2022.11.04
2023.06.30
2023.09.29
©Sony Computer Science Laboratories, Inc. / Synecoculture Association
「シネコポータル」とは、いろいろな植物や生物が集まる場所を人の手でつくり、まわりの環境ともつながって、さまざまな生物が関わり合う様子を観察できる「小さな生態系」だ。
ソニーの教育プログラム「CurioStep with Sony(キュリオステップ)」では、2022年度からこのシネコポータルを活用したワークショップを各地の小学校で行っている。
一般的に、畑では一種類の特定した作物を育てる。たとえばトマトはトマト畑に、ぶどうはぶどう園でつくられる。
人間にとっては慣れ親しんだ光景かもしれないが、それは本来の自然にはない特殊な環境だ。ひとつの作物を効率よく大量につくれる一方で、環境破壊の要因にもなり、生物の多様性を損なうという面もある。
自然の森や林では、ひとつの植物だけが成長するということはない。さまざまな植物が育ち、枯れ、枯れたものは「肥料分」となったり、「空洞」をつくったりする。また、そこに鳥や虫や他の生物が集まって、葉っぱや実を食べ、代わりに花粉や種を運んだり、そのふんが養分になったりする。
多様な生物が相互に関わり合うことで、生態系がバランスよく循環していくのだ。
©Sony Computer Science Laboratories, Inc. / Synecoculture Association
そこで、このような生態系を小規模につくってみよう、というのが「シネコポータル」だ。
その土台には、人間が生態系に適切に関わることで、それを破壊するのではなく、その多様性や機能性を拡張することができるという考え方がある。これを「生態系の拡張原理」といい、ソニーコンピュータサイエンス研究所 研究員の舩橋真俊さんが2010年から研究を進めてきた生態系や農法の研究に基づいている。
なおポータルは「入口」という意味で、シネコポータルが自然や生態系を意識するきっかけになってほしいという願いが込められている。
では、シネコポータルはどうやってつくるのだろうか。
シネコポータルに正解はなく、その過程でさまざまなことを行うが、ここでは使える地面がある場合の基本的な方法を紹介する。
果樹の周囲に雑草をはじめ、植えていないさまざまな植物が育つが、植物は互いに場所を譲り合い、自然とバランスがとれていく。特定の種類だけ増えすぎたり、大きくなりすぎたらハサミで適宜散髪する。作物ができれば収穫するが、収穫が終わったからといって耕したリ、途中で肥料をやったりせず、自然の営みを尊重する。
シネコポータルをつくって体験するのに、広い場所は必要ない。学校でも家庭でも、花壇やプランターを使えば実践できる。わかりやすいハンドブックもあるので、興味のある方はぜひそちらを参考にしてほしい。
©Sony Computer Science Laboratories, Inc. / Synecoculture Association
小学校では朝顔の種を植えて育てるのが定番だが、鉢に朝顔だけを植えて育てても、生物多様性や生態系の循環について学ぶことは難しい。
そこで、小さな場所で多様な植物を育てるシネコポータルを体験することは、植物の成長を取り巻く環境や多様な生物との関係を観察でき、生態系について考えるきっかけづくりにもなる。
自分たちが住む地球の環境をより良くするためにどうしたらいいのかは、未来を担う子どもたちにこそ学んでほしいテーマだ。
しかし、自然環境、生態系といったテーマは、子どもたちにとっては壮大すぎて、知識だけではなかなか実感しにくいだろう。
シネコポータルは、生物多様性という大きなテーマを身近に体験するのにぴったりの教育ツールだといえる。
2022年度の「シネコポータル・ワークショップ」参加校の様子
シネコポータル・ワークショップは、全国の小学生に半年間シネコポータルづくりに挑戦してもらう取組みだ。
2023年度は以下のように、全3回のオンライン共有会と、1回の出張授業でワークショップが構成されている。
第1回 | シネコポータルをつくろう |
第2回 | 発見をシェアしよう 各学校と観察記録を共有 |
出張授業 | 仮説を立てて秋植えをしよう |
第3回 | 仮説を検証しよう |
子どもたちは、いろいろな植物や生物を観察したり、収穫した作物を食べる体験をしたり、発見したことを他のシネコポータル・ワークショップを行っている小学校と共有したりする。
今回は、その1つの小学校で行われたワークショップを取材してみた。
シネコポータルで学び中!
横浜市立立野小学校「出張授業」をレポート
9月1日、シネコポータルの学びを実際に行っている学校のひとつ「横浜市立立野小学校」に、シネコポータル・ワークショップのナビゲーターである福田さんが来訪し、出張授業を行った。
最初に福田さんと共に、シネコポータルをみんなで見学。福田さんは生徒たちの報告を聞きながら、問い返したり、感想を述べたりして、この後「秋植え」をすることについても触れた。
教室に戻ってからは、本格的な質問タイムに。
さらに福田さんが持参した植物の標本や種を観察し、どのように秋植えをすればよいか仮説を立てる作戦会議も行った。
実体験しながら「生態系を意識する」ことを学ぶのがシネコポータルの目指すところ。
育っていく植物や集まる虫を観察しながら、子どもたちは、葉っぱを食べてしまう虫がまた別の虫に食べられる様子や、枯れた植物が土に戻って良い土壌になり、作物を育ててくれるといった様子を自分の目で見ながら、生態系の循環を実感する。
「多様なものが存在し、互いの存在を支え合っていること」を体験することで、本当の意味での多様性も、子どもたちは理解していくのではないだろうか。
「人間は、破壊するのと同時以上に、自然を構築することもできる存在である。(中略)誰でも、どこでも、地球に生きる一員として、表土と生態系の豊かさに貢献する生き方を取り戻して欲しい。」
シネコポータルのハンドブックにあるメッセージだ。シネコポータルは学校だけでなく、プランターひとつから自宅でも始められる。親子で小さなポータルをつくり、私たちが生きる地球と環境について語り合えたら、きっと素晴らしい体験になるだろう。ぜひ親子でチャレンジしてみてほしい。
▶参考:協生農法実践マニュアル
シネコポータル/ソニーCSL
写真:FQ Kids編集部
文:大橋礼
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