子供の行儀の悪さは“体の状態”が原因!? 変えるべき大人の意識と体づくりの重要性

子供の行儀の悪さは“体の状態”が原因!? 変えるべき大人の意識と体づくりの重要性
運動遊びプログラム開発を行うアフロ先生が、たくさんの子供たちや保育関係者、保護者の方々と接する中で大切にしてきた言葉「大人と子供が響き合って、育ち合う」。その真意と「体づくりの必要性」とは?

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体づくりと
非認知能力の関係性とは

幼児教育業界で活動を始めてはや10年。経験を積み重ねつつ学びを深め、「体づくりこそ、人間のすべての活動を支える基盤づくり」であることを実感しています。これは「生きる力の育成」とも言い換えられます。ここでいう「生きる力」の主は、意欲、自制心、コミュニケーション能力といった非認知能力、さらには自己肯定感を指します。

なぜ体づくりが非認知能力や自己肯定感? と疑問を持たれる方も多いと思います。そこで今回は、体づくりと非認知能力、自己肯定感とのつながりについて解説していきたいと思います。

現在、食事や学習場面でよく目にする“姿勢を保持できない子供たち”。座位の場面にて、肘をつく、足を椅子にあげる、お尻の位置をずらして腰で座る、そんな姿が具体例として挙げられます。そのような姿の子は「ちゃんと座りなさい!」「行儀が悪い!」と、決まって大人に注意されます。

また、姿勢を保持できず、集中の持続が難しいため、注意散漫になり「食事中に立ち歩かないで!」「話を最後まで聞きなさい!」と、大人に注意されてしまいます。

このように、大人からの注意や叱責を受け続けると子供は意欲を失ってしまうだけではなく、「自分はダメなんだ……」と自己肯定感までも低下させてしまう恐れがあるのです。

さて、このようなケースにおける「子供が意欲を失ってしまったキッカケと原因」は何だと思われますか? キッカケは、子供の体の状態です。そして原因は、大人が子供の体の状態を“正しく捉えることができていない”故の声かけにあると考えます。

私自身がそのことに気づいた体験エピソードをお伝えすることにします。

体づくりによって
問題行動がなくなる?

当時、保育園に通っていた私の長男。その頃の長男と言えば、食事中はテーブルに肘をつき、足は膝を折り曲げて椅子の上……先に示した通りのまさに「姿勢を保持できない子供」でした。私はその姿を見るたびに「行儀が悪い!」と注意をしていました。

もちろん、注意された瞬間は戻るのですが、数分後にはまた行儀が悪くなる……の繰り返しでした。当時通っていた保育園の担任の先生にそんな長男の状況を相談すると、思わぬ言葉が返ってきました。「長男は問題じゃない、長男の体の状態が問題なだけ」と。

ハッとしました。当時の私は、恥ずかしながら長男の意識(大げさにいえば人格)の問題が、その姿を招いているのだと思っていました。しかしそうではないことを教えてもらったのです。

行儀が悪いのではなく、姿勢が崩れていた。長男の意識の問題ではなく、体の状態が問題だったのです。姿勢を保持できる体にさえなれば、行儀が悪いと周囲から注意されずに、息子にとっても、より楽しい食事時間になる。そう理解できてからは、日々、長男の体づくりを意識した生活に変わりました。

数年後、「大人の意識次第で子供の体が変わること」を実感できる結果が待っていました。もちろん、通っていた保育園での日頃の熱心な取り組みもあっての話ですが。もっとも重要なことは、子供の姿に対するわれわれ大人の「正しい理解」だったのです。

大人が、子供の「気になる姿」の原因を正しく理解すれば、子供への関わりの質は向上し、子供たちの不必要な意欲低下や自己肯定感の低下は食い止められます。食事中に立ち歩く子も、絵本の読み聞かせに集中して聞き続けられない子も、授業中に立ち歩く小学生も、もしかしたら、その原因は「子供たち自身の体」にあるのかもしれません。

体づくりは
日常生活の中にある

次に、なぜ子供たちの体はそのような状態になっているのか、についてです。

現代、コンピューターゲームやスマホの台頭による「遊びの変化」、空き地や広場といった「遊び場の減少」、放課後の習い事等による「遊び時間の減少」、少子化による「遊び仲間の減少」によって子供たちが体を動かす機会は格段に減っています。まさに現代社会の弊害です。使い方によってはベビーカーや抱っこひも、タブレットなど子育てに使われている便利グッズもその弊害を助長しかねません。

原因は子供たち自身にあるのではなく、こういった現代社会そのものにあるのです。そして、これらを解決するにはこの状況を理解し、われわれ大人が意識を高めていくしかないのです。

では、大人はどのようなところに意識を向け、高めていく必要があるのでしょうか? 週1回体操教室に通わせれば良いのか? 体づくりは一朝一夕でできることではなく、また週に1回動いたから変化することでもなく、毎日のほんの少しの積み重ねによって成り立ちます。

短期的な取り組みではなく、長期継続的な取り組みが必要なのです。要するに、意識の矛先は「日常生活」にあるのです。日常生活の中に、子供の体づくりの機会はゴロゴロ転がっているものなのです。

例えば、2~3歳の子供が靴下や靴を自分で履こうとする場面。なんとか履こうとするものの、なかなかうまく履くことができない姿を見つけた経験はないでしょうか? 「もう! 貸して!」「早くして!」と大人がササッと履かせてしまうことは度々あります。特に急いでいる場面はそうです。子育て中にはよくある何気ない光景だと思います。

しかしながら、見方を変えると、大人が子供の大事な体づくりの機会を奪っている場面ともいえるのです。なぜなら、子供が自ら、靴下や靴を履こうと「あーでもない、こーでもない」と足を上げたり体勢を変える行動は、全身の力を使っている大事な動きだからです。まさに体づくりの絶好の機会。体づくりの視点から見ると「ずっと履けなくてもいいよっ」という感じですね(笑)。

普段ついイライラしてしまう子育ての場面でも、体づくりの視点で考えると、笑顔で見守れるようになったりします。「いやいや、朝は本当に時間がないからそんなゆとりはないんですよ!」という声が全国の保護者から聞こえてきそうなので追加説明をしておきます。

そーですよね! 急いでいる時に大人が履かせてしまうのも、イライラしてしまうのもしょうがない! そんな日もあるさ、です。しかし、その場面の裏側には「子供が体を使う機会があったんだ」と大人が理解しているかどうかが重要だと考えています。

体づくりという視点で
子供の行動を見守る

もう1つ、エピソードがあります。ある日、土のグラウンドで娘と遊んでいた時のことです。娘が絵を描いて欲しいというので木の枝を見つけ地面に絵を描きました。喜んでくれるかなと思って娘を見ると、嬉しそうな表情をしながら、その絵をどんどん足でこすって消していくんです。

「おいおい!(笑)せっかく描いたのに……」「もうええわ~」と新たに描くのを止めようと思いましたが、そこで新たな視点の発動です。よく見ると「えっ? 足の指めっちゃ使ってるやん」と思ったのです。

足の指を使うことは脳の活性化に繋がるだけでなく、良い土踏まずの形成にも繋がるんです。ということは良い姿勢づくりにも繋がります。集中も持続するし、勉強だってわかるようになっちゃったりして(笑)。足の指で土の地面をこすって絵を消すことは、「娘にとってええことばっかりやーーーん」と。

そんなことで、私は地面に次々に絵を描き、娘はその絵を足で消す。そんな遊びになっちゃいました。せっかく描いた絵を消すのなら止めよう、となりかけた遊びの「奇跡の復活」です。

子供たちの行動を「体づくり」という視点で見ると、大人の子供への関わり方も変わり、子供も認められ、見守られる機会が増えるのではないでしょうか。子供の成長は、大人の豊かな視点にかかっています。変わるべきは、子供ではなく大人です。この機会にぜひ、子育てにおいて「体づくり」という視点を加え、大人も子供も響き合い、育ち合う響育の機会を広げていきましょう。

PROFILE

阪田 隼也(アフロコーチ)
株式会社リーベ 代表取締役
大学卒業後、小中学校にて、保健体育科講師として勤務。その際、運動が嫌い、遊ばない子供を見て、就学前の体づくりの在り方に疑問を持ち、運動あそびプログラム「リーベ式運動あそび」を開発。全国の幼稚園・保育園で指導を行う。

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FQ Kids VOL.09(2022年冬号)より転載

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