2022.01.11
2023.10.13
2023.10.13
前野マドカさん
EVOL株式会社代表取締役CEO。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所研究員。夫で幸福学研究の第一人者である慶應義塾大学大学院前野隆司教授とともに幸福学を研究し、幸せを広めるワークショップ、コンサルティングなどを行う。著書に「しなやかで強い子になる4つの心の育て方」(あさ出版2022年)など。
つかみどころがないと思われていた「幸せ」だが、実は心が幸せを感じる要因がわずか4つの「もと」からなるという研究結果がある。
「私の夫で慶應義塾大学大学院教授の前野隆司が日本人約1500人を調査し因子分析という手法で分析した結果、幸せ4つの因子というものを導き出しました。簡単に言うと、赤青黄の三原色ですべての色が作れるように、すべての幸福も4つの要素でできているという理論です。
それは『やってみよう』『ありがとう』『なんとかなる』『ありのままに』で、私は説明するときにわかりやすく4つの心と置き換えています。これらの心を持つ人は強い幸福を感じ、しかもこれは日々の習慣や動作などのトレーニングで獲得できるのです」。
4つの因子(心)は相互作用するので、均衡がとれている方が幸福度も高いが、国民性によっても得意な心に違いが出るという。
例えば「ありのまま」でいることが当たり前すぎて意識すらしない欧米人に対し、日本人は調和を重んじる国民性。「なんとかなる」「ありのままに」が苦手で「ありがとう」が得意という傾向がある。自分の苦手を強化することで幸福度を上げることができるので、ぜひ幸福度をチェックしてみよう。
“ありのまま”だけではわがままに!?
幸福度と幸せ4因子のバランス関係
4つの因子(心)は、バランスよくそろうと幸福度が増す。例えば「ありがとう因子」は他者に感謝することでオキシトシンやセロトニンといった愛情ホルモンが出て幸せな気持ちになれる。しかしそれだけだと自己実現や成長という点では不十分なので、ドーパミンの出るようなやりがい・達成感が同時に必要になる。
また、「ありのままに因子」は突出するとただのわがまま人間にもなり得るが、「ありがとう因子」と影響し合うことで幸せの要因になれるというように、相互作用が大切なのだ。
第1因子「やってみよう」
自己実現と成長の因子。夢を実現させるために学んだり、自分自身の成長を感じられることで幸福度が高まる。
第2因子「ありがとう」
つながりと感謝の因子。人を喜ばせたり、愛情を感じたり、感謝するなど他者とのつながりに幸せを感じる。
第3因子「なんとかなる」
前向きと楽観の因子。これがあると自己受容が高まり、失敗や不安を引きずらなくなる。
第4因子「ありのままに」
独立と自分らしさの因子。他人との比較でなく自分らしくいられる人は幸せを感じやすい。
親としてわが子を幸せにしたい、幸福な人生を歩んでほしいと考えることは当然だろう。だが逆に、親であるあなたは幸せを感じているだろうか。
「子どもが毎日幸せを感じるためには、親自身が幸せを感じる必要があるのです。まずトライしてほしいのは、自分がどんなときに幸せを感じるのかを知ること。それは自分の感情をコントロールすることにも役立ちます」。(前野さん)
幸福度を科学的に測定することで、今自分がどのくらい幸せなのかを知ることができる。幸福を多面的に測ることができるチェック項目を使い、自分の幸せをより明確に理解しよう。
→自分の得意&苦手な因子を知ったら“幸せ習慣”で伸ばしてあげよう!
STEP3で親が自分に足りない幸せ因子がわかったが、それは少しの習慣で変えることができる。ちょっとした言動や子どもへの接し方など、日々の習慣の多くが非認知能力にもつながっている。繰り返すことでわが子の「自分軸」が形成され、親子のウェルビーイングが高まっていくだろう。
●子どもが失敗したときの声掛けは「ナイスチャレンジ!」(向上心・失敗から学ぶ力)
●友達とケンカしたときは言い分をじっくり聞く(問題解決力)
●選択に迷ったときのアドバイスは「ワクワクする方へ」(主体性)
小さなことでも構わないので「主体的にやりワクワク」できる夢や目標、やりがいを持ったり、何かを成し遂げる成功体験を味わうことが幸福感をもたらす。チャレンジには失敗がつきものなので、親は「失敗してもやり直せばいい」「子どもの主体性を大切にする」「先回りして準備しない」ことを意識しよう。
自分がワクワクすることがあると子どもは没頭し、選択した結果にも責任が持てるようになる。
●子どもからの「大好き」には「大好き」で返す(自分を信じる力)
●人から褒められたら「ありがとう」と受け止める(自己有用感)
●人のためになるものは親が行動して見せる(思いやり)
「私は愛されている」と子どもが実感できるように、言葉や態度で示そう。自己有用感はありがとう因子を育む重要なキーポイント。親自身が誰かに褒められたり、わが子を褒められたりした場面では謙遜は不要。受け入れて感謝の気持ちを示すことが子どもの感謝の気持ちも育てる。
また、「思いやり」、つまり人のために行動し喜ばれることで人は幸せを感じやすいので、親が率先して電車で席を譲るなどの利他的な行動を見せるようにしよう。
●良い結果が出たらプロセスも褒める(自己受容)
●子どもの「開花」はひたすら信じて待つ(親子の信頼関係)
●失敗して落ち込んでいるときはただじっくりと話を聞く(失敗から学ぶ力)
楽観的で前向きであると、ウェルビーイングのために重要な「自己受容」が高まる。子どもが自分の良い部分も悪い部分も受け入れられること、子どもが親を「良い結果が出なくても受け入れてくれる存在」と感じることで挑戦する心が育つ。
また、できないことではなくできることに目を向けて褒めることも大切。「靴をそろえてえらいね」でなく「靴をそろえてくれたから玄関がきれいだよ、ありがとう」など、表面的でなく理由を伝える習慣を。
●「今日嬉しかったこと」を寝る前に5分間話す(やる気)
●親子2人だけの時間をつくる(親子の信頼関係)
●固定観念にとらわれず子どもの「好き」に寄り添う(探求心)
他人と自分を比較することなく自分らしくいられる人はウェルビーイングが高い。子どもも年齢が上がるごとに他者との関係の中で色んな悩みや不安を抱えていくので、親は子どもが感情を表現しやすいような環境づくりを心がけよう。
嬉しいことを考えたり、好きなことに没頭したり、親がひたすら子どもの話を傾聴する時間は、感情を放出することのトレーニングになる。
文:松永敦子
FQ Kids VOL.14(2023年春号)より転載
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