2022.04.25
2024.09.23
2020.03.31
――アンケート調査の詳細を教えていただけますか?
25歳から34歳の社会人男女2,700名を対象に、「あなたは幸福か?」「生活に満足しているか?」「グローバルネットワーク社会へ適応しているか?」という3つをテーマに、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科とヤマハ音楽振興会で調査しました(調査概要はこちら)。
――習い事経験別ランキングではヤマハ音楽教室が1位ですね。
中学までの習い事経験別ランキングでみた「幸福度」では、ヤマハ音楽教室に通っていた人が第1位※となりました。私も子供時代にヤマハ音楽教室に通っていたので、その結果に正直、驚きました。
――先生が専門とする「幸福学」とはどのような学問でしょうか。
幸せに関する質問を行って、その結果を統計的に処理して「どういう人が幸せなのか」を研究し実用化する学問です。海外ではHappiness StudyとかWell-being Studyと呼ばれている学問で、私が「幸福学」と名付けました。モノの豊かさよりも心の豊さを重視する人が増えている現在、世界中で盛んに研究が行われています。
――幸福学の実用化というと?
経営やサービス、ものづくり、ハウジングなどあらゆる分野です。経営の分野では『幸せな職場の経営学 ~「働きたくてたまらないチーム」の作り方~』(小学館)にまとめています。
――先ほどの幸せに関する質問とは、どのような内容でしょうか。
幸福度を測る「現在、あなたは実感としてどの程度幸せですか」について、0点から10点を主観で答えてもらうものです。いわば自己評価による幸せ成績表ですね。
一方、客観的幸福とされている「成績が良い」「友人が多い」「収入が多い」という指標がありますが、お金が人を幸せにするとは限りません。主観的な調査を基盤に幸福研究を行うことが、国際的にも幸福学の主流です。統計学の手法を使うことで、「幸福度」を科学的に定量化できるようになりました。
――「あなたは幸せですか?」以外、どのような質問があるのでしょう。
「あなたは生活に満足していますか」という生活満足度を測る質問です。「幸福度」も「生活満足度」も内閣府による国民生活選好度調査などで用いられる指標ですが、音楽系の習い事経験層と未経験層の平均点を比べてみると、「幸福度」も「生活満足度」も音楽経験層のほうが幸せを実感していることがわかりました(調査結果はこちら)。
※調査結果報告にも記載されているとおり、このランキングは交絡要因を調整しておりませんので、それぞれの習い事単独の差異とは言い切れませんが、他の習い事をしている人も幸福度が向上する傾向がありそうです。そのため本調査の結果は、「音楽系の習い事だけが幸せになれる」 という意味ではありません。
――なぜ子供時代にヤマハ音楽教室に通った大人は幸せなのでしょうか。
私も子供時代にヤマハ音楽教室に通ったうちの1人です。当時、通い始めたばかりの頃、一生懸命に1本指で「♪ド・ド・ドーー、♪ド・ド・ドーー」と弾いたんですよね。すると隣で私より上手な子が、それに合わせてメロディを弾き始めたのです。その瞬間、ものすごく感動した思いがあります。
――他者と1つの曲を演奏する、いわゆるアンサンブルですね。
「1つの曲をみんなで弾く」という行為は、非常にシンプルです。しかし、1曲を最後まで演奏し終えることで得られるものには、本当に計り知れないものがあります。
普通のピアノ教室では個人の演奏技術の向上が主眼ですが、ヤマハ音楽教室は「グループレッスン」が基本。グループレッスンを通じて、「協調性」「人のために演奏する喜び」「ふれあいの楽しさ」を学んだように思います。
――音楽系習い事経験層は、非経験者に比べて中学3年生の頃の学業成績も良いという結果も驚きました。
「音楽を習うことと学校の成績とは相関関係がある」という説は以前からありました。もともと成績が良いお子さんが音楽を習う傾向があるという可能性もありますし、音楽を習うことで「学びの姿勢」が身につくという可能性も考えられます。
――「学びの姿勢」の基礎要素がヤマハ音楽教室のレッスンに取り入れられているのですね。
仮説ですが、音楽というのはメロディを情感豊かに奏でる「感情的な側面」に加え、ロジカルで理詰めに考える「理論的な部分・数理的な側面」もあります。これら論理性を、体感を通じて身につけられるメリットが音楽にはあると考えます。
――情操と論理的・数理的の両輪が養われるのですね。
また、繰り返し練習することで技術を身につける「粘り強さ」も培うことができる。さらに先生との関係・グループレッスンでの仲間との関係を通じて「協調性」も養えます。
私も当時はうまく弾けないことが悔しくて悔しくて、泣きながら練習をしていました(笑)。きっとその粘り強さが、今の仕事に生かされているのでしょう。
――人が幸せを感じる具体的な因子についても教えていただけますでしょうか。
これまでの研究で、4つの因子があることがわかっています。
――音楽系以外の習い事も調査されたのでしょうか。
スイミングやサッカー、英語教室、塾などいろいろな習い事を調査しました。音楽の習い事の中でも「ヤマハ音楽教室」が、個人のピアノ教室などと比較しても、幸福度が高いという結果でした。特に「ありがとう因子」と「やってみよう因子」が高いことがわかりました。
――「幸福度」と合わせて「グローバルネットワーク社会へ適応しているか」も調査されていますね。
それが「多様性適応力」です。これからますますグローバルなネットワーク社会が進む中、多様な人間と接する能力があるかどうかを計測する指標です。慶應義塾大学 大学院システムデザイン・マネジメント研究科が開発した「多様性適応力評価尺度」で計測します。
――どのようにして「多様性適応力」を計測するのでしょうか。
次の8つの因子があります。「個性を発揮する力」「挑戦意欲」「俯瞰(ふかん)力」「創造力」「利他精神」「許容力」「信頼関係構築力」「コミュニケーション力」です。この 8つが多様な人材が集まる中で自らの個性を発揮し、物事を達成していく力になります。調査結果によると、幼少期に音楽の習い事をした人は 8つの因子のうち 7項目で平均を上回りました。
――たとえば「創造力」ではどのような質問をするのでしょう。
「人が思いつかないような斬新なアイデアを出すことが多い」「色々と工夫して新しい物を作り出す力を持っている」「今までの価値観にとらわれずに自由に発想することの大事さを知っている」などです。これらの質問に関しては、音楽教育経験層は全て平均点が未経験層よりも上回る結果でした。
――音楽教育経験層は「自己肯定感」も高いのですね。他に特に高いスコアの因子はありますか?
ありますよ。それは「信頼関係構築力」です。私見ですが、スポーツでもチームプレーはありますが、本質的に戦って勝つものです。一方、音楽のアンサンブルは、非常に調和的です。1つの曲を演奏することによって、仲間との信頼性を構築する力が強まるのではないでしょうか。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
前野隆司(まえの・たかし)
1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。
文:脇谷美佳子
写真:渡邊眞朗
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