5歳までに非認知能力を伸ばす「インクルーシブ保育」がいま期待されている理由とは?

5歳までに非認知能力を伸ばす「インクルーシブ保育」がいま期待されている理由とは?
いま、子どもたちへの「インクルーシブ教育」が注目されている。そのメリットや重要性について、インクルーシブ保育を実践するどろんこ会グループの安永愛香さんに伺った。

【非認知能力を伸ばすインクルーシブ教育とは】
注目度が高まる新しい教育アプローチ

異なる背景や特性を持つ個人が尊重され、平等な機会を持ち、活躍できる環境を築くことを目指す概念として「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が日本で広まり始めたのは、約20年ほど前。

さまざまな個性や視点を尊重しつつ共に協力し合うことで、より多様な解決策やイノベーションを生み出せることが期待され、この頃から企業や組織では、多様性や包括性を重視する動きが顕著に見られるようになってきた。そしていま、子どもたちへの教育においても「インクルーシブ教育」が徐々に注目度を高めている。

「インクルーシブ保育」を実践するどろんこ会グループ理事長の安永愛香さんに、その重要性や実践方法を教えてもらった。

【非認知能力を伸ばすインクルーシブ教育とは】
乳幼児期からのインクルージョンの重要性

インクルーシブ教育とは、すべての子どもたちが特別なニーズや背景にかかわらず、同じ学びの機会を得る教育アプローチのこと。障害や文化的多様性を含め、すべての生徒が一緒の教室で学び、適切な支援を受けながら自分らしく成長することを重視する。

これまで日本の子どもたちは認知教育のために障害の有無によって分離され、障害のある子には使うものや活動などをすべて指定・制限して守るという支援が望ましいとされてきた。

「子どもたちにとってインクルーシブ教育は、障害の有無にかかわらず共に過ごすことで、助け合いやぶつかり合いを通して他者と協働する力や感情をコントロールする力、トラブルを調整する力を身につけたり、自分の得意なことを探索できるというメリットがあります。

特に発達障害児には、“自分の気持ちに折り合いをつける力”や“葛藤を調整する力”を体得していくことは、就学以降も集団の中で暮らしていく大きな礎となります。

親がいなくても自分の足で人生を歩んでいくための生きる力=非認知能力を育むためには、自分で探索や思考をしたり、分離・制限されずにあらゆる人や物に関われる経験が必要です」と安永さんは語る。

子どもたちが幸せに生きるために必要なスキルである非認知能力は、5歳までの環境が大きく影響する後天的スキル。つまり、乳幼児期からのインクルージョンがとても重要なのだ。

【非認知能力を伸ばすインクルーシブ教育とは】
国連からの改善勧告!
動き出す日本のインクルーシブ保育

写真提供:どろんこ会

年齢の違いや障害の有無にかかわらず、また子どもも大人も「混ざり合って育ち合う」=「インクルージョン」をキーワードにした子育てを実践するどろんこ会グループ(1998年設立)は、インクルーシブ保育のパイオニアとしても知られる。

安永さんは、10年ほど前から「認可保育所+児童発達支援センター・事業所の完全併設施設」の開設・運営に注力してきた。安永さんの目指す完全併設とは、「保育園の子・障害児施設の子が完全に混ざって生活する」「保育園スタッフ・障害児施設スタッフが双方の子を支援する」ことで完全なるインクルーシブ保育を実現する施設だ。

従来の省令では、児童発達支援に通う子を保育園の保育室で保育することや、児童発達支援センター・事業所側のスタッフが保育園に通う子どもを支援することが認められず、インクルーシブ保育の実現はなかなか難しかったそう。

2015年にグループ初となる認可保育園と児童発達支援事業所を併設したインクルーシブモデルを東京都に立ち上げ、その後も埼玉県、千葉県、神奈川県、福島県、茨城県に計12(2024年1月時点)の施設を開設してきたが、自治体との事前交渉や建設設計など、実現に至るまでにはさまざまな課題があったそうだ。

どろんこ会の認可保育所と児童発達支援事業所の併設施設(2024年1月時点)
●東京都世田谷区:駒沢どろんこ保育園/発達支援つむぎ 駒沢ルーム
●埼玉県ふじみ野市:ふじみ野どろんこ保育園/発達支援つむぎ ふじみ野ルーム
●埼玉県桶川市:メリー★ポピンズ 桶川ルーム/発達支援つむぎ 桶川ルーム
●東京都足立区:北千住どろんこ保育園/発達支援つむぎ 北千住ルーム
●東京都調布市:つつじヶ丘保育園/発達支援つむぎ つつじヶ丘ルーム
●千葉県君津市:宮下どろんこ保育園/発達支援つむぎ 宮下ルーム
●神奈川県横浜市港北区:新羽どろんこ保育園/発達支援つむぎ 新羽ルーム
●福島県郡山市:八山田どろんこ保育園/発達支援つむぎ 八山田ルーム
●千葉県君津市:内箕輪どろんこ保育園/発達支援つむぎ 内箕輪ルーム
●茨城県つくば市:香取台どろんこ保育園/発達支援つむぎ 香取台ルーム(学童保育室、放課後等デイサービスも併設)
●神奈川県海老名市:メリー★ポピンズ 海老名ルーム/発達支援つむぎ 海老名ルーム
●埼玉県朝霞市:メリー★ポピンズ 北朝霞ルーム/発達支援つむぎ 北朝霞ルーム

 
そして2022年、国連(障害者権利委員会)からの「障害のある子どもにインクルーシブ教育の権利を」「障害児を分離した特別支援教育を中止し、普通学級への就学を認めるように」という勧告があり、同年に厚生労働省から省令改正が発出。

2023年4月からようやく、保育園と児童発達支援センター・事業所双方が同じ施設を共用でき、スタッフも双方の子どもの支援ができるようになった(=完全併設が可能になった)。

※利用児童の保育や障害児の支援に支障がない場合に限る

東大和どろんこ保育園/子ども発達支援センターつむぎ 東大和(仮称)のイメージ

今年4月には、どろんこ会の児童発達支援センターと認可保育園に一切壁がない多機能型施設が、東京都で初めてオープンする。子どもたちが共に活動できる環境はもちろん、専門士を配置し、1人ひとりの発達状態に応じたきめ細かな支援を行うことで、真のインクルージョンを目指しているという。

すべての子どもたちが、幸せに生きていけるスキルを身につけるために大切なインクルーシブ教育。現在、どろんこ会には多数の問い合わせや視察希望があるそうだ。ようやく日本でも本格化してきた教育への新たなアプローチに、今後も注目したい。

CHECK!

どろんこ会グループでは、小学校へのスムーズな継続や、就業への得意探索にも注力している。

東京都西東京市にオープンした多機能型事業所「就労支援つむぎ 武蔵野ルーム」では、働く大人の姿を実際に見ることで子どもたちが自然と職業や仕事に興味を持てるようにと、中高生を対象とした放課後等デイサービス・就労支援の利用者の作業場・同じく利用者が働く「TSUMUGI CAFE(つむぎカフェ)武蔵野」がワンフロアになっている。

カフェのキッチンは保育園の調理室と同じ造りで、給食調理の練習にも。

カフェ自慢のスパイスカレーはオリジナルレシピ。美味しいハンドドリップコーヒーは施設内で焙煎も行っている。

DATA

どろんこ会グループ
(社会福祉法人どろんこ会、株式会社ゴーエスト、株式会社日本福祉総合研究所、株式会社南魚沼生産組合、株式会社 Doronko Agri)
全国約160ヶ所に認可保育園、認証保育所、事業所内・院内保育所、学童保育室、地域子育て支援センター、児童発達支援センター、児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、就労継続支援B型事業所などを運営。1998年設立。職員数約2200人。施設利用者数約9000人(2023年6月現在)
ホームページ:www.doronko.jp

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文:FQ Kids編集部

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