2021.06.07
2022.04.04
2023.06.02
阪田隼也さん
株式会社リーベ代表。小中学校で保健体育科講師をする中で運動嫌いな遊ばない子どもの多さに気づき、就学前の身体づくりのあり方に疑問を持つ。その後、幼児の運動プログラム「リーベ式運動あそび」を開発し、100を超える全国の幼稚園・保育園で指導を行う。通称“アフロコーチ”。
近年、子どもの姿勢の悪化が広がっていると言われている。食事や遊びの中で机に肘をついたり、立膝をしたりする子に、親としてなんと注意をするだろうか。恐らく多くの親が「行儀が悪い!」と叱るのではないだろうか。
しかし「子どもの姿勢の悪さの大部分はやる気や行儀の問題ではない」と教えてくれたのは、幼児の運動プログラム「リーベ式運動あそび」を開発した阪田隼也さん。
「姿勢が悪く、集中力を欠いた状態になってしまうのは、その子が怠けているからではなく、まだ“姿勢を保持する身体づくり”ができていないからです。それを知らずに大人が“行儀”という精神的な目線で注意をしても、その瞬間だけ姿勢がよくなってすぐに元に戻ってしまいます。
そしてまた叱られてしまえば子どもの自己肯定感は下がるばかり。本質的な解決にはならないので、どうやったら姿勢をキープできるのかということに目線を向けて欲しいと思います」。
つまり叱るという短期的なアプローチではなく、身体づくりという長期的なアプローチが必要ということだが、具体的に何をしたらいいのだろうか。
「姿勢の悪さにはいくつか原因がありますが、その1つに正しい姿勢をキープするために必要な抗重力筋という筋肉を日常生活で使う機会の減少があります。この筋肉は特別なトレーニングをして手に入れるものではなく、子どもが子どもらしく遊んだり、笑ったり、歩いたりする中で自然と培われていくものです。
まずは大人がそれに気づき、身体を動かす場面を増やすこと。そしてそれを大人も一緒に楽しもうとする姿勢こそが子どもの意欲を引き出し、成長に繋がっていきます」。
●食事中に立ち歩く
●姿勢が悪い
●落ち着きがない
●膝を立てて座る
●常に頬杖をつく
●集中力がない
⇒でも「行儀が悪い!」「姿勢を直しなさい!」こんな声がけはNG
抗重力筋の未発達
背中・腹部・お尻・太もも・ふくらはぎなどにある筋肉で、地球の重力に対して姿勢を保持するために働く。立っているだけ、座っているだけでも常にいずれかの抗重力筋が働いているので、これが発達していないと猫背になったりお腹が突き出たりなどの悪姿勢を招く。
自律神経の不調
↑現代っ子に足りないのはこっち!
交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランスが乱れると、やる気がなくなり、集中力が持続しない状態に。現代は快適な住環境や必要以上の厚着などにより程よい緊張や刺激すら感じることが減り、交感神経が優位になりにくいことも不調の一因と言われている。
前庭覚の未発達
平衡感覚などとも呼ばれ、主に姿勢の安定に関わる感覚。回転、揺れ、傾き、重力、スピードなどに対してバランスを保つために重要な感覚で、前庭覚が養われていないと自分の身体がどのような状態であるかを把握できず姿勢が崩れていることに気づけない。
⇒これらの、“身体を制御・姿勢を維持する力”を養うためには幼児期からの身体づくりが重要!
ここでは、子どもの姿勢維持のために知っておきたい知識や暮らしの中で取り入れやすい生活行動のヒントを紹介。考え方や接し方を少し変えるだけでも、効果はきっと表れるだろう。
身体づくりのチャンスを見逃さないで!
子どもの動き1つ1つはすべて「何かを獲得するため」の運動であり、身体づくりに自然と繋がっています。何気ない生活の中に身体づくりの機会がたくさんあるということ、そして実は親がその機会を見逃してしまっているかもしれないことに気づき、ちょっとだけ身体を動かすことを意識してみてください。
それが身体づくりの第一歩にして最も重要なことなのです。
日常生活でできる
姿勢維持のための3つのポイント
正しい姿勢の維持
筋力がつくことで、重心がまっすぐになった正しい姿勢を作ることができ、さらにそれをキープする力がつく。結果として集中力が増す、我慢強くなる、意欲の向上などの好影響が出てくる。
土踏まずの形成
歩いたり登ったりする動作や、裸足や草履などの足指への刺激が土踏まずを形成していく。足裏のアーチがしっかり作られることで、体重を支えられたり、立ち姿勢のバランスが取れるように。
自律神経の調和
心身の機能をコントロールする自律神経。不足しがちな運動を日常的に行うことで交感神経(刺激)と副交感神経(緩和)のバランスが取れていき、心身共に健全な状態に近づく。
便利なものに頼りすぎない
ベビーカーや紙おむつなどの育児グッズや、タブレットなどの現代的ツール、デリバリーなどの便利なサービス。すべて生活を豊かにするものだが、子どもの身体づくりにおいては注意も必要だ。
例えば歩ける子をベビーカーに乗せ続けたりデリバリーにばかり頼ると「買い物に行く」という運動が減る。快適な紙おむつも感覚を育てることには不向きで、長時間のタブレット使用は姿勢の悪化も心配だ。便利を手放す必要はないが、使用ルールを決めるなど賢く使うことが大切。
生活効率を優先しすぎない
仕事、家事、育児……。忙しい子育て世代はとにかく時間がない。朝の忙しい時間に子どもの靴を履かせてあげたり、「歩くと寄り道が長くなるから」と少しの距離でも歩かず車移動にしたりすることもあるだろう。
もちろん生活を回すためには効率は大事だが、歩いたり身体を動かしたりする機会をゼロにしないよう意識をしてみてほしい。例えば「子どもが靴を履く時間をできる限り待つ」「朝は車で保育園に行くけど帰りは歩く」など、ちょっとの意識で身体を使う場面は増やせる。
危険を恐れすぎない
遊びや生活など日常のあらゆる場面で、子どもを心配するあまりに親が先回りして手を出してしまうのはよくある光景だ。ただ、子どもは高い場所に登って降りられなくなったり、冬に水たまりで遊んで寒くなったり……と失敗を繰り返すうちに自らの身体の使い方や危険の回避を覚えて成長していくので、その機会を大切にしてあげたい。
大人がすべきは手を出すことではなく、ケガや命の危険に繋がらないように近くで支えたり見守ってあげることなのだ。
着替えを最後まで自分でやらせる
袖を通す、頭を入れる、ズボンを履くという基本動作から、裏返しを直す、ボタンやファスナーなどの難しい動作まで、着替えでは多様な身体の使い方が必須だ。立って着替えることはバランス感覚の発達にも良いので、「つかまらずに着替えてみよう」などゲーム感覚で楽しもう。
親は着替え自体を手伝うのではなく、集中できるようテレビを消したり着脱しやすい服を用意したりと、別の角度からのサポートを。
雨の日は自分で傘を差して歩く
傘を持つには腕や手首などの筋肉や握力が、傘を真上に差し続けるには体幹の強さが必要。だから2~3歳の幼児には難しく、いつのまにか傘を引きずって歩いてしまうことも……。
子連れでの雨の日の外出は大変なので避けたい気持ちになりがちだが、それ自体が身体を使う運動にもなると考えてみたら気持ちも前向きになるかもしれない。その時の状況や距離に応じて、雨の日でも歩くことを選択肢に入れてみよう。
階段の昇り降りでも抱っこはガマン
子どもの階段の昇り降りは時間がかかる。3歳くらいまでの子ならひょいっと大人が抱き上げた方が安全で早いだろう。しかし昇り降りの動作は全身運動にぴったりなので、やらないのはもったいない。
1歳頃であれば四つん這いで昇ったり、降りるときは後ろ向きで降りたりと試行錯誤が見られるだろう。そのあとは親と手を繋ぐ、手すりを掴む、など体の成長と共に身体の使い方を学んでいくのだ。
掃除にも運動にもなる
一石二鳥の雑巾がけ
四つん這いで手足に力を入れてバランスを取りながら前に進む雑巾がけの動作は、最上級の抗重力筋トレーニングだ。とくに太ももなど下半身をよく使い、足の指で踏ん張る力が育つ。コツはしっかり前を向いてやること。首の筋力もつき、転倒したときに手も出やすい。
日常的な掃除の一環としてお手伝いにしたり、親子で一緒にやるのもいいが、競争などゲーム感覚にすると楽しさもアップする。
文:松永敦子
FQKids VOL.13(2023年冬号)より転載
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