2022.11.25
2024.03.29
2022.04.21
学力やIQなどを指す認知能力と、数値化できない非認知能力。昨今は、非認知能力の大切さが見直され、社会にも浸透しつつあるが、かといって認知能力をないがしろにしていいわけではない。
30年近くにわたる小学校教諭の経験を持ち、現在は乳幼児教育を研究する白梅学園大学子ども学部教授の増田修治先生。増田先生は、非認知能力の大切さを説く一方、「非認知能力を伸ばせばすべてが解決する」というような、昨今の非認知能力至上主義には異を唱える立場だ。
「非認知能力は大切ですが、万能ではありません。アメリカのある研究では、小学校2年生までに到達した認知機能が、70歳時の認知能力やアルツハイマー病にも関係するという結果もあります。8歳までに認知能力・認知機能をどれだけ高められるかが、生涯にわたり影響するのだ、と。認知能力を高めるための乳幼児教育も、やはり大切なのです」。
そう語る背景にあるのが、増田先生が取り組むテーマのひとつ、小1プロブレムだ。指示通りに行動できない、授業中に教室内を歩き回るなど……。小学校1年生を対象に、認知機能を測る図形や言語のテストを実施したところ、小1プロブレムが顕在化する学級では、著しく低い点数となったという。
「認知機能、認識能力が弱い子供は、認知の歪みが生じます。つまり、先生の言っていることをきちんと受け止められない。認知の機能が弱ければ、黒板の文字も写せません。非認知能力のひとつとしてコミュニケーション能力がよく言われますが、相手の言っていることをきちんと汲み取っていく能力とは、実は認知機能のひとつです。つまり、非認知能力だけを育てていけば小学校での学びについていけると、安易に考えられないのです」
非認知能力と認知能力は、実は密接な関係にある。
1960年代、スタンフォード大学の心理学者・ミシェル博士が作った「マシュマロ・テスト」という有名な心理テストがある。4歳児の目の前にマシュマロを置き、「15分間食べるのを我慢できたら、2個にしてあげる」と言って立ち去る。その子が我慢できるかどうかを観察する、というシンプルなテストだ。
この実験では、非認知能力のひとつ“自制心”の有無がわかるが、その後の追跡調査結果が興味深い。
15分間待てた子供は、少年期、青年期においても学力が高く、一方、待てずにマシュマロを食べてしまった子供は、学力が低いという傾向が明らかになったという(他にも肥満傾向などが判明)。幼少期での非認知能力の差が、その後の学力にも関係していたというわけだ。
「ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のヘックマンは、『非認知能力がその後の認知能力の発達を促し、その逆は確認できない』と結論づけています。また、近年日本でも深刻化している貧困下の子供は学力が低い傾向にありますが、非認知能力が高い子供は貧困下でも学力が高いという調査結果もあります。
非認知能力と認知能力は関係し合っていて、確かに非認知能力が高くなれば認知能力は高くなります。さらに、その高くなった認知能力を使って、新しい非認知能力を獲得するという螺旋階段的な関係性もある。でも、その階段は勝手に上れるものではなく、大人の働きかけが大事。しっかりとした乳幼児教育が必要なんです」。
では、どのような意識で子供に“働きかけ”をすればいいのだろうか。
「子供のやりたいようにただ遊ばせるだけではなく、知的刺激を与えてあげること。子供の興味関心を引き出し、おもしろい、楽しい、やってみたいという人間本来の探究心と繋げることです。さらに発表体験などを通し、その子の知識を他の子にも共有させることで、より興味や理解を深めていくことも大切です」。
非認知能力→認知能力→非認知能力という成長の螺旋階段。この階段を着実に上れたら、学力も人間力も絡み合うようにして伸びていく。
自制心の有無を調べるための有名な心理テスト。4歳児の目の前にマシュマロを1つ置き、「15分間待てたらもう1個あげる」と言って立ち去り、その結果とその後の追跡調査を行ったもの。
15分間待てた子供は、全体の3分の1。その後の調査では、学力や教育水準の高さ、誘惑への強さ、肥満率の低さが顕著に見られた。一方、待てなかった子供は、すべての項目で相反する傾向が浮き彫りに。4歳時の自制心が、その後の社会的成果にも影響している。
いろいろな野菜や果物を用意し、浮くもの、沈むものを考える。結果を見て、どうしてなのかを考えさせ、意見を出させる。「学びは、『疑問』を起こさせることが重要。正解を教える必要はありません。楽しみながら考え、意見を出し合うこと自体が学びになります」。
ちなみに上記のなかで沈むのは、⑥ニンジンと⑧レンコンのみ。「レンコンは、穴が空いているから浮く」「ナスはピカピカしているから浮く」など、実際にとてもユニークな回答も。
増田修治先生
白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。1958年生まれ。埼玉大学教育学部卒。小学校教諭として28年間勤務経験を持つ。初等教育の教員育成に携わるとともに、保育・幼児教育・小学校教育における子どもの発達や学力、いじめなど多様な課題に取り組んでいる。著書に、『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)、『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿を育む保育実践32』(黎明書房)など多数。
文:曽田夕紀子
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