2024.07.19
2022.02.02
2022.01.15
沖縄の離島・久高島にフィールドワークに行ってきました※。久高島は沖縄本島東南端に位置する人口200人ほどの小さな島です。琉球王国時代において、最高の聖域と位置づけられた島。島全体が聖地となっていて、土地の所有が今でも認められず、すべての土地が神様のもの。そんな古くからの習わしが今も息づいている稀有な島です。
※この記事は、2021年春号より転載しています
そこでは日本の多くの地域で失われてしまった伝統的な暮らしが残っていて、島では年長の女性、すなわちおばあちゃんを中心にした母系社会が今も息づいています。女性を守護神とする母性原理の精神文化を伝えており、民俗学的に重要な島とされ、折口信夫をはじめとした多くの民俗学者が訪れた場所です。僕もこの島の女性を中心とした伝統的なコミュニティのあり方に注目してきました。
島の暮らしの中でもっとも重要なのは海です。沖縄では琉球王国時代から海の彼方の異界「ニライカナイ」の信仰があり、人の魂はこの海の彼方からきて、やがて帰っていく、それを繰り返すと神となると考えられています。海そのものが魂の故郷であり、暮らしと分け隔てがなく、いわば神に抱かれた暮らしがあり、海に入るとそこは魂の源となるニライカナイへと身体が接続していくわけです。
人間の身体は、40億年にわたる生命進化の記憶をもっていると言われています。生命は海で生まれ、陸上へと上がってきました。ヒトの胎児は、地球生命進化40億年の歴史を十月十日の羊水の中で経験するのです。
久高島で塩作りの仕事をしながら、「楽園学」を提唱している椚座信(くぬぎざしん)さんはそれを「原点海帰」といっています。海水中の塩分濃度はだいたい血液(体液)の塩分濃度の3倍程度ありますが、そのミネラル濃度分布はヒトの体液中のミネラルバランスと正の相関関係がみられるそうです。
「原点海帰」。久高島で塩作りの仕事をしている椚座信さんとご家族。
地球の生命体は長年の進化の過程で海をうまく身体に取り込み、陸で暮らせるようになりました。私たちは、もう一度、海に帰り、生き物としての当たり前を《体験》していく事で、言語外の言葉で人と海水の関係性を知っていくことができるのかもしれません。肉体という一番身近な自然、一番近い海を通ってきた《体験》により、僕らは論理の外側で気づいていくわけです。
本来、海と人は縁深いつながりがあったわけですが、現代は海と隔絶された生活が送られています。私たちはふたたび、海や森と意識的につながりなおす必要があります。それは「頭」「こころ」「体」の関係性を取り戻すことであり、人と自然が一体となった、日本古来の考え方における「自然(じねん)」の思想を取り戻すことにもつながります。
自然体験から子供が得る経験は非常に貴重です。土の体験、水の体験、草の体験、五感を通じて自然にふれるプリミティブ(原始的)な体験は、人間の魂の成長を優しくサポートしてくれます。五感でとらえることで、はじめてマインドフルな体験が得られます。
良い季節になりました。日本は島国です。都会にいても1時間も電車に乗れば、海が見えてきます。行こうと思えば森や川も近くにあるはず。子供たちと自然の中に出かけてみませんか?
谷崎テトラ(TETRA TANIZAKI)
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデユーサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&コーディネーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
公式サイト:TANIZAKI TETRA OFFICE
FQ Kids VOL.06(2021年春号)より転載
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