LGBTを考える本当の意味って? 子供たちの可能性を左右する違和感との向き合い方

LGBTを考える本当の意味って? 子供たちの可能性を左右する違和感との向き合い方
価値観の多様化や情報発信が進む時代において、あらゆる当たり前を考えさせられる場面が増えた今。子供たちのために大人が大事にしたいこととは? 鶴岡そらやすさんの「LGBTを通して子育てを考える」連載第4回目。

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SNSの普及により
誰もが発信できる時代に

コロナ禍の開催ということで、賛否両論の中で行われた東京オリンピック。今回のオリンピックには「多様性と調和」というコンセプトがあった。それが理由かはわからないが、今回のオリンピックは、自分がセクシャルマイノリティー(LGBTQ)であることを明かして参加した選手の数が、史上最多だったそうだ。

海外ではLGBTQへの差別を禁止する法律ができたり、同性同士の結婚の自由などを保障する国が増えていることも理由の1つだろう。これらの変化は、海外だけに起きている話ではない。日本でも少しずつではあるが変化してきているように思う。

SNSでカミングアウトする若い世代が増えてきていることをご存知だろうか。TikTokでは「#セクマイ」や「#トランスジェンダー」「#ゲイカップル」「#レズビアンカップル」などのタグをつけて、自分たちのことを発信している人たちがいる。私が子供の頃は、自分以外にジェンダーについて悩んでいる同世代がいることを知る術がなかったことを考えると、大きな変化を感じる。

オリンピックで見えた
超えられない「性別」の壁

さて、今回のオリンピックでは、男性から女性への性別変更を公表したニュージーランドのトランスジェンダー女子選手が、初めて女子の重量挙げに選手として出場したことがニュースになった。

女子の部に参加するにあたっては、血中の男性ホルモン、テストステロン濃度が決められた数値を下回っていなければならないなどの規則がある。その基準をクリアした上での参加だったのだが、それでも「不公平だ」という声が上がっていた。結果、その選手は試技に失敗し、記録を残すことができずに終わったが、もしもあの選手が金メダルを取っていたら、どんな風に言われたのだろうか。

一方で、陸上では生まれつき女性として生活しているのに、検査の結果男性ホルモンのテストステロンの血中濃度が高いということで、女子として競技に参加できなかった選手が2名いた。この2名の選手はトランスジェンダーではない。テストステロン値が男性同様の値になる性分化疾患(DSD)と診断を受けていたそうだ。

この場合、大会6ヶ月前までに薬を服用し、テストステロン値を基準以下に抑えなければ400メートルから1600メートルまでの競技には参加できないと決められているが、薬を服用しないことを選択したため、400メートルに出ることが認められなかった。そして、規定対象外の200メートルに出場し、1人は予選で20歳以下の記録として世界新となるタイムをマーク。さらに決勝では銀メダルを獲得し、もう1人は6位入賞と活躍した。そのことで再び議論が起きているそうだ。

競技として順位をつける以上、ルールや線引きは必要だと思う。競技が男性、女性というカテゴリーに分かれているのだから、男性と女性の定義をしなければならない。では、どこで線引きするのが正解なのだろうか。遺伝子レベルの話なのか、生殖器の形状なのか、それともホルモン値で決めるのか。客観的な判断ができないものを基準にはできないだろうから、ジェンダーアイデンティティで決定するわけにはいかないし……と考えていくと、頭の中に大混乱が起きる。

馬術のように、男女が一緒に戦う競技もあるし、競技の特性によっても基準は変わるだろう。もし、あなたが子供から聞かれたらどう答えるだろう? よかったら考えてみていただきたい。

正解への違和感
男性と女性の線引きとは?

世の中には、正解が1つではない、どれが正解と言い切れない問題がゴロゴロと転がっている。誰かにとっての正解は、誰かにとっての不正解でもある。今、正解だと思っても、数年後には大間違いということもある。私たちは意識しているかどうかに関わらず、常に「正解」のない問題を自分の力で解いて生きている。

それでも少し前までは、多くの人が「正解」と思っている模範解答のようなものがあったような気がする。それってなにかおかしいんじゃないか? と思う人がいたとしても、「その感覚自体が間違っている」とか、「みんなそうしているのだから正解の方に合わせるものだ」と、考えることを放棄してきたこともたくさんあったのではないだろうか。

当たり前とされてきた
ルールを見直すフェーズに

例えば、昔の学校の女子の体操着は、ブルマだった。最近は男女ともハーフパンツになっているが、私が子供の頃、昭和の時代は、女子はブルマが「常識」であり「正解」だったのだ(ブルマが好きで履いていた子はいないのではないだろうか。私はずっと嫌だなあと思っていた)。

しかし、それが当時の「正解」であり、男子の履いているショートパンツ型のものが履きたい、などと言える雰囲気ではなかったし、言ったところで聞いてもらう余地など、私の知る限りはなかった。

では、もしも今「日本中の女子の体操着をブルマに戻します」と言ったらどうなるだろうか。おそらく大バッシングだ。「そんなのおかしい!」「なんのために?」となるだろう(今となっては、なんであれがOKだったのか不思議ですらある)

他にもある。昔、運動部でよく行われていたのが「練習中は水を飲んだらいけない」という指導だ。私は中学時代剣道部だったのだが、2時間の稽古中は水を飲んではいけないと言われていた。真夏は本当にきつくて、顔を洗うふりをして、先生に見つからないようにこっそり口に水を含んで飲んだこともあった。よく倒れなかったものである。

もしも今そんな指導をしたら、大変なことになる。現在では、運動中20〜30分に1回のペースで、200ml程度の水を飲むように、というのが「常識」になっている。

答えがなんとなく統一されていた(そういうものだから、と考えようとも思わなかった)ことも、世の中の価値観が多様化してくるに従って、オリンピックにおける選手の参加条件のように「本当にそうなのだろうか、本当にこれでいいのだろうか」と見直す必要が出てきたのだ。これはスポーツの世界に限ったことではない。子供たちの教育についても同じことが言える。

「なにか違う」と感じたら
自由に発信できる世界に

コロナ禍でオンライン学習が導入され、学校に通わなくても勉強できることがわかった今となっては、学校とはそもそも何なのかを考える必要が出てきた。勉強するだけならば家でもできるのだから。じゃあ学校は一体何のためにあるのだろう。集団生活を学ぶ場? ルールを身につける場? そうだとしたら、そのルールは時代に即したものになっているのだろうか。

子供たちにとって、自分がよりよく変化できる場としての学校のあり方とは何なのだろう。みんなと同じがいいのだろうか。校則は必要なんだろうか。宿題はなんのためのものなのだろうか。個性って一体何なのだろう。親の役割、教師の役割は、何をすることなのだろう。

いちいちそんなこと考えるのは面倒だ! 多様性なんて煩わしい! と思う人もいると思う。「何でもかんでも見直せ、多様性を尊重しろっていうけれど、少数派の意見を押し付けられているようで不快だ!」という声を聞くことも珍しくない。そういう意見も尊重されるべきだし、私だって「考えなくて済むことならその方が楽だ」とも思うこともある。

それでも私は多様性を大切にすることは可能性を大切にすることだと言いたい。考えなければいけない、のではなく、考えるチャンスができた、と捉えてみてもいいのではないだろうか。

「1人1人のアイデア次第で、答えがいくらでも出せる時代が来たんだよ。すでに用意された答えをただ鵜呑みにするのではなく、より自由な世界、より明るく豊かな未来を作るために、広い視野で世界を見よう。自分と違う考えを持っている人の言葉からヒントをもらおう。違和感を大事にして、気づいたことを伝えてみよう」そんなふうに子供たちに言える大人が増えれば、多様性を可能性に変えられる未来は必ずやってくる。その一助として、このコラムがお役に立てば幸いである。

PROFILE

鶴岡そらやす
合同会社Be Brave代表。幼少期を父子家庭で育つ。公立小・中学校で教員として15年勤務し退職。授業をしない自立型学習塾を経営。生徒自身に気づきを促すコーチング力で、主体的に学ぶ姿勢を持った子供たちを育成。2018年、自身がトランスジェンダーであることを公表。企業向け講演や研修、LGBTや不登校などの保護者向けセミナーを行う。著書に「きみは世界でただひとりおやこで話すはじめてのLGBTs」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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FQ Kids VOL.08(2021年秋号)より転載

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