AIに代えられない「発想力」を伸ばすには? 親子で身につけるデザイン的思考の習慣

AIに代えられない「発想力」を伸ばすには? 親子で身につけるデザイン的思考の習慣
今後10~20年の間で日本の労働人口の49%がAI(人工知能)やロボットなどで代替可能と言われている。いま子供たちに必要な習慣とは? グラフィックデザインの第一人者・佐藤卓さんに、そのヒントを伺った。

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AIと共に進化していく時代
人間に求められる能力とは?

AI時代は、AIか人間か? の二項対立の関係ではなく、むしろAIの進化によって、人の脳も進化し、思考が深化し、新しいアイデアがどんどん生まれてくる時代になると思っています。AIに「これ、どうかな?」と相談し、その後、人間が発展させていく方法もあるでしょう。

じゃあ、「人間ならではの能力って何?」と聞かれたら、私は「アイデアを出すこと」だと答えます。AIのアイデアレベルがどこまで進化するかは全くの未知数ですが、人間レベルになるまでには、まだ相当の時間がかかるのではないでしょうか。

人間の脳の中には、さまざまな情報が詰まっています。たくさんのバラバラな情報を繋げていくことで、今までになかった発想が生まれます。なので、常に「いろんなアイデアを考えられる状態にしておく」ことが大切な気がしています。

アイデアを出す習慣が
課題を解決できる力に

では「「いろんなアイデアを考えられる状態」とはどのような状態でしょう。課題を解決する方法は1つではありません。いくつもアイデアを考えてみることが大切です。

デザイン的な方法論をいうと、課題の解決方法は、形か、色か、線の有無か、線の形か、点か、言葉か、写真か、イラストか、など、あらゆるアプローチがあります。私たちデザイナーは、若い時は、考えて描いて、また考えて描いて……それを延々と繰り返します。

その訓練を積んでいくと、頭の中で100案、200案はあっという間に通り過ぎていき、いろんなアイデアを出せるようになっていきます。そしてその中から、どれが良いアイデアなのか、素早く取捨選択をし、たどり着くことができるようになるのです。

例えば、川を渡るならどんな方法があるか、ちょっと想像してみてください。橋を渡る、船で渡る、船を作って渡る、泳ぐ、動物に乗って渡る……。方法は多岐にわたります。

そして次に考えるのは、どうやったら安全に渡れるか? より早く渡るにはどうしたらいいか? スピード面、安全面、コスト面など、さまざまな条件下で考えたうえで、いろんな方法を想像してみます。つまりこれが「アイデアを出す」ということです。

いろんなアイデアを考える習慣をつけることは、将来に渡って、どんな場面においても非常に役に立つことです。AIでできることが今後ますます増えていきますが、いろんなアイデアを出せるようになることは、「人間が関与しないとできない仕事」に繋がると思っています。

気づかいを積み重ねる経験が
社会に役に立つ喜びを育む

人間に与えられた能力は、今後、AI時代に合った職能に進化していくことでしょう。30年前に考えられなかった仕事が今、生まれています。これから先、どんなに世の中が変わろうとも、「どうしてもあなたが必要なんです」と社会に求められる存在であるために大切なことがあります。それは、いろんな発想力でアイデアを出せる人間です。

そのためにも子供時代に、アイデアを出す習慣をつけることが大切です。子供は、アイデアを出すことを自然に、楽しく、面白がってやれると思うのです。それが習慣になれば、的確に、しかも良いアイデアに、素早くたどり着けるようになります。

そして、たくさん失敗することが大切です。子供のうちは、初めから失敗しそうなことを排除してしまわずに、とにかく「経験する」こと。デザイン的思考を訓練するなら、「ちょっとしたこと」を楽しむ感覚を重ねていくことです。

例えば、リビングのテーブルと椅子を斜めに配置してみる、タテヨコを逆にするなど、レイアウトを変えてみます。すると子供は「えっ? 何でこうしたの?」と、そこから親子の会話が始まります。

他にも、散乱しているオモチャや雑誌をきちんときれいに整えてみると、それ以前とそれ以降では、どう空間が違って見えるか? それによって人の行動や心理はどう変わったか? と考えるきっかけができますよね。さらに、自分が出したそのアイデアで、他の人が喜んでくれたり、感動してくれたりすることを体感できる。デザインの根本にあるのは、こういう「気づかい」なのです。

もし子供本人が発想したアイデアで、家族がすごく喜んでくれたら、それが子供の大きな喜びとなって返っていきます。そして、そのアイデアによって周りの人たちが幸せになったり、楽しくなったり、笑顔になったり、社会の役に立てることの喜びへと繋がっていきます。それこそが社会に求められる存在になるための訓練なのです。

CHECK!

ギンザ・グラフィック・ギャラリー第388回企画展
佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉
2022年6月30日(木)まで開催中!
HP:www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000787

PROFILE

佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。

PICK UP!

『マークの本』
佐藤 卓/著・文(紀伊國屋書店)¥2,750(税込)

自らが手掛けたシンボルマークやロゴの制作背景にある思考と技術を解説した、2022年5月発売の新刊。卓越した技術で細部まで磨き上げられた秀逸なマーク120点を、関連図版とともにオールカラーで収録。

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文:脇谷美佳子

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