子供の思考を養う「お絵描き」の極意とは? 上手に描くことよりも大切な視点の持ち方

子供の思考を養う「お絵描き」の極意とは? 上手に描くことよりも大切な視点の持ち方
「描く」というアウトプットとインプットのサイクルは思考にとてもいい作用をもたらすと語る、「にほんごであそぼ」のアートディレクターを務める佐藤卓さん。上手に描くことよりも大切にしたいこととは?

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思考に大切なのは、
「考えずに描く」こと

以前、NHK「デザインあ」制作チームで、『デザインあ かくほん』という本を作りました。「描く」という行為は、自分の手の筋肉を使って、自ら鉛筆を持って、それを動かして、線を描きます。「描く」ことで、自ら発せられた自発的な表現が、自分の目に入って再び自分の中に戻ってきます。アウトプットと同時にインプットをする行為なのです。

この「描く」ということは、思考をするにあたってとても良いことだと思っています。現代社会において、描かずに頭の中で考えて終わらせている人が非常に多いと感じます。頭の中だけでぐるぐるしていると、行き詰まってしまいます。

言葉化したり絵に描いたりして頭の中からいったん外へ出して、その後、もう一度自分の中に戻して、出し入れを何度も繰り返していると思考が始まり、そのうちに先が開けていきます。このサイクルが非常に重要で、子供の頃から習慣にしていくといいと思います。

ポイントは、「まず描く」こと。考えてから絵を描くのではなくて、何も考えなくていいから、反射的に線を描くのです。描き始めたら、それを見ている自分がそこにいます。そこから生まれる発想があります。だから、「まず考えない」ことが重要です。

「まず考える」と、意識が優先されてしまいます。しかし、人間には言葉にできない・言葉にならない感情が、内側にたくさん渦巻いています。意識や理屈ばかりが先行する人間になると、理論的ではあるけど、何もできなくなってしまいます。「まず考える」のではなく、赤ちゃんみたいに「まず手を動かす」。出てきた線がぐちゃぐちゃで形を成さなくてもいいんです。

“みんな同じ絵”は大問題
描くことの本当の面白さとは

人が成長し、意識が生まれてくると、太陽の描き方も、お母さんの顔の描き方も固定化されていきます。ある幼稚園に絵を見に行ったら、みんな同じ絵ばっかりで驚きました。「まず考える」が先行するから、みんな同じ絵になってしまうのです。これは大問題だぞ、と感じました。

あれこれ考えずに、まず描き始めてみる。その後、「あれ? これ何かに見えるぞ」とイメージを膨らませていきます。「だったらこうしちゃおうかな?」と、そこから新しいものが生まれていくものです。子供たちにこそ、そんな面白さを存分に感じてほしいですね。

意味は後からでいいんです。私たちデザイナーもそうですが、「あ!」とアイデアが生まれた瞬間はまだ言葉になっていません。良いか悪いかもわからない状態です。シンボルマークを作る時は特に、「あ、これってもしかして、いいかも?」と思って絵に描いて、だんだん見えてくるのです。考えがまとまってから描こう、なんて思うと、手が動かなくなっちゃいます。

手が動かない原因の1つは、きれいな紙に絵を描きすぎること。美しいスケッチブックだともったいなくて、無駄な線が引けなくなります。新聞の折り込み広告の裏が白かったら、チャンスですよ。だって気楽に描きはじめて、いくらでも試行錯誤しながら失敗できるわけですから。

絵を描く子供に教えてあげたい
さまざまな視点の持ち方

子供が4歳、5歳と成長していくにつれて、未だにそれっぽい絵が描けない、ぬり絵の枠をはみ出してぐちゃぐちゃに塗りたくってしまう……などと気にされる親御さんもいますよね。

私がもしアドバイスするなら、「思いきりはみ出させてください」とお伝えします。「このはみ出し具合、いいねえ!」とぜひ褒めてあげてください、と。きれいに塗るなんて、そのうちみんなができるようになります。

私も幼い時、グラフィックデザイナーの父から描いた絵を批評されることは一度もありませんでした。ただ、描く道具が身のまわりにあっただけです。もし子供に描き方を教えてあげるとしたら、「カタツムリはこう描く」と教えるのではなく、「カタツムリ」という生き物そのものに、親が興味を持つ姿勢を見せることが大切です。

「下から見たらこんな風になっているんだね」「よく見るとこんな色をしているんだね」など、親がカタツムリを面白そうに見ていれば、子供はいろんな視点の持ち方があることを学ぶことができる。そんな風に、子供が独自の視点で見たものを自分なりに絵にしたら、きっと個性的で面白い絵が描けるでしょうね。

だから親は子供に既成概念を植えつけてはいけません。また、ちゃんと描けるようにならなければいけないというプレッシャーも不要です。炸裂した子供の絵を「何だこれは?」とか「これじゃ何だかわかんない」なんて言ったら、もう最悪です。そういう絵ほど、「サイコーだね!」と褒めてあげてください。「上手に絵をかくこと」に、何の意味もありませんから。

できれば子供をさまざまな美術館や展覧会に連れて行ってあげられるといいですね。現代美術など、それまでの概念を壊したアートに触れられれば、大人自身も既成概念にとらわれなくなるかもしれません。

PROFILE

佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。

PICK UP!

『マークの本』
佐藤 卓/著・文(紀伊國屋書店)¥2,750(税込)

自らが手掛けたシンボルマークやロゴの制作背景にある思考と技術を解説した、2022年5月発売の新刊。卓越した技術で細部まで磨き上げられた秀逸なマーク120点を、関連図版とともにオールカラーで収録。

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文:脇谷美佳子

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