテラシーが高い人ほど仕事に生きがいを見出している
3.ヒト、モノ、お金の3つを柱にマネープランを立てよう
4.ファイナンシャル・ウェルビーイングを向上する4つのプロセス
 ①学ぶ:金融リテラシーを高めよう
 ②把握&プラン設計:収入・支出・資産・負債を把握しライフプラン、マネープランを立てる
 ③相談:悩みに合わせてプロの意見を聞きにいこう
 ④行動:先取り貯蓄や投資、各種ローンや保険を活用しよう
5.夫婦を「共同経営者」として価値観の擦り合わせを!

 

教えてくれた人

三井住友トラスト・資産のミライ研究所
人生100年時代、1人ひとりが将来を安心して過ごすための資産形成・資産活用のあり方について調査・研究している研究所。取引先企業の従業員や個人客に対して、セミナーや研修を通じて資産形成・資産活用についての情報発信と啓発を行なっている。また小学生以上を対象に、お金の役割や貯蓄方法など、「金融教育」の出張授業も実施している。

人生のライフイベントを把握し
お金の準備ができている状態へ

「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」を指すアメリカ発の概念だ。

現在の収支がコントロールできていることはもちろん、長い人生において節目となるイベントを把握し、それに対してお金の見通しが立っている状態を意味する。

「ファイナンシャル・ウェルビーイングが高いと、幸福度(ウェルビーイング)も高まるといわれています。

表1のウェルビーイングに関する調査の結果では、現在と5年後の生活、それぞれのウェルビーイングへの影響要因のトップは、『所得に対する主観的感情』、すなわち『自分が今の所得に対して満足しているかどうか』となっています。

表1
ウェルビーイングに関する意識調査

*注:これらの指標は、P値0.05以下であり、統計的に主観的ウェルビーイングの影響要因としての重要性が低い。本ランキングは2023 年ギャラップ社が日経のためにDatewrapperで作成
出典:日本版 Well-being Initiative(日本経済新聞社が公益財団法人Well-being for Planet Earth、有志の企業や有識者・団体等と連携して発足した団体)

逆に『客観的な所得』、つまり『実際の所得金額』は12、13位と低めです。所得の金額がいくらというより、生活をしていく上で『所得に主観的に満足しているか』が幸福を感じる根本となっているのです」と資産のミライ研究所(以下、ミライ研)の矢野礼菜氏は説明する。

お金のリテラシーが高い人ほど
仕事に生きがいを見出している

続いて図1、「金融リテラシー度と働く目的についての調査」でも、「金融リテラシー度」が良好なほど、「お金を得るために働く」との回答が減少し、「生きがいを見つけるために働く」という回答が多い。この傾向はどの年収区分でも同様だ。

図1 金融リテラシー度と働く目的についての調査

出典:三井住友トラスト・資産のミライ研究所「金融リテラシー度とファイナンシャルウェルビーイングに関する実態調査」(2023年) より令和の“金融リテラシー”事情

つまり、お金の知識を備え、計画的に関われている人ほど、仕事に『収入を得る手段』という役割だけでなく、生きがいや意義を見出しているということだ。矢野氏は、「私達はその要因を、お金の見通しが立っている=自分の人生に主体的に向き合えるからだと分析しています」と語る。

ではファイナンシャル・ウェルビーイングを高めるにはどうすればいいのか。大切なのはまず、「自分はどんな人生を送りたいか」というライフプランを立てることだ

そして、それに対応する「マネープラン」を考える。マネープランとはすなわち「お金の準備のための計画や資産形成をしていく」ということ。この際に柱となるのが、ヒト、モノ、お金の3つの要素である。(図2参照)

図2 ヒト・モノ・お金を柱にしたマネープランの考え方

出典:三井住友トラスト・資産のミライ研究所

ヒト、モノ、お金の3つを柱に
マネープランを立てよう

「ヒトは、子どもの教育資金、自分たちの老後の生活費など、家族の1人ひとりのライフイベントに沿って、必要な費用と時期を考えます。モノは、家や車など大きな買い物です。何が必要かと、それを手に入れるために必要な費用と時期を考えます。

そして、最後にお金。つまり、ヒト、モノの計画に必要なお金を、貯蓄、投資、ローンなどの活用も含めて、準備する方法を考えるのです」。

人生の計画を立てる→それに伴っていつ、どれぐらいお金が必要となるかをヒト、モノ、お金を柱に考える。このステップが、ファイナンシャル・ウェルビーイングにつながるということだ。次に、より具体的な4つのプロセスについて解説する。

ファイナンシャル・ウェルビーイングを向上する4つのプロセス

ファイナンシャル・ウェルビーイングを高めるためには、以下の「4つのプロセス」をぐるぐる回しながら、資産形成に取り組むことが重要だ。やみくもにお金を稼いだり貯めようとするのではなく、自分や家族がどう生きたいか、どうあれば幸せかを考えて、それに必要な資産を計画的に形成していこう。

1 学ぶ
金融リテラシーを高めよう

ライフプラン、マネープランの立て方や、さまざまな金融商品について学ぼう。書籍やセミナーをはじめ、最近はWEBコラム、YouTubeなどでも多くの情報が発信されている。ただし、情報の精度はさまざまで、中には真偽の怪しいものや情報に偏りがあるものも。

最初の一歩としておすすめなのは、金融庁の発信している情報や、金融広報中央委員会のWEBサイト『知るぽると』など公的機関の情報だ。

また、ミライ研をはじめとするさまざまな金融機関の研究機関も、中立的な立場から客観的なデータを発信しているので参考にしたい。

2 把握&プラン設計
収入・支出・資産・負債を把握し
ライフプラン、マネープランを立てる

まずは自分の資産、足元の家計状況を把握し、次に将来のライフプラン、マネープランを考えよう。

把握の際に注意したいのが、共働きなどで収入元が2つ以上ある場合。夫婦の収入・支出がお互いにブラックボックス化していると、世帯単位のマネープランが立てにくい。将来のためにもしっかり話し合い、給与の額面だけでなく、差し引かれる社会保険料や税金、手取り、月々の家賃や食費まで見える化していこう。

このときおすすめなのが、らくちんな家計簿アプリ。最近は銀行口座などを紐づけ、自動的に支出ジャンルを振り分けてくれるものもあるので、積極的に活用したい。加えて、不動産や貯金などの資産、奨学金や住宅ローンなどの負債もチェックを。ライフプラン、マネープランの考え方は図3を参考に考えていこう。

図3 ライフプラン、マネープランの考え方

出典:三井住友トラスト・資産のミライ研究所

把握するもの

● 収入…家族の給与、差し引かれる金額、手取り
● 支出…家賃、食費、被服費などすべての支出
● 資産…不動産、貯金、年金など、お金とお金に換えられるものすべて
● 負債…奨学金、ローンなど支払わなければいけないものすべて

3 相談
悩みに合わせて
プロの意見を聞きにいこう

家計を把握してライフプラン、マネープランを策定していくと、資産形成についての悩みや疑問が生じてくる。そこで活用したいのがプロの知見やプランニングだ。

金融機関、保険代理店、ファイナンシャル・プランナーなどさまざまな相談窓口がある。窓口によって特徴が異なるので、相談前にある程度知識を持っておき、「自分の悩みがどの窓口、どの商品だったら解決できそうか」を考えてから相談先を選ぶことがおすすめだ。

相談相手

●金融機関
無料相談ができる、投資信託や積立投資などを活用したプランニングが得意
●保険代理店
無料相談ができる、生命保険や学資保険などを活用したプランニングが得意 
●個人ファイナンシャル・プランナー
特定の商品に紐づかずフラットに相談できる、具体的な商品に紐づかない分、相談自体が有料となる

4 行動
先取り貯蓄や投資、
各種ローンや保険を活用しよう

ライフイベントに合わせて、「お金」を準備するために行動しよう。貯蓄にあたってまず知っておきたいのは、「先取り貯蓄」の考え方。使って残った分を貯蓄するのではなく、あらかじめ一定額を貯蓄してから、残りでやりくりするというスタイルだ。

次に、金融商品の活用を考えよう。さまざまな商品があるが、マネープランを踏まえた投資の基本は「分散投資」と「長期投資」

大きくもうけようとするのではなく、時間を味方につけて、コツコツ安定的な運用をしていく投資だ。投資先をさまざまなところへ分散させたり、長期運用型の商品を選択することで、総合的にリスクを低減しやすい。

また、「ヒト」「モノ」の準備にはローンや保険の活用も考えよう。住宅など高額なモノの準備には、計画的なローンが有効。学資保険、生命保険など、万が一にも備えることのできる保険も選択肢に含まれる。

図4 先取り貯蓄の考え方

出典:三井住友トラスト・資産のミライ研究所

お金の準備方法

● 先取り貯蓄
● 投資
● 各種ローン
● 学資保険・生命保険

夫婦を「共同経営者」として
価値観の擦り合わせを!

お金の計画をするにあたっては、家族を会社と考え、「共同経営者」になったつもりで夫婦でお金の価値観を擦り合わせよう。

家計も会社経営と同じ。やみくもにキャッシュを稼ぐだけだと疲弊するし、金遣いが荒いのも困りもの。どういう経営方針なのか、まず価値観を2人で確認し、どんな喜びを得るためにお金を使っていくか、貯めていくのかを考えて工夫しよう。

また、家族の状況は刻々と変わるので、定期的に見直しが必要。スパンは家計の傾向が把握しやすく、行動も考えやすい「年に1回」くらいがおすすめ。お金の話をきっかけに、家族のウェルビーイングの目指し方を話し合えたら理想だ。

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文:笹間聖子

FQ Kids VOL.18(2024年春号)より転載

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