ゲームで培われた「本質を見抜く力」ストリーマー・NOBUOさんが語る無限の可能性

ゲームで培われた「本質を見抜く力」ストリーマー・NOBUOさんが語る無限の可能性
世界的な人気ゲーム『マリオカート』。その世界大会で6回も優勝をしたのがNOBUOさんだ。難病「線維筋痛症」の闘病を経て、世界1へ。ゲームと子供たちをテーマに、今の気持ちを語ってもらった。

「誰かの人生を救う力がある」
ゲームに秘められた可能性

任天堂の人気ゲーム『マリオカート』シリーズの世界大会において、6度も頂点に輝いたNOBUOさん。ゲームに触れ始めたのは、まだ物心がつく前からだったという。

「僕には歳の離れた姉が2人いて、よく姉や姉の友人たちとゲームをしていました。その中で勝ったり負けたりと良い勝負をしていたので、同級生と対戦して負けたことはなかったですね(笑)」。

3歳の男の子が10歳ほどのお姉さん・お兄さんたちといい勝負を繰り広げていたというのだから驚きだ。小さい頃から負けず嫌いな性格だったからか、その後中学生の時に全国大会優勝を果たす。しかし当時はまだeスポーツという言葉もなく、あくまで中学生。学業とゲームの両立はどうしていたのだろうか。

「勉強はそんなに好きではありませんでしたが、宿題はきっちり終わらせるようにしていました。やらなきゃいけないことを後回しにしてゲームをしていると、なんか後ろめたさを感じてしまって。ふとした時に勉強や家の手伝いのことが頭をよぎると、ゲームタイムにも影響してしまうんです(笑)。

邪念を払うためにもいかに効率良くタスクを終わらせるかを考えて。それで余った時間を全てゲームに費やしました。まるで“タイムアタック”さながらです(笑)」。

宿題や家の手伝いでも“ゲーム的思考”を忘れない。そして突然の病魔がNOBUOさんを襲ったのは、18歳の時のことだった。

「ある日、身体のだるさを感じたんです。最初はただの熱かと思ったのですが、そこから身体のあちこちに痛みを感じるようになってきて。2週間後には身体が動かせなくなり、そしてそこから半年間はずっと寝たきりで。正直あの時はもうこのまま死ぬのかな、って本気で考えていました。でもベッドに寝たきりの僕でも唯一できたこと……それがゲームだったんです」。

原因不明の病として、当時は病名すら分からなかったが、後に「線維筋痛症」(※)だったことが、ようやく2018年に判明した。

「どうせ死ぬなら、と本気になってゲームに取り組みました。なんというか自分が生きた証を立てたくて。それで2008年に行われた『マリオカート』初の公式世界大会で優勝したんです」。

病気は仕方のないこととはいえ、自分を誠心誠意支えてくれる家族への申し訳なさを感じてしまうこともあった。子供の頃からゲーム一筋だったNOBUOさんに対して、ご家族はどう思っていたのだろうか。

「小さい頃からゲームをするな、と親に言われたことはありません。もちろん僕が宿題や家の手伝いをやった上での話ですけど。好きで始めたことなら、とことんやってみなさい、と。親もゲームは嫌いではなかったようで、タイムを上げることに熱心になっていた僕に、もっとこうしてみたら? と、いろいろ提案をしてくれたり。今思えば、ゲームが親子のコミュニケーションツールのような役割をしていた気がします」。

eスポーツという言葉が熱を帯び始めて久しい昨今。eスポーツ選手を目指してゲームに没頭する子供たちも多い中、ゲームに対して懐疑的な保護者も決して少なくはない。その点についてはどう思っているのだろうか。

「ゲームは娯楽、だと思うのは自然なことです。ただどんなゲームでも、勝つためには本質を見抜かないといけません。その本質を見抜く力が身につけば、実生活の様々な局面で役に立ちます

例えば僕が高校の時、わずか半日程度しか勉強時間を確保しなかったにも関わらず、数学で学年トップの点数を取ったことがありました。その時僕が実践していたのは、公式を覚えて頻出される応用問題を繰り返し解いて、叩き込んだだけ。

これは『マリオカート』の要領とほぼ一緒なんです。“ここだけは抑えておかないといけないポイント”のようなものが、数学にも『マリオカート』に存在する。……これは少し極端な例かもしれませんが、勉強だけでなくスポーツや仕事などでも、ゲームをしていたことで培われていく力って意外とたくさんあるんです」。

スマホゲームにインターネットゲームなど、今やほとんどの子供は何かしらの形でゲームに触れる機会がある。だからゲームには、子供たちの1番側にいる存在であって欲しいと、NOBUOさんは願う。

「子供たちにとってゲームとは、家族や友人といった他者とのコミュニケーションツールであり、学校では学べないことを学ぶ場所になる。そして病床の僕のように、何か辛いことがあった時には、そっと寄り添ってくれる居場所にもなる。ゲームにはそんな無限の可能性がある。大袈裟ではなく、人を救えるほどの力があるんです」。

最後に今後はゲームで誰かを救えるような事業を展開したいと、自分の夢を熱く語ってくれたNOBUOさんの目は優しく、それでいて凛とした強さが宿っていた。子供がなりたい職業に「ゲーマー」とあげることがある。「ゲームなんて」と思うことなく。ぜひ子供の夢に寄り添ってほしいと願う。

PROFILE

NOBUO
ストリーマー/元プロゲーマー
中学生の時に任天堂の人気ゲーム『マリオカート』において全国大会優勝を経験。18歳の時に難病である線維筋痛症(※)を発症。一時は寝たきりの生活も経験し、現在もなお闘病中。闘病しながら挑んだ『マリオカート』シリーズ任天堂公式世界大会では、通算6度の優勝経験を持つ。現在はストリーマーとしての活動を中心に、ゲームの魅力を伝える新規事業を計画中。

(※)身体の広い範囲に痛みやこわばり、疲労感、不眠、頭痛やうつ気分といった様々な症状を伴う病気。原因はいまだに解明されていない。


写真:渡邊眞朗 
文:内藤祐介

FQ Kids VOL.05(2021年冬号)より転載

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